世界遺産NEWS 16/02/05:「長崎の教会群」世界遺産推薦を取り下げへ

今年の夏にトルコのイスタンブールで開催される第40回世界遺産委員会での世界遺産登録を目指していた「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」ですが、2月4日、政府が推薦を取り下げる方針を示したそうです。

 

長崎教会群申請やり直し 内容に疑義 政府構成資産見直しへ(西日本新聞)

報道内容をお知らせする前に、世界遺産の登録プロセスを確認しておきましょう。

今回関係ありそうな部分を抜粋してみました。

 

  • 今後5~10年で登録を目指す物件をUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の世界遺産センターに推薦し、各国の暫定リストに記載する
  • 暫定リスト記載の物件で準備が整ったものについて、登録を目指す年の前年2月1日までに登録推薦書をユネスコ世界遺産センターに提出する(ただし、推薦できるのは1か国2件までで、2件の場合、1件は自然遺産か文化的景観でなければならない)
  • 推薦された物件について、文化遺産はICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)、自然遺産はIUCN(国際自然保護連合)、複合遺産は両者が現地調査を含む専門調査を行う
  • 調査結果をもとにICOMOS、IUCNは内部会議を開催して評価報告書を作成する
  • 翌年の4~5月に評価報告書を発表し、「登録・情報照会(追加資料の提出で再審査が可能)・登録延期(推薦書を再提出して登録プロセスをやり直し)・不登録(世界遺産に値せず再推薦も不可)」のいずれかの勧告を行う
  • 6~7月の世界遺産委員会で、評価書の内容をもとに「登録・情報照会・登録延期・不登録」のいずれかの決定を行う

 

「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は2007年に暫定リストに記載され、2014年に推薦が決定し、2015年1月に登録推薦書が提出され、同年9~10月に現地調査が行われています。

現在はICOMOSで内部会議が開催され、4~5月の発表に合わせて評価報告書を作成している最中と思われます。

 

例年、このまま何もなく4~5月の勧告を迎えます。

しかし、今回は1月23日に記事にしたICOMOSの審査過程の変更の一部ということで、中間報告を行うようになったようですね。

毎日新聞がそのように報じています。

 

世界遺産NEWS 16/01/23:ICOMOS、世界遺産の審査過程を変更

長崎教会群 世界遺産推薦取り下げへ イコモスの指摘受け(毎日新聞)

そして気になる中間報告の内容です。

もともとこの物件は「キリスト教の伝達と繁栄」「キリスト教の禁止と鎖国」「開国とキリスト教の解禁」という3時代450年以上に及ぶ14の構成資産からなっています(構成資産は下にリンクした過去記事参照)。

これに対して「禁教・潜伏に重点を置くべき」という強い指摘があったようです。

 

理由は報道されていないので推測するしかありませんが、おそらくキリスト教が禁止され、教会もなく神父もいないような状態で200年にもわたって信仰が守られてきたその過程が特に評価されたのではないかと思います。

 

世界遺産には「代表性」と呼ばれる考え方があります。

ある文化や自然の切り口・ストーリーの最上の一例を代表して世界遺産に登録するという考え方で、たとえば日本の中世の城は世界遺産「姫路城」が代表していると考えられます。

したがって、同じ価値観で日本の他の城を登録することができず、これが世界遺産暫定リストに長年記載されている彦根城がなかなか推薦されない理由のひとつであったりします。

 

特にキリスト教関連の世界遺産は数多く、1994年の「世界遺産一覧表における不均衡の是正及び代表性・信頼性の確保のためのグローバルストラテジー」で「多すぎる」と指摘された5つの分野、「ヨーロッパの物件」「都市と信仰に関する物件」「キリスト教に関する物件」「先史時代と20世紀以外の物件」「優品としての建築物件」のひとつにも数えられています。

 

構成資産のキリスト教会群はヨーロッパの教会と違って日本の建築様式を取り入れていたり、木と石とレンガが組み合わせられていたりと、造形的にもとてもユニークです。

しかし、キリスト教の伝道の過程で現地の建築法と折衷様式になるのはよくあることで、そうした世界遺産も少なくありません。

チリの世界遺産「チロエの教会群」のイチュアク教会
チリの世界遺産「チロエの教会群」のイチュアク教会。チロエ島では土着の造船技術を転用した「チロエ様式」と呼ばれる教会建築が発達した

世界遺産は顕著な普遍的価値のある文化遺産と自然遺産を守る活動ですが、その価値が世界的なレベルでなければならず、その証明を行う必要があります。

キリスト教の伝達・繁栄の証は世界中で見られるのに対して、禁教・潜伏に関する文化遺産はきわめて希少であり、代表性と世界的価値を有するという判断なのかもしれません。

 

この場合、禁教・潜伏に絞って構成資産を変更する必要が出てくるかもしれません。

当然構成資産から外れるものも出てくるはずですが、自治体はそれでよいのでしょうか?

そもそも禁教・潜伏に関する文化遺産が十分にあって、顕著な普遍的価値を確実に証明できるのでしょうか?

自治体の意向や政府の勝算が気になるところです。

 

今後ですが、2008年の「平泉-仏国土[浄土]を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」のように逆転登録を狙ってロビー活動を進めるか、政府の意向の通り推薦を取り下げることになりそうです。

推薦を取り下げた場合、2017年の世界遺産委員会への推薦の〆切は過ぎているので(「宗像・沖ノ島と関連遺産群」が推薦済み)、早くて2018年の登録になります。

しかしながら、「北海道・北東北の縄文遺跡群」「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」「百舌鳥・古市古墳群」なども登録作業を進めているはずですので、それらより優先されるのかどうかは不透明です。

 

とりあえず2月上旬に取り下げるか否かの正式決定を行うようです。

政府のアナウンスを待ちたいと思います。

 

[関連記事]

世界遺産NEWS 14/07/12:「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」、世界遺産へ推薦決定(以前の記事)

世界遺産NEWS 16/02/13:長崎教会群取り下げ&国立西洋美術館前進他(続報)

世界遺産NEWS 16/05/24:長崎の教会群、2資産を外して再推薦へ(続続報)

世界遺産NEWS 16/07/27:文化審議会、長崎の教会群を再度推薦へ(続々続報)

 

 


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