世界遺産NEWS 16/07/26:登録抹消の危機に直面するバグラティ大聖堂

前回は世界遺産委員会のレア・ケースとして「登録」勧告から逆転で登録に失敗した「ピマチオウィン・アキ」を紹介しました。

そしてもう1件、「登録範囲の縮小」という、こちらもあまり例のない事例がここ数年審議されています。

 

物件名はジョージア(グルジア)の「バグラティ大聖堂とゲラティ修道院」。

その名の通り大聖堂と修道院のふたつの建物を登録した世界遺産なのですが、2015年にジョージア政府よりバグラティ大聖堂を構成資産から外す縮小申請がなされています。

先日の第40回世界遺産委員会でも審議されましたが、登録抹消は保留となっています。

 

実はぼくはいまバグラティ大聖堂のすぐ近くのホテルに滞在しています。

レポートを兼ねてこの物件の現状を紹介しましょう。

 

※2017/07/10追記

2017年の第41回世界遺産委員会でバグラティ大聖堂の抹消が決定してゲラティ修道院の単独登録となり、世界遺産名が「ゲラティ修道院」に変更されました。

 

* * *

 

「バグラティ大聖堂とゲラティ修道院」は1994年に世界遺産リストに登録されたのですが、登録当時のバグラティ大聖堂は右のような姿をしていました。

上の写真とずいぶん違いますよね。

 

崩れてはいましたが11世紀から1,000年近い歴史を持つ大聖堂なので巡礼者は絶えず、地元クタイシ、あるいはジョージアの象徴として愛されてきました。

2001年に所有権がジョージア政府からジョージア正教会に移るとこの傾向は強くなり、さらに再建計画が持ち上がりました。

 

2008年の第32回世界遺産委員会では、ジョージアに対して再建の計画書を提出するよう要請しました。

計画書は翌年提出されましたが、審査したICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)は真正性(素材やデザイン・用途・機能などが本物で、文化が正しく伝えられていること)と完全性(顕著な普遍的価値を構成する全要素を包含し、その維持が可能な大きさ等を保持していること)を毀損する可能性が高いと重大な懸念を表明しました。

世界遺産の保全や修復の理念はベネチア憲章を踏襲しています。

修復は可能な限り建設当時のデザイン・素材・工法を用い、科学的根拠に基づいて再建し、修復個所を明確に区別しなくてはなりません。

ところがバグラティ大聖堂の修復は根拠のない推測に基づいており、コンクリートや鉄柱を多用するなど、ベネチア憲章の精神を無視する形になっています。

この結果、2010年の第34回世界遺産委員会でこの物件は危機遺産リストに記載されることになりました。

 

しかしながら再建はイタリア人建築家アンドレア・ブルーノ氏の指揮の下で進められました。

毎年のように世界遺産委員会は懸念を表明しましたが再建は進み、2013年にほぼ完成。

この功績に対し、ジョージア政府はブルーノ氏にゴールド・メダルを贈って表彰しました。

 

2013年の第37回世界遺産委員会は遺憾の意を表明し、ジョージア政府に対してバグラティ大聖堂を世界遺産の構成資産から外し、ゲラティ修道院の単独登録とするよう範囲の変更を要求しました。

これを受けてジョージアは2014年に「バグラティ大聖堂とゲラティ修道院」の縮小を申請。

ICOMOSはゲラティ修道院単独でも顕著な普遍的価値を有することを確認しましたが、2015年、2016年の世界遺産委員会では保全管理計画の不備や、遺産範囲やバッファー・ゾーン(緩衝地帯)が適当でないことから再提出を求める決定を下しています。

実際、バグラティ大聖堂を見て驚きました。

上の写真の中央、ドームの下の部分、ガラスと金属でできた構造物が確認できますね。

 

そして屋根もトタンです。

一時的にトタンを葺いているのならよいのですが、修復する様子がないことからこれで完成なのかもしれません。

 

右の写真のように、エントランスには思い切り金属を使用しています。

鉄柱が何本も剥き出しで見えていますし、床スラブや天井にも金属やコンクリートが使用されています。

 

世界遺産であっても現代の建築技術を用いないと保護・保全できないような場合、最小限で用いることは認められています。

崩壊を防ぐために鉄筋を入れたり、鉄柱で支える例もあったりします。

しかしながらバグラティ大聖堂の場合、保護・保全という範疇を明らかに超えているようです。

一方、上のゲラティ修道院も修復中ですが、そのようなことはないようです。

右のように屋根もトタンなどではなく、緑色の陶器瓦を葺いています。

 

以上のように、今後大きな変更が施されない限り、バグラティ大聖堂の構成資産からの抹消は時間の問題と言えそうです。

 

ドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」やオマーンの「アラビアオリックスの保護区」のように世界遺産が1件まるまるリストから抹消されるわけではありませんが、ひとつの建物が世界遺産認定を解除されるというのはこれらに次ぐ由々しい事態ではないかと思います。

「世界遺産の称号がジャマになったらいつでもリストから外してもらえばいいじゃない」なんていう考え方が広がってしまったら、全人類で顕著な普遍的価値を守るという世界遺産条約の精神が損なわれかねません。

 

できることならジョージア政府、ジョージア正教会の大転回を期待したいところです。 

最後にこちら、ゲラティ修道院のフレスコ画です。

本当にすばらしい!

 

 

[関連サイト&記事]

2017年新登録の世界遺産 沖ノ島など21件が追加(「ジョージアのバグラティ大聖堂、世界遺産リストから抹消」の項でこの件に触れています)

世界遺産NEWS 17/04/18:「慶州歴史地域」の修復と世界遺産の真正性

 


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