世界遺産NEWS 16/09/07:ボロブドゥールとタージマハル、入場制限を検討
8月30日、インドネシアの教育文化省は世界遺産「ボロブドゥール寺院遺跡群」について、1度あたりの入場者数を15人に制限する計画を発表しました。
ボロブドゥールは仏教三大遺跡のひとつに数えられるジャワ島の寺院で、年間200万~300万人が訪れるインドネシア屈指の観光地です。
基壇→方形壇→円壇と続く3界9層のピラミッドは俗世間から悟りに至る道程を示しており、とても神々しい造形です。
担当官の話として伝えられた内容によると、昨今観光客のゴミ捨てやタバコの吸引・小便・無許可の撮影などが横行し、寺院に対する敬意や規律に欠け、由々しい事態に陥っています。
遺跡の保護・保全のために規制が必要になりつつあり、15人という人数については寺院の構造調査などから算出した数字であるようです。
以前から言われていたことですが、毎月数十万人という人数が寺院を登るとその重みであちらこちらにひずみ・ゆがみが出てしまい、保全のための修復がつねに必要になってきます。
こうした背景もあるのだろうと思います。
しかしながら15人という人数はあまりに少ない数字で、時間制限を設けない限り長蛇の列は避けられないともしています。
年間250万人として1日あたり7,000人ですから、15人では到底さばききれません。
実行するのであれば厳しい時間制限か、1日あたりの入場制限を併用することになるのでしょう。
こうした制限に加え、立入制限区域の設定や、文化大使の育成をはじめとする子供たちへの教育・啓蒙活動も推進していくということです。
また、近郊の世界遺産「プランバナン寺院遺跡群」に対しても同様の施策を検討しているようです。
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同じ8月下旬、ASI(インド考古調査局)の高官は世界遺産「タージマハル」の保護・保全のために入場制限や開放時間の短縮を検討する決定を下しました。
タージマハルはインドでもっとも人気がある世界遺産のひとつで、毎年700~800万人もの観光客が訪れています。
近年政府や自治体が保護・保全活動に非常に力を入れていることで知られており、大気中の微量粒子のために大理石が黄ばんだり酸性雨のために溶け出したりしているということで、近郊の工場や火葬場に移転を命じたり、近郊への車の乗り入れを制限して電気自動車を導入したり、牛糞燃料を禁止したりといった施策を実施しています。
そして人間による遺跡への影響を調べるためにNEERI(インド国立環境工学研究所)が混雑や二酸化炭素濃度等々をモニターしており、そのデータをもとに人数の上限を算出し、制限の要不要や内容を決めるということです。
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実は、毎年多くの観光客を受け入れている有名な世界遺産の中には入場制限を設けている物件や、導入を検討している物件が少なくありません。
今夏、イタリアの「ポルトヴェネーレ、チンクエ・テッレ及び小島群[パルマリア、ティーノ及びティネット島]」の構成資産であるチンクエ・テッレでチケットの事前予約制が導入されました。
「5つの土地」という意味を持つチンクエ・テッレは5つの集落と入り江からなる美しい海岸線が見所なのですが、近年のクルーズ・ブームによって観光客が急増し、昨年は250万人が押し寄せました。
しかし、最大集落のリオマッジョーレでさえ人口は1,000人程度で、道路をはじめインフラは追い付きませんし、保全状況も悪化しています。
そのためこのチケット制によって観光客を少なくとも150万人にまで絞る計画だそうです。
これ以外にも、同じイタリアの「ヴェネツィアとその潟」や中国の「北京と瀋陽の明・清朝の皇宮群」の故宮、日本の「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」などでも入場制限が検討されています。
すでに導入されている世界遺産には、エジプトの「メンフィスとその墓地遺跡-ギザからダハシュールまでのピラミッド地帯」のクフ王のピラミッド内部、「古代都市テーベとその墓地遺跡」のネフェルタリの墓、イタリアの「レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』があるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会とドメニコ会修道院」、中国の「九寨溝の渓谷の景観と歴史地域」、カンボジア「アンコール」のプノン・バケン、ペルーの「マチュピチュの歴史保護区」などがあります。
世界遺産登録は年々厳格化していますが、世界遺産観光も同様に年々制限が厳しくなっているようです。
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