世界遺産NEWS 16/05/06:アルト・ドウロのワイン生産地域でダム完成間近
ポルトガルの特産品であるポートワインの生産地として有名なドウロ川流域の世界遺産「アルト・ドウロ・ワイン生産地域」。
そのすぐ上流に当たるドウロ川の支流・トゥア川でダムの建設が進んでおり、いよいよ完成を迎えるということです。
ダムが環境に与える影響を懸念して反対運動も活発化しており、反対派はUNESUCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)への請願も計画しているということです。
ドウロ川のクルーズの様子
日本では311の東日本大震災以降、原子力発電所が大きな問題になっています。
これに対してポルトガルは原子力発電をいっさい行っておらず、水力・風力・太陽光・バイオマスといったいわゆる再生可能エネルギーで電力の60~70%を賄っています。
しかしながらポルトガルは石油や天然ガスを輸入し、スペインから直接電力を輸入してもしています。
このため電気料金はヨーロッパ随一といわれるほど高く、特に暖房需要の多い冬場は電力不足も懸念されています。
こうしたことから自国での発電計画を急ピッチで進めており、水力については2020年までに10基のダムの完成を目指しています。
完成を間近に控えたトゥア川のフォズ・トゥア・ダムもそのひとつで、2011年に建設がはじまっています。
ところが当初からブドウ畑のオーナーやワイン生産者・住民・環境保護団体などを中心にダム建設に反対する人も多く、政府やUNESCOに対してダム計画の中止嘆願もなされてきました。
世界遺産委員会もダム建設に懸念を表明しましたが、政府は計画に承認を与えて建設が開始されました。
「トゥア最後の日、ザ・ラスト・ウォーク」と題された動画
以前はダムによる水力発電は環境にやさしい再生可能エネルギーのひとつと認識されていました。
しかしながら巨大ダムは渓谷に突如としてダム湖を生み出すことで環境にさまざまな弊害、たとえば天候や水質・水温の変化、土砂がせき止められることによる下流の土質・河岸・海岸の変質、こうした変化に伴う環境や生態系へのダメージなどが指摘されるようになりました。
しかもこうした影響はダム周辺ばかりでなく、ダム湖がはじまる上流からダムの下流全域、河口周辺の海岸やその沖にまで及ぶのです。
ポートワインとは、アルト・ドウロで生産されたブドウを使い、ドウロ川の河口付近に広がる街ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアとポルトで加工・熟成・生産された酒精強化ワインのみに与えられる称号です。
いってみればポートワインはドウロ川が生み出した産物でもあるわけです。
このドウロ川が危機に瀕しているということで、ポートワインの関係者を中心に反対運動が急速に広がりました。
実際、ドウロ川の流域でもし気温や降水量・湿度・土質・日照料等の変化が起こればワイン生産は直接的な影響を受けることになるでしょう。
もっとも、ドウロ川流域にはすでに5基のダムが稼働しています。
そのため政府はアセスメントも十分にできており、影響はないとしています。
下のダムはその一例です。
ダムの上流と下流の最大水位差は約14mあるのですが、クルーズ船は閘門(こうもん)というエレベーターのような装置で上下されて移動します。
閘門を通るクルーズはとても人気があるということで、政府はフォズ・トゥア・ダムも同様に観光名所となり、雇用をはじめ地域によい影響を与えることを期待しています。
ただ、フォズ・トゥア・ダムは高さ108mを誇る巨大なダムで、環境に対する影響はこれまで以上のものになりそうです。
反対派は、得られる利益の数十倍の損害が見込まれるとしています。
ダムは年内の稼働が予定されていますが、反対派はUNESCOに働きかけて、今年の世界遺産委員会において危機遺産リスト入りを提案する予定だということです。
下に反対運動のサイト "THE LAST DAY OF TUA" にリンクを張っておいたので興味のある方は読んでみてください。
なお、ポートワインや世界遺産「アルト・ドウロ・ワイン生産地域」「ポルト歴史地区」については記事「ポルトガルの宝石 ポート」で解説しています。
[関連記事&サイト]
THE LAST DAY OF TUA(英語/スペイン語)
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