世界遺産NEWS 15/10/30:破壊が進むシリア・パルミラの遺跡
世界でもっとも夕陽が美しい遺跡といわれるシリアの世界遺産「パルミラの遺跡」。
2015年5月下旬にISIL(いわゆるイスラム国)が実効支配して以来、パルミラは最前線となり、破壊が進められています。
下は戦闘が繰り広げられているパルミラのレポートです(RT America)。
完全に戦場ですね。
ぼくは十数年前にパルミラを見ているのですが、これまで訪ねた中でも特に印象深い遺跡です。
夕暮れ時になると太陽の赤い光が柱の一本一本の輪郭を強調して、列柱が荒野の中にポカリと浮かび上がります。
この光景が見たくて、滞在期間中は毎日遺跡に通い詰めていました。
ぼくの写真はありませんが、同時期に友人が撮影した写真がありますので、下記サイトで見てみてください。
[関連サイト]
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パルミラの遺跡/シリア(All About 世界遺産)
6月、ISILはパルミラ博物館を襲撃して「アラート神のライオン像」をはじめとする遺物を破壊しました。
8にはパルミラの解明に生涯を捧げた考古学者ハリド・アサド氏を遺跡内で斬首。
さらにパール・ジャミン神殿とベル神殿というパルミラでもっとも保存状態がよかったふたつの神殿を爆破しました。
そして10月下旬、拘束していた捕虜3人を遺跡の柱にくくりつけ、柱ごと爆破したということです。
人はこんな美しい場所でも破壊することができるし、そんな場所で殺し合いさえ行える。
悲しい事実です。
残っているローマ記念門やローマ劇場、テトラピュロン(四面門)、アラブ城砦、塔墓群や列柱群が破壊されぬよう、そしてそれ以上にさらなる犠牲者が出ないよう祈ります。
パール・ジャミン神殿爆破の画像を収めたReutersのニュース映像
いまヨーロッパで難民危機が叫ばれていますが、これもISILのシリア侵略によるところが大きくなっています。
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると2014年には1,950万人の難民が発生しましたが、このうち最大の難民発生国となっているのがシリアで、388万人に達します。
難民と庇護申請者(難民としての地位と保護を求める者)は全財産を現金化して周辺のトルコやイランなどに待避するわけですが、戦争が長期化していることから財産はどんどん食いつぶされていきます。
そこでお金があるうちに豊かな国に移住して仕事を見つけたいと、ヨーロッパへの移動を決意するわけです。
下はシリアの勢力圏を示した動画です。
赤がアサド政権、緑が反政府勢力、黒がISIL(動画内ではISIS)。
特にシリア北部がISILに押さえられているのがわかります。
こうした状況を見かねたアメリカやトルコはシリア領内でISILに対して空爆を行っていましたが、9月下旬からフランスも参戦。
さらに10月頭にはロシアが大規模な空爆を開始しました。
ところが、やっかいなのは各国で立ち位置が大幅に異なるところです。
ロシアやイランはアサド政権を支援していますが、アメリカやフランス、イギリス、トルコ、サウジアラビアは反政府勢力を支持しています。
その反政府勢力も一枚岩ではなく、たとえばクルド人勢力は独自の立場におり、他の反政府勢力やトルコとも敵対したりしています。
国際社会にとってISILは共通の敵であるため空爆を互いに認め合っているのですが、ロシアが反政府勢力、トルコがクルド人勢力に対して空爆を行っている疑惑があって、非難する声も上がっています。
シリアは現在このようにさまざまな勢力が割拠する混乱した状況に陥っており、これがさらなる難民増加につながっています。
この問題がいつ解決されるのか、先はまったく見えません。
[関連記事&サイト]
- 世界遺産NEWS 16/03/31:シリア政府軍、パルミラを奪還(続報)
- 世界遺産NEWS 15/08/23:ISIL、パルミラで考古学者を処刑(前回の関連記事)
- パルミラの遺跡/シリア(All About 世界遺産)
- なぜイスラム過激派は世界遺産を破壊するのか?(ぼくが書いた登録無料の外部記事です)
- なぜいま移民・難民が増えているのか?(同上)