世界遺産NEWS 16/07/20:ピマチオウィン・アキ、逆転で登録失敗

第40回世界遺産委員会は前回の速報記事「速報! 2016年新登録の世界遺産21件!!」でお知らせしたように日程を3日残して7月17日にいったん終了し、残りの審議は10月に持ち越されることになりました。

新登録の世界遺産についてはすべての審議が終了しましたが、1件気になる物件があったので紹介しておきましょう。

 

その物件は「ピマチオウィン・アキ(カナダ、文化遺産(iii)(vi)、自然遺産(ix))」。

文化遺産を調査・評価しているICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)も、自然遺産を調査・評価しているIUCN(自然保護連合)も、「登録」を勧告していたのに世界遺産委員会はこれを認めませんでした。

非常に珍しいケースです。

ICOMOSとIUCNの勧告は「登録」「情報照会」「登録延期」「不登録」の4段階で行われ、これを参考に世界遺産委員会が正式に4段階のいずれかの決定を行います。

「情報照会」や「登録延期」勧告からの逆転登録は毎年起こっていますが、「登録」勧告から逆転で登録を逃した例はほとんどありません。

ですから「登録」勧告は事実上の内定ということができるでしょう。

 

ところが世界遺産委員会は文化遺産としても自然遺産としても「登録」勧告を受けていた「ピマチオウィン・アキ」に対して「情報照会」の決定を下しました。

異例中の異例、逆転での登録失敗です。

 

思い出されるのはイスラエル推薦の世界遺産候補地「ダンの三連アーチ門」です。

2008年にこの物件が推薦されてICOMOSが「登録」勧告を行ったのですが、ヨルダンをはじめとするアラブ諸国がイスラエルの物件とすることに意義を唱えたため、国境や保護に関する追加情報を求めて「情報照会」の決定が下されました。

以降4年連続で推薦が続きましたが審議自体が延期され、いまだに登録に至っていません。

しかしながらこの物件は領有権問題が絡んだ特殊なケースですから、あまり参考になりそうにありません。

 

いったい何が起こったのでしょう?

 

「ピマチオウィン・アキ」はカナダのタイガ(亜寒帯針葉樹林)に広がる3つの州立公園・生物保護区と先住民族アニシナアベの集落を含むもので、豊かな自然や生態系、遺跡や岩絵等々、文化・自然両面から高い評価を受けていました。

 

「ピマチオウィン・アキ」はアニシナアベの言葉で「生命を与える大地」を意味します。

日本の神道にも似たアニミスティックな信仰を掲げており、母なる大地とともに6,000年にわたってこの地で生活を続けてきました。

 

そして2006年に自治体とアニシナアベの5つの部族は世界遺産の登録活動を開始し、2012年に推薦するも翌年の世界遺産委員会では「登録延期」で失敗。

そして昨年、再度推薦を行い、今度はICOMOS・IUCNから待望の「登録」勧告を勝ち取りました。

 

ところがこの6月上旬、5つの部族のひとつであるピカンギクム族が世界遺産の支援からの撤退を表明しました。

理由は、建設が計画されているバイポールIIIと呼ばれる送電線のルートに関するもので、IUCNの評価報告書に書かれたルートが正確なものではなく、自分たちの土地への影響を懸念しているようです。

開発を行っている企業も6月上旬にルート変更の可能性を示唆しており、これに対する不信感も手伝ったのでしょう。

 

世界遺産委員会はピカンギクム族に対してヒアリングを行い、登録推薦書に掲げた保護・保全体制から重大な変化が生じたため、関係者内で検討が必要であるということで「情報照会」の決定を下しました。

 

「ピマチオウィン・アキ」のプロジェクト・チーム担当者は落胆しながらも、顕著な普遍的価値自体は認められた=世界遺産の価値が確認されたこと自体はすなおに喜んでいるようです。

そのうえでピカンギクム族の支援なしでは現在の保護・保全計画の実現が不可能であることを認め、彼らと話し合うと同時に、彼らなしでの方策も含めて迅速に検討していくとしています。

 

このプロジェクト・チーム、世界遺産登録活動を12年間も主導しているということです。

先住民族や企業とも十分話し合ってきたはずですが、それでもこのような事態が起こるのですね。

自治体、企業、住民、先住民……

それぞれに思惑があるのでしょう。

 

「情報照会」の場合、3年以内であれば追加情報の提出のみで再審議が可能です(「登録延期」の場合は登録推薦書の提出からやり直し)。

現段階ではハッキリしないことも多いので、この物件を巡ってどのような結論が下されるのか、注目していきたいと思います。

 


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