世界遺産NEWS 16/02/18:ローマ教皇&モスクワ総主教、ハバナで会見

2月12日、キューバのハバナでカトリックの長であるフランスシスコ・ローマ教皇(法王)と、ロシア正教会の長であるキリル・モスクワ総主教が会談を行いました。

両教派のトップ会談は史上初ということです。

ひと口にキリスト教といってもさまざまな教派が存在します。

高校世界史でも習う3大教派が以下となっています。

 

■ローマ・カトリック

最高位:教皇

首席教会堂:サン・ピエトロ大聖堂(バチカン)

 

■正教会

最高位:全地総主教(コンスタンティノープル総主教)

全地総主教座:聖ゲオルギオス大聖堂(トルコ)

 

■プロテスタント

最高位:特になし

代表的な教会堂:カンタベリー大聖堂(イギリス)など

 

ローマ・カトリックの聖職者の最高位が教皇です。

教科書等では一般的に「教皇」と記されますが、報道では「法王」とされることが多いですね。

バチカン市国が日本政府に日本語の届けを出した際に「法王庁」と訳したことからこの名がついたようですが、バチカンは現在「教皇」を使うよう依頼していることから本サイトではこちらを用いています。

そのカトリックの第一の教会堂がサン・ピエトロ大聖堂で、世界遺産「バチカン市国」の構成資産となっています。

 

正教会の聖職者最高位が総主教です。

といっても総主教はひとりではなく9人いたりします。

総主教のトップは全地総主教と呼ばれ、コンスタンティノープル総主教がこれにあたります。

コンスタンティノープルはイスタンブールの旧名で、全地総主教座と呼ばれる椅子のあるイスタンブールの聖ゲオルギオス大聖堂が総本山的なものとされています。

ただし、実際には全地総主教は名誉職にすぎず、総主教はすべて対等とされています。

なお、イスタンブールには「イスタンブール歴史地域」という世界遺産がありますが、聖ゲオルギオス大聖堂は構成資産には含まれていません。

 

プロテスタントは宗教改革の時代にカトリックから分離した新教の総称です。

ですからプロテスタントというまとまった組織があるわけではありません。

プロテスタントでもっとも有名な組織が16世紀にカトリックを離れたイングランド国教会で、カンタベリー大聖堂が首席教会堂となっています。

こちらの大聖堂は世界遺産「カンタベリー大聖堂、聖オーガスティン大修道院及び聖マーティン教会」に登録されています。

 

* * *

サン・ピエトロ大聖堂
サン・ピエトロ大聖堂。9世紀以前の首席教会堂はサン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ大聖堂で、こちらは世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラ大聖堂」の構成資産となっている

東西協会の分裂についても解説しておきましょう。

 

キリスト教がヨーロッパに広がったのは4世紀にローマ帝国が公認・国教化し、他の宗教を禁じて以降の話です。

ローマ帝国は330年に首都をローマからコンスタンティノープルに遷しており、395年にはミラノ(のちにラヴェンナ)を首都とする西ローマ帝国と、コンスタンティノープルを首都とする東ローマ帝国(ビザンツ帝国)に分裂します。

ところが西ローマ帝国は476年にあっさりと滅亡してしまいます。

 

当時、キリスト教にはローマ、コンスタンティノープル、アレクサンドリア、アンティオキア、エルサレムという五大総主教がいました。

この中で、ローマはイエスの12使徒のひとりであるペトロ(ペテロ)が殉教した地で、ペトロの墓の上に建てられたのがサン・ピエトロ(聖ペトロ)大聖堂です。

これらのことからローマ総主教はいつからからペトロの後継者を意味する「教皇」を名乗り、総主教の中でも特別な存在と考えられるようになりました。

 

ところが五大総主教の中で、ローマだけが西ローマ帝国の領内に存在していました。

ビザンツ帝国は1453年まで千年以上にわたってあり続け、皇帝が実際の統治を行い、総主教はその下で心の支配を担当するという安定した関係を保ちました。

 

しかし、ローマ教会には後ろ盾となる大国が存在しません。

そこでローマ教会は西ヨーロッパ中に広がったゲルマン民族への布教を行い、ランゴバルド王国などの改宗に成功しました。

 

異教徒に対する布教の際に使用されたのがイエスやマリアなどを描いた聖像や聖画像です。

この時代に印刷された聖書はありませんから、布教は口頭であったり図や像を用いて行われました。

ところが偶像崇拝は『旧約聖書』で明確に禁止されていますから、これを認めるか否かで聖像崇拝論争が起こりました。

 

726年、ビザンツ皇帝レオン3世が聖像禁止令を発令し、この論争に終止符を打ちました。

ローマ教皇は他の総主教に対して首位権(もっとも高い位)を主張していましたが、その衰退ぶりは明らかで、全地総主教であるコンスタンティノープル総主教との対立が決定的なものとなりました。

聖ゲオルギオス大聖堂
全地総主教座がある聖ゲオルギオス大聖堂。サン・ピエトロ大聖堂と比べると簡素な造り (C) Klearchos Kapoutsis

一方、西ヨーロッパに5世紀に興った大国がフランク王国です。

この国は9世紀に3つに分裂し、フランス、ドイツ、イタリアの原型となります。

 

8世紀、ヨーロッパは中東で誕生したイスラム教の超大国、ウマイヤ朝(アラブ帝国)の脅威にさらされていました。

これを打ち破ったのがフランク王国です(732年、トゥール・ポワティエ間の戦い)。

フランク王国はヨーロッパとキリスト教の救世主とされ、ローマ教皇はなんとかその後ろ盾を得ようと画策しました。

 

そして800年にフランク王国の国王カール大帝がサン・ピエトロ大聖堂を訪れた際に、教皇レオ3世は彼にローマ皇帝の冠を授けます(カールの戴冠)。

カール大帝は以前から戴冠を依頼されていたようですが、ビザンツ帝国との関係悪化を恐れて断っていました。

このときは頭を下げた瞬間に、勝手に冠を乗せられたなんて話が伝わっています。

 

カール大帝はあまり乗り気ではありませんでしたが、東フランク王国のオットー1世は違いました。

彼が962年に教皇ヨハネ12世からローマ皇帝の冠を受けると(オットーの戴冠)、ローマ帝国が復活し、神聖ローマ帝国が誕生しました。

この戴冠式はドイツの世界遺産「アーヘン大聖堂」で行われ、以来神聖ローマ皇帝の戴冠式はここで行われています。

その後のフランス、ドイツ、イタリアの繁栄もあって、ローマ教会は西ヨーロッパ社会に広く基盤を築くことに成功しました。

 

カールの戴冠、オットーの戴冠でローマ教会と東方教会群が対立しただけでなく、後ろ盾となっているフランク王国とビザンツ帝国の対立も深刻化していきました。

そして1054年、ローマ教皇レオ9世とコンスタンティノープル総主教ミハイル1世が互いを破門して、東西教会は決定的に分裂します(シスマ)。

これより、ローマ教会はローマ・カトリック、東方教会群は正教会(東方正教会)としてそれぞれの道を歩むことになります。

 

* * *

1964年1月5~6日、聖地エルサレムにてローマ教皇パウロ6世とコンスタンティノープル総主教アシナゴラス1世が会談を行いました。

上の動画はそのときの様子です。

そして翌年12月7日、互いの破門が解消され、911年ぶりに和解が成立しました。

これ以降、教皇とコンスタンティノープル総主教は何度か互いを訪問しています。

 

そして今回のニュースです。

ローマ教皇フランスシスコとモスクワ総主教キリルがキューバの首都ハバナで会談を行いました。

 

モスクワ総主教というのはロシア正教会の長のことで、9人の総主教のひとりに数えられています。

正教会は国や民族ごとに「○○正教会」という組織を作っているのですが、1億5,000万人以上の信者を率いて最大組織となっているのがロシア正教会です。

対等とされている総主教の中で現実にもっとも力を持っているのがロシア正教会のトップ、すなわちモスクワ総主教といわれています。

 

1965年に破門を解消したといっても、教皇庁と正教会最大勢力であるロシア正教会との関係は良好といえるものではありませんでした。

このため今回の会談が大きく取り上げられることになりました。

 

会談の内容ですが、ISIL(いわゆるイスラム国)によるキリスト教徒迫害に対して懸念を表明し、キリスト教の追放や新たな世界戦争の勃発を防ぐよう国際社会に呼び掛けたということです。

また、ウクライナを舞台に欧米とロシアが対立している問題でも、いずれの教会のキリスト教徒も平和と調和を尊重することを促しました。

そして「私たちは兄弟になりました」と語り、今後も両教会が世界平和を守り、キリスト教徒を保護することを約束したということです。

 

といっても、今回の会談には特にロシア側にさまざまな思惑があるといわれています。

ウクライナは東と西で分裂状態にあり、東はロシア、西は欧米が主導権を握っています。

宗教的にはキリスト教、特に正教会が多数を占めていますが、ロシア正教会系のウクライナ正教会、独自にキエフ総主教を冠するウクライナ正教会があり、さらに複数の正教会組織が存在するうえ、カトリックの信者も少なくありません。

 

ロシア正教会としては、正教会内で確固とした立場を形成しつつ、独自の動きを見せるウクライナの正教徒へ釘を刺した形です。

キエフ総主教を認めていないコンスタンティノープル総主教がキエフ総主教に接近しているなんていう情報もありますから、こちらに対する牽制でもあるのでしょう。

また、背後にはプーチン大統領がいると見られており、大統領としては宗教的な面からヨーロッパにおけるプレゼンスを高め、ウクライナ問題で優位に立つと同時に政治的孤立を解消したいということなのかもしれません。

 

狙いはどうあれ、こうした対話が進むのは悪いことではないでしょう。

これまで宗教は数多くの戦争の原因となり、宗教界が戦争をリードしたことさえありました。

この21世紀、こうした歴史に終止符を打ち、純粋に世界を結び付ける役割を果たすことを期待します。

 

 

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