世界遺産NEWS 15/06/16:イエメンのサナア旧市街に空爆
6月12日、イエメンの世界遺産「サナア旧市街」が空爆を受け、一部が損壊しました。
今年に入ってイエメンは非常に緊迫した情勢にあります。
2014年9月にイスラム教シーア派のザイド派の一派である武装勢力・フーシ派がイエメンの首都サナアを制圧。
2015年1月にはハーディー大統領が辞任してサウジアラビアに逃れ、フーシ派が実権を握ってシーア派政権が誕生しました。
といっても、フーシ派の勢力圏はサナア周辺に限られており、東部・南部には至っていません。
2月には暫定的に国民評議会を設置して政治基盤を固めつつ、勢力拡大を目指して軍事行動を拡大しています。

イエメンはスンニ派・シーア派で分かれているだけでなく、シーア派のザイド派の中でもフーシ派やサレハ元大統領派をはじめいくつもの派閥に分かれて勢力圏闘争を繰り広げています。
このためイエメンは地域ごとに分断されている状況です。
イエメンはもともとスンニ派の国でしたが、数的には拮抗しており、スンニ派が5~6割、シーア派は4割台と見られています。
フーシ派の勢力拡大の裏にはシーア派国家であるイランが絡んでいると考えられています。
この事実上のクーデターに対して周辺のスンニ派国家は猛反発しています。
3月にはサウジアラビアを中心に、カタール、クウェート、バーレーン、UAE、ヨルダン、エジプト、スーダン、モロッコのスンニ派9か国で連合軍を展開してイエメンを空爆(決断の嵐作戦)。
ペルシア(イラン)VSアラブという古代から続く対立の代理戦争というべきものに発展しました。
のちには非アラブ国であるトルコとパキスタンが連合国側に加わり、アメリカもこれを支持して後方支援を行っています。
これらに加え、アルカイダ系組織やISIL(いわゆるイスラム国)がフーシ派の殲滅を宣言。
中央政権を失ったイエメンで勢力を伸ばしていると伝えられています。
連合国側は4月に入って作戦名を「希望の復活作戦」に変更して空爆を継続し、特にサウジアラビアとエジプトは陸上部隊の派遣も辞さない構えです。
そしてこの6月12日、イエメン国営放送サバ通信は、空爆がサナアの世界遺産エリアに及んだことを伝えました。
この日の空爆で建物5棟が全壊し、死傷者も出ているということです。
これに対して連合軍は空爆を否定し、フーシ派の武器庫の爆発ではないかと声明を出しています。
WHO(世界保健機関)の発表によると、3月以降の戦闘で2,500人を超える死者を出しているということです。
空爆によってサナアのみならず世界遺産「古都ザビード」でも被害が出ているようです。
空爆を受けたサナアの様子。euronewsの映像
世界遺産「サナア旧市街」は、『旧約聖書』の洪水神話「ノアの方舟(はこぶね)」で知られるノアの息子たちによって創られた世界最古の街のひとつと伝えられています。
花崗岩などの岩と、アドベと呼ばれる日干しレンガを組み合わせて、最高50m、7階建てに及ぶ高層建築を実現しました。
UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)のイリーナ・ボコバ事務局長はこの世界遺産を「イスラムの至宝」と称え、すべての勢力に対して、非人道的な行為を止め、世界共通の財産を守ることを呼び掛けました。
国連は15日からスイスのジュネーブでフーシ派の代表を呼び寄せて初の和平協議を開催しています。
潘基文事務総長は18日前後からはじまるラマダン(断食月)に合わせて停戦を提案している模様です。
中東情勢は混迷を極めてきました。
イラクではISILに対してスンニ派とシーア派が協力する場面もある一方で、イエメンでは両派が対立し、陰でISILが暗躍しているとも伝えられています。
イスラエルはイランとフーシ派を警戒していますが、そのイスラエルに対してスンニ派も一枚岩ではありません。
ジャスミン革命以来の民主革命もまだ終結を迎えてはおりません。
中東は再編の時期を迎えているのかもしれません。
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