哲学的考察 ウソだ! 14:映画『マトリックス』哲学的考察2 ~私とは何か?~

前回に引き続き、映画マトリックス・シリーズを哲学的に考察する。

 

シリーズの3作と、1作目と2作目の間に公開された全9話のオムニバス・アニメは以下となっている。

  1. マトリックス "The Matrix"
  2. マトリックス リローデッド "The Matrix Reloaded"
  3. マトリックス レボリューションズ "The Matrix Revolutions"
  • アニマトリックス "The Animatrix"

 

以下ではそれぞれ『マトリックス』『リローデッド』『レボリューションズ』『アニマトリックス』と表記する。

 

* * *

■第3作『マトリックス レボリューションズ』の解説とポイント

ネオ(の意識)はモービル・アヴェニューと呼ばれる駅にいる。

現実世界とマトリックスの間に広がる世界で、メロビンジアンの支配下にあるトレインマンというプログラムが仕切っていた。

 

ネオはここでラーマ・カンダラ、妻のカマラ、娘のサティという3人に出会う。

3人は中央の統制を外れたプログラム、エグザイルだ。

ふたりは娘を救うためにメロビンジアンに会ったのだと言う。

これから離ればなれになるが、自分たちを犠牲にしてでも娘を救いたいのだと。

 

ラーマ:答えはシンプルです。私は心から娘を愛しています。彼女は何よりもすばらしい。私たちが何者なのか、という問いは意味をなしません。作られたすべてのプログラムには必ず目的があります。そうでなければ消されてしまう。私はフランス人(メロビンジアン)を訪ねて娘を助けてくれるように交渉しました。あなたには理解できませんか?

ネオ:オレはただ……

ラーマ:あなたはいま、愛を語るプログラムの言葉を聞いているのです

ネオ:それは人間の感情だ

ラーマ:違います。ただの言葉です。大切なのは言葉が示す関係性です。あなたには愛する人がいますね。その関係を守るためにあなたは何を犠牲にできますか?

ネオ:なんでも

ラーマ:あなたがここにいる理由は、私がここにいる理由とそれほど違わないようです

 

アーキテクトもスミスも愛を妄想だと断じた。

しかし、愛を理解したプログラムがここにいる。

ふたりは娘を置いてプログラムの世界に戻るのだという。

 

ネオ:なぜ?

ラーマ:カルマ(運命)ですから

ネオ:カルマを信じるのか?

ラーマ:カルマも言葉にすぎません。愛と同じです。言い換えれば、「私はここで何をなすべきか」ということです。私はカルマを恨んでいません。むしろ感謝しています。すばらしい妻と美しい娘を授かった。かけがえのない贈り物です。だから私はそれに報いなければなりません

 

一方、モーフィアス、トリニティ、セラフらはメロビンジアンとの戦闘の果てに交渉に成功し、モービル・アヴェニューに侵入してネオを救出する。

 

その頃、スミスは世界を滅ぼす力を手に入れようとしていた。

無限に増殖し、その力は "the one" に匹敵するほどに。

 

オラクル:始まりがあるものには終わりがある。終わりが見える。広がる闇が見える。死が見える。彼を倒せるのはあなただけ

ネオ:スミス……

オラクル:彼はもうすぐこの世界を滅ぼす力を得る。でも、それだけでは止まらない。すべてを破壊し尽くすまでは

ネオ:ヤツはなんなんだ?

オラクル:あなたよ。あなたの反対、あなたの負の側面。システムがバランスを保とうとした結果よ

ネオ:オレが失敗したら?

オラクル:いずれにせよネオ、この世界は終わりを迎える。今夜、ふたつの世界の未来はあなたの選択に委ねられている。あるいは彼のね

 

ネオとスミスは『マトリックス』で部分的に融合していた。

システムはバランスを保つために両者の力を均衡させた。

その結果、ネオが力を増すほどにスミスも力を増した。

 

そして両者は現実世界とマトリックス、2つの世界に影響を与える力をも手にしていた。

 

ネオはマトリックスからマシーンに侵入してマシーンの動きを捉えることに成功し、現実世界でマシーンをコントロールし、さらにはプラグもなしにモービル・アヴェニューに侵入した。

一方、スミスはベインの身体に侵入して現実世界に進出し、「行けない場所はない」と豪語して現実世界の侵食をも示唆した。

ネオとスミス、人間とプログラム、正と負、善と悪が対照をなしている。

 

ネオは使命を感じてロゴス号を譲り受け、マシーンたちの拠点都市マシーン・シティに向かう。

多くの人々が反対するが、モーフィアスらはネオを信頼する。

 

モーフィアス:"the one" を信じているのか?

ナイオビ:信じてないわ

モーフィアス:それならなぜ船(ロゴス号)を渡す

ナイオビ:彼(ネオ)を信じているから

 

モーフィアス:ネオは「なすべき」と信じたことをなしている。それが正しいことなのか知らないし、マシーン・シティにたどり着けるのか、たどり着いたとして何ができるのかもわからない。だがあいつは最期のひと息まであきらめることはない。オレたちも同じだ

 

センチネルの攻撃をかわして雲の上に出るネオとトリニティ。

その厚い雲は、かつてマシーンが人間に対して反乱を企てた際、マシーンのソーラー・エネルギーを遮断するために人間が作ったものだ。

それに対し、マシーンは人間を生体電池として栽培することでその危機を乗り切った(『アニマトリックス』「セカンド・ルネッサンス」より)。

 

一瞬、太陽を見てトリニティは感嘆する。

 

トリニティ:美しい

 

マシーン・シティに到着したものの、ロゴス号はバランスを失ってビルに激突する。

トリニティはいくつもの鉄筋に身体を貫かれ、死の淵にいた。

 

トリニティ:覚えてる? あの屋根であなたが私をキャッチしたあと、最期に言った言葉を

ネオ:君は「ごめんなさい」と

トリニティ:言うべきじゃなかった。伝えたかったのはそんなことじゃない。だから私はもう一度、チャンスを願った。本当の気持ちを伝えるために。私がどんなにあなたを愛していたか、一緒にいて毎瞬どんなに感謝したのかを。あの時、本当は何を伝えたかったのか理解するのが遅すぎた。でも、あなたは私を助けてくれた。希望を与えてくれた。本当に伝えたいことを言うチャンスをくれた。キスして。(キス) もう一度。キスして。

 

ネオはトリニティを後に、マシーンの王でありメイン・コンピュータであるデウス・エクス・マキナと交渉する。

スミスを倒す代わりにザイオンを救ってくれ、と。

デウス・エクス・マキナはこれに応じ、プラグをつないでネオをマトリックスへ送り込む。

 

マトリックス世界のウイルスと化したスミスは世界のすべての人間やプログラムをスミス自身に変えていた。

あのオラクルをも取り込み、未来を見通す目さえ手に入れた。

 

ネオ:今夜、終わる

スミス:わかっている。すでに見た。だから他の私はこのショーを見物しているだけだ。我々はすでに私が君を倒すことを知っているのだよ

 

世界は因果律に支配されており、未来は見えている。

にもかかわらず何度も立ち上がるネオをスミスは理解することができない。

 

スミス:なぜだ、アンダーソン君。なぜ、なぜ止めない? なぜ立ち上がる? なぜ戦い続ける? 命を捨ててまで守りたいものがあるのか? それが何か言えるのか? 理解しているのか? 自由か、真実か、平和か、それとも愛か? 幻想だよ、アンダーソン君。人間の認識の酔狂、気まぐれだよ。軟弱な人間の知性が意味も目的もない存在を正当化しようとして自暴自棄に生み出したものだ。そうしたすべてはマトリックスよりもはるかに人工的だ。人間の心だけが愛のようなつまらぬものを発明する。君は理解しなければならない、アンダーソン君。もうわかっているはずだ。君は勝てない。戦っても意味がない。なのになぜ、アンダーソン君、なぜだ? なぜそこまでこだわる?

ネオ:選択したからだ

 

予見したとおり、ネオを倒し、見下ろすスミス。

しかし突然、ひとつの言葉が口を突く。

 

スミス:始まりがあるものには終わりがある。……いま、私は何と言った?

 

オラクルの言葉だ。

恐怖したスミスはネオを取り込み、スミスに変える。

現実世界のネオの身体が黄金色に輝くと、すべてのスミスが内側から輝き出して粉砕された。

 

ネオは第1作『マトリックス』と同様に、スミスの内部に入ることでスミスのプログラムを書き換え、それがすべてのスミスにアップデートされることで粉砕することができたのだろう。

ネオと戦ったスミスはオラクルの姿に戻っていた。

 

黒猫が現れるとマトリックスはリロードされ、サティが目を覚ます。

『マトリックス』でも黒猫はプログラム書き換えの象徴であるデジャブのシーンで登場している。

 

公園ではオラクルとアーキテクトが話をしていた。

彼らにも未来は見えていない。

 

オラクル:あらまぁ、驚きだわ

アーキテクト:危険なゲームをしたものだ

オラクル:変化はいつでもそうね

アーキテクト:この平和はどのくらい続くと思う?

オラクル:可能な限り

アーキテクト:(笑い)

オラクル:他の人たちはどうしたの?

アーキテクト:他の人?

オラクル:外に出たがった人たち "the ones"

アーキテクト:彼らは自由だ

オラクル:信じていいのね

アーキテクト:私をなんだと思っているのかね、人間とでも?

 

マシーン部隊はザイオンへの侵攻を停止し、撤退する。

人々は戦争の終結を知り、ネオに感謝して雄たけびを上げる。

 

こうしてザイオンは平和を取り戻し、マトリックスはリロードされた。

これから先、人類とマシーンは共存共栄の道を探っていくのだろう。

 

サティ:オラクル! 二度と会えないかと思った

オラクル:もう大丈夫よ

サティ:見て見て!(朝日が昇る)

オラクル:まぁ、美しい。あなたが描いたの?

サティ:ネオのために

オラクル:素敵ね。彼も気に入るわ

サティ:また会えるかな?

オラクル:そう感じるわ。いつの日か

 

護衛のセラフが尋ねる。

 

セラフ:知っていたのですか?

オラクル:いいえ、知らなかったわ。でも信じていた。信じていたの

 

サティは朝日のプログラムを書き、走らせた。

マトリックスに美しい朝日が昇り、世界を照らしていた。

 

マトリックスは愛を知る人間=ネオと、愛を知るプログラム=サティの影響を受けつつ、リロードされた。

マトリックスのレボリューション(革命)だ。

 

* * *

『マトリックス レボリューションズ』のラストシーン。1:32から、リロードされてはじまる新たなるマトリックス世界

 

■マトリックスの哲学的考察:世界とは何か?

ウォシャウスキー兄弟(姉妹)の言葉に戻ろう。

マトリックス・シリーズは続編を作る余地がないほど完結しているだろうか?

 

もちろん、そんなことはない。

ネオはどうなったのかわからないし、現実世界における人間とマシーンの共存も予断を許さず、マトリックスのその後も不明。

よい予兆はあるものの、先行きは不透明だ。

 

なぜ、これで完結なのか?

 

おそらく、完結である理由は物語にない。

物語を超えた部分で完結させているのだろう。

 

物語を離れてマトリックスの哲学的テーマをたどってみよう。

 

『マトリックス』でネオは世界に対して違和感を抱き、モーフィアスの手引きによって現実世界で覚醒する。

ここでの哲学的テーマは次のようなものだ。

 

  • (真実の)世界とは何か?
  • この世界が夢や幻ではないと言えるのか?

 

ここにリンゴがある。

リンゴは光を反射し、その反射した光を人間の目が捉える。

光は目の神経に刺激を与え、刺激を受けた神経が電気信号を脳に転送し、それを脳が統合することで「リンゴを見る」という現象が起こる。

 

逆に言えば、リンゴを見たときと同じ電気信号を脳に送ってやれば、リンゴがなくても「リンゴを見る」という現象が起こる。

マシーンはこれを利用し、プラグを通じて電気信号を脳に送ることで人々にマトリックスという幻想を見させていた。

 

いわゆる観念論だ。

物質がそこに実在するわけではない。

人間の思考が作り出した観念にすぎないのだ(「脳」もそうやって生み出された観念なので、脳が観念を作り出しているわけではない)。

 

そして『リローデッド』において哲学的問いはさらに深みを増す。

マトリックスにあったはずのスプーンが現実世界に姿を現し、マトリックス内の存在であるはずのスミスはベインを通して現実世界に進出し、ラストではネオが現実世界においても超常的な力を発揮する。

 

ここで問うているのは以下だ。

 

  • 真実の世界に目覚めたとして、その真実の世界がシミュレーション世界や幻想でないと言えるのか?
  • 夢から覚めた現実世界もまた夢である可能性を否定できるのか?

 

言えないし、できない。

主観が客観を捉えて世界を展開するという人間の原理上、客観にはつねに主観が編み込まれており、純粋な客観を取り出すことはできない。

したがって人間が見ている世界はつねに主観の幻想や夢でありえる。

 

仮想現実から何度覚醒しようと、どんなに夢から覚めようと、この問いは永遠に繰り延べられ、謎は謎として残りつづけてしまう。

この問いは、解決できないアポリア(哲学的行き詰まり)なのだ。

 

* * *

■マトリックスの哲学的考察:運命論と観念論

マシーンやプログラムは因果律に従って動いている。

つねに、アクションに対してリアクション、原因に対して結果がつきまとう。

 

この世界観から見れば世界は必然であり、偶然が入り込む余地はない。

感情は幻想にすぎず、選択など存在しない。

こうした機械論、あるいは運命論の世界に生きるアーキテクトやメロビンジアン、スミスには人間の感情が理解できない。

 

一方、人間にとって未来は意志による選択の結果、変化するものだ。

そして選択は愛や信頼のような感情によって大きく左右される。

 

先述のリンゴの話に戻ろう。

存在しているのはリンゴではなく、リンゴという観念だ。

であれば、物質より先に存在するのは感性や知性であるはずだ。

 

先行しているのは感性や知性で、マトリックスや現実世界の認識は、感性や知性が観念を作り出した後で生まれている。

先に感覚や感情があるから因果律が可能になるのだ。

 

この世界観において世界は混沌としており、因果律こそ幻想にすぎず、ひとつの認識にすぎなくなる。

世界がそのようにあるのではなく、人間が、あるいはマシーンやプログラムが世界をそのように見ているのだ。

だから感覚や感情を持つ人間はマシーンやプログラムの絶対的な運命論を受け入れることができない。

 

オラクル:理解していない選択の先は誰にも見ることができないけれど、あの男(アーキテクト)には選択の後にも何も見えないの

ネオ:なぜ?

オラクル:彼には理解できないから。できないの。彼にとっては選択も変数の内、一度に1つずつ変数を解き、答えを出す。彼の目的はつねにバランスを保つこと

 

理解できないから先を読むことができない。

しかし、理解できればある程度、読むことはできる。

 

運命論の視点で見れば、物事はすべて合理的に動いている。

観念論の視点で見れば、人間はみな合理的に動いている。

世界は機械的に動いていると考えても、感覚や感情に左右されていると考えても、どちらにもそれぞれの「理」がある。

 

アーキテクトにとってネオ以前の5人の "the one" がソースに取り込まれたのは必然だったし、スミスにとってサイファーが寝返るのは合理だった。

一方、モーフィアスにとって命を捨ててネオを守ることは必然だったし、トリニティにとって片道切符であってもマシーン・シティに行くのは合理だった。

ただ、理の対象と内容が違うだけだ。

 

そして人間とプログラムはマトリックスを通して交流し、お互いを理解しはじめる。

人間は運命論的な合理も十分理解できる。

一方、オラクルやパーセフォニー、サティといったエグザイルは感情を理解する。

 

愛を否定するメロビンジアンやスミスでさえ、マトリックスの匂いを嫌い、ワインの香りを愛し、感情で動く人間を憎み妬んでいる。

感情を否定するのであれば怒りや憎しみも否定するべきだろう。

 

ラーマの言うように、感情は言葉にすぎない。

大切なのは関係性だ。

 

誰かを守りたいと思い、自らを犠牲にすること。

人間であれプログラムであれ、そのような関係性を「愛」と呼ぶ。

反対に、敵対し強く否定すべき関係性は人間にとってもプログラムにとっても「憎悪」だ。

"the one" であるネオが力を増し愛を増すほどに、ネオの負の側面であるスミスは力を増し憎悪を拡大させていく。

 

そしてこれらが必然なのか不確実なのかは視点の違いによるだけで、普遍的な基準があるわけではない。

解釈に依存している。

言葉にすぎないのだ。

 

この問いも、やはり解決できないアポリアなのだ。

 

* * * 

■マトリックスの哲学的考察:私の選択、世界の開闢

この世界が真実の世界であるか否か?

この世界が機械的なものであるのか観念的なものであるのか?

 

これらの問いに答えはない。

結局のところ、人間にとってもマシーンやプログラムにとっても真実は闇の中にある。

アーキテクトやオラクルでさえ未来を予知することはできなかった。

 

モーフィアスは語る、人は心の牢獄にいるのだと。

少年僧は言う、スプーンなんて存在しない、自分が曲がるのだと。

 

人もマシーンもプログラムも、自分の世界の中で生きるしかない。

そうした意味で、人もマシーンもプログラムも、心に牢獄を作って生きている(エヴァンゲリオン的にいえばATフィールド)。

 

真実の世界で目覚めたとしても、その世界が夢・幻でない保証はない。

どんなに必然に見えても、不確実に見えても、その必然や不確実さえ幻想である可能性を否定できない。

こんな問いをいくら循環させても意味はない。

 

しかし――

 

身体をつねる。

とても痛い。

今この瞬間のこの感覚。

これ以上に確かなものがあるだろうか?

 

世界はシミュレーションかもしれないし、夢かもしれない。

ぼくのこの身体は幻かもしれないし、物質は観念にすぎず、実際には存在しないのかもしれない。

しかし、今この瞬間のこの痛み。

この痛みの実感は世界のすべてを否定しても否定することはできない。

 

あなたは誰かを愛している。

今この瞬間のその感情も、世界のすべてを否定しても否定することはできない。

愛が育まれた物語を否定することはできても、いままさにここにある愛の感情そのものを否定することはできない。

 

自分や世界の真実がなんであろうとそんなこととは無関係に感覚や感情はありあり生き生きと現前し、関係性は保たれる。

この世界が真実だろうとシミュレーション世界だろうとネオはトリニティの痛みが我慢できないし、彼女を失うわけにはいかない。

自分が人間だろうとプログラムだろうとラーマはサティを守らずにはいられない。

 

この世界が夢・幻だからなんだというのだろう?

人間だからプログラムだからなんだというのだろう?

 

夢の中で大切な人が全力で生きており、痛みに顔を歪め、窮地に陥っている。

そうしたらネオのように、あなたは躊躇なくその人を助けるはずだ。

 

「世界」はあるものではなく、一定の姿を持つものでもない。

解釈によってそれぞれの内に姿を変えて生まれるものだ。

運命論を信じればそのように世界は展開し、観念論を信じればそのように世界は開闢(かいびゃく。世界が開けること)する。

愛ある世界を選択すれば世界に愛を感じるし、運命論の世界を選択すれば必然を感じるだろう。

 

ぼくたちは心が展開する世界の奴隷であるが、同時に、心を支配する世界の王でもある。

ぼくたちは世界の在り方に左右されるが、同時に、ぼくたちが世界を曲げている。

 

重要なのは、あなたが何を実感し、何を信頼し、何を選択するか、だ。

それが「己を知る」ことであり、その選択に従って世界は開闢し、その世界を生きる「私」が誕生する。

 

ネオやトリニティやオラクル、サティは愛ある世界を選択した。

そして……

 

あなたはどんな世界を選択するのですか?

 

この問いによってマトリックス・シリーズは真の完結を迎える。

ここにおいて、「真実とは何か?」「世界とは何か?」「人間とは何か?」といった問いはもはや意味をなさない。

物語の内容もいっさい無意味だ。

 

現実世界も、マトリックスも、映画を見ているぼくたちの世界も、ぼくたちの身体さえ、すべては夢・幻かもしれない。

しかし、こうした問いをエポケー(判断停止)し、夢であっても幻であってもなお大切なものをマトリックス・シリーズは提示する。

 

このように、問題のレベルを上げることで問題を消去することを「アウフヘーベン(止揚)」という。

こうしてマトリックス・シリーズは問題空間をぼくたちに転移する。

 

この先、答えを出せるのは一人ひとりの「私」だけだ。

そしてその答えに従って世界は開闢し、その世界の中でいまを生きる「私」が誕生する。

 

世界観を変更した者の中では革命=レボリューションが起こり、世界はリロードされて新たな世界と新たな「私」が生まれるのだ。

だからこそ、複数形の「レボリューションズ」なのだろう。

 

あなたはどんな世界を選択するのですか?

そしてどんな「私」を生きるのですか?

 

これこそ続編を必要としない完全な結末ではないか――

そう、考える。

 

* * * 

ぼくはこのようにマトリックス・シリーズを解釈した。

だから続編は必要ないし、蛇足にしかならないだろうと思う。

 

ところが、『マトリックス』公開から20年を経て続編の話が進んでいるらしい。

ここからどうやって哲学を進めていくのだろう?

 

おそらく、新たなアウフヘーベンが必要となる。

それがどんなものか、とても楽しみだ。

 

なお、哲学についてはカテゴリー "LOGIC" で展開しているのでよろしければご参照ください。

特に感性と知性が物質より先行しているという話、水槽脳仮説やシミュレーション仮説は「Logic 1:哲学的探究 哲学入門」で詳述しています。

また、人生一般に話を広げると「哲学的考察 ウソだ! 22:人はなぜ生きるのか?」のような展開が見られます。

 

次回はSF小説や漫画・アニメ・映画等でしばしば登場するタイム・トラベルとタイム・パラドックスを通して人と時間を考察します。

 


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