世界遺産と世界史2.大陸の形成
<大陸移動説>
■プレート・テクトニクス理論とプルーム・テクトニクス理論
20世紀はじめのある日、ドイツの気象学者アルフレッド・ウェグナーは地球の地図を見ていてひらめきました。
「アフリカと南アメリカ大陸ってくっついてたんじゃね?」
そして『大陸と海洋の起源』を著して大陸が移動しているという仮説=大陸移動説を発表しました。

多くの学者は「まさか」と思いましたが、そう考えると解決する問題もたくさんありました。
たとえばアフリカ大陸と南アメリカ大陸の地層がそっくり――
たとえば熱帯地方で氷河の痕跡が発見されたり、極地で熱帯生物、高山で海洋生物の化石が発掘されている――
たとえばダチョウ目の生物、アフリカのダチョウ、南米のレア、オーストラリアのエミュー、ニュージーランドのキーウィなどの「飛べない鳥」は南半球にしかいない――
大陸移動について、現代では地球表面が「プレート」と呼ばれる固い岩盤で覆われていて、その岩盤は下に広がるマントルの流れに沿って移動すると説明されています(プレート・テクトニクス理論)。
そしてまた、固まった冷たい岩盤(コールド・プルーム)はやがてマントルに沈み込み、逆にマントルからは熱い岩石やマグマ(ホット・プルーム)が吹き出して新しい陸地を形成すると考えられています(プルーム・テクトニクス理論)。
イメージとしては下記の動画を参照してください。
なお、地球はだいたい内核-外核-マントル-地殻からできており、このうち外核が液体で他は固体です。
固体ではありますが対流(マントル・オーバーターン)が起き、上層と下層が入れ替わっています。
地球内部の対流の動きを説明するのがプルーム・テクトニクス理論、地表面の動きを説明するのがプレート・テクトニクス理論で、両者は一体となっています
■超大陸と大陸移動

地表は十数枚のプレートで構成されています。
たとえば日本列島は西のユーラシア・プレート、北の北アメリカ・プレート、南のフィリピン海・プレートという3枚のプレートの境界線上に位置しています。
これが地震や火山が多い理由になっています。
こうしたプレートはそれぞれ動いており、地表の形はつねに変化しています。
これがプレート・テクトニクス理論です。
では、これまで大陸はどのように動いてきたのでしょうか?
約40億年前に海が誕生しました。
火山が噴火し、島ができ、島はプレートに乗って移動し、やがて集まって大陸を形成します。
水に浮いた落ち葉がやがて一か所に集まるように、大陸も長い時間を経て超大陸へと進化します。
約7億年前、地球上の大陸が集合してロディニアと呼ばれる超大陸が誕生しました。
超大陸では厚い岩盤によってマグマが出口を失うため、超大陸の下に莫大な量のマグマが溜まってスーパープルームを形成します。
このスーパープルームの圧力で超大陸は再び分裂するのですが、ロディニアはローレンシア、シベリア、ゴンドワナなどの大陸に裂かれました。
2億5,000万年前、再び大陸は集合し、パンゲアという超大陸を造り出しました。
パンゲアもまたスーパープルームの力で引き裂かれ、ローラシア大陸とゴンドワナ大陸に分裂しました。
このローラシア大陸がやがてユーラシア大陸、北アメリカ大陸に分かれます。
つまりヨーロッパ、アジア、北アメリカという北半球の陸地のほとんどが同じ起源を持つことになります。
一方ゴンドワナ大陸は東ゴンドワナと西ゴンドワナ大陸に分裂。
そして東ゴンドワナ大陸から南極大陸、オーストラリア大陸、インド亜大陸、マダガスカル島が分かれ、西ゴンドワナ大陸からはアフリカ大陸、南アメリカ大陸が誕生しました。
このように南半球のほとんどはゴンドワナ大陸に起源を持ち、そのためたとえばダチョウやレア、エミューなどの飛べない鳥や、肺魚やシクリッドといった魚が北半球にはいないか少ないことの理由になっています。
下の動画は6億5,000万年前から現在までの大陸移動のシミュレーションです。
大陸移動の様子。5億4,000万年前の古生代カンブリア紀から現代までをシミュレートしています。なお、左上の数字の「540」は "540 million years"、つまり5億4,000万年前を示しています。2億5,000万年前辺りに登場する超大陸がパンゲアです。ネジマークをクリックするとメニューで再生スピードを調整できます

こうした大陸移動に関係する世界遺産も数多く存在します。
たとえばギアナ高地の名前で有名な世界遺産「カナイマ国立公園(ベネズエラ)」。
パンゲアが分裂する際、この辺りが中心にあったと考えられています。
そのため地質が20億年前から大きく変化していないうえに、高さ2,000mに及ぶテーブル・マウンテン=テプイ上の生態系は外界から遮断されており、ゴンドワナ時代から直接進化した多くの固有種が発見されています。
ゴンドワナ時代の生態系を引き継ぐ世界遺産は特にオセアニアで多く発見されています。
これはゴンドワナ大陸から分かれたアフリカ大陸がユーラシア大陸と、南アメリカ大陸が北アメリカ大陸と陸続きになって生物が混じり合ったのに対し、オーストラリア大陸やそこから分かれたタスマニアやニュージーランド、ニューカレドニアは他の大陸から離れていたためゴンドワナの種が独自の進化を遂げることができたからです。
○ゴンドワナ時代の影響が確認できるオセアニアの世界遺産の例
- タスマニア原生地域(オーストラリア)
- オーストラリアのゴンドワナ雨林(オーストラリア)
- クイーンズランドの湿潤熱帯地域(オーストラリア)
- グレーター・ブルー・マウンテンズ地域(オーストラリア)
- テ・ワヒポウナム-南西ニュージーランド(ニュージーランド)
- ニュージーランドの亜南極諸島(ニュージーランド)
- ニューカレドニアのラグーン:リーフの多様性と関連の生態系(フランス)
似た起源を持つのがマダガスカル島で、1億5,000万年前以前に東ゴンドワナ大陸からインド亜大陸とともに分離し、1億年ほど前にインド亜大陸と分岐しました。
その後、インド亜大陸はユーラシア大陸と衝突しましたが、マダガスカル島は約1億年にわたって孤立した環境を維持しました。
これが生物種の90%が固有種といわれる独自性を育みました。
○ゴンドワナ時代の影響が確認できるマダガスカル島の世界遺産
- ツィンギ・デ・ベマラ厳正自然保護区(マダガスカル)
- アツィナナナの雨林(マダガスカル)
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<大陸移動を裏づける世界遺産>
■衝突するプレート
インド亜大陸がユーラシア大陸に衝突してヒマラヤ山脈やチベット高原が形成される様子をシミュレートしています

大陸移動を証明する大きな証拠がヒマラヤ山脈とその周辺、チベット高原やパミール高原といった地域です。
昔からヒマラヤ山脈は「世界の屋根」と呼ばれているにもかかわらず、ウミユリや三葉虫など海の生物の化石が発見されることで知られていました。
約5,000万年前、インド・プレート(インド亜大陸)がユーラシア・プレート(ユーラシア大陸)に衝突し、その衝撃で隆起したのがヒマラヤ山脈やチベット高原、パミール高原です。
この隆起はいまだに収まっておらず、エベレストの標高は毎年4mmほどずつ高くなっているといわれます。
○インド・プレートが関係した世界遺産の例
- サガルマータ国立公園(ネパール)
- ナンダ・デヴィ国立公園及び花の谷国立公園(インド)
- 大ヒマラヤ国立公園保護地域(インド)
- カンチェンゾンガ国立公園(インド)
- タジク国立公園[パミール山脈](タジキスタン)
- 西天山/パディシャ=アタ国立自然保護区(ウズベキスタン/カザフスタン/キルギス共通)
- 新疆・天山(中国)
- 九寨溝の渓谷の景観と歴史地域(中国)
- 黄龍の景観と歴史地域(中国)
- 雲南三江併流の保護地域群(中国)
- 青海可可西里[チンハイココシリ](中国)
[関連サイト]

インド亜大陸と似た背景を持つのがカナダのニューファンドランド島です。
北アメリカ・プレートとアフリカ・プレートの衝突によってマントル層が隆起してできた島で、その証拠は世界遺産「グロス・モーン国立公園(カナダ)」のテーブル・ランドなどで見ることができます。
マントル層は世界遺産「マッコーリー島(オーストラリア)」でも観察できます。
この島はオーストラリア・プレートと太平洋・プレートの衝突によって隆起した島で、1,000万年前から現在まで隆起しつづけています。
このようにプレート同士の衝突(沈み込み)でできた円弧状の盛り上がりを火山弧と呼び、大陸地殻が盛り上がったものを大陸弧、海洋地殻の場合は海洋弧と呼び、海洋弧にできた島を海洋性島弧、列島を弧状列島などと呼びます。
ニュージーランドの北島・南島が海洋性島弧、日本列島は弧状列島です。
極端な話、すべての陸地がプレートとプルームの影響を受けています。
特に山脈はプレート同士の衝突か分裂でできるものなので、山に関するほとんどの世界遺産がプレートの活動と関係しています。
ロッキー山脈にある世界遺産「カナディアン・ロッキー山脈自然公園群(カナダ)」や「ウォータートン・グレーシャー国際平和自然公園(アメリカ/カナダ共通)」、アンデス山脈にある「サンガイ国立公園(エクアドル)」や「ワスカラン国立公園(ペルー)」、アルプス山脈にある「スイス・アルプス ユングフラウ-アレッチ(スイス)」「サン・ジョルジオ山(イタリア/スイス共通)」「ドロミーティ(イタリア)」など、枚挙にいとまがありません。
■引き裂かれるプレート
地下からホット・プルームが浮かび上がってくることでプレートが引き裂かれます。引き裂かれた周囲は盛り上がって高山が形成されます
グレート・リフト・バレーはやがてアフリカ大陸を引き裂くといわれています。近年見られる大地の裂け目をその兆候と考える者もいます

日本やインドネシア、ペルーなど、地震が多発する場所はたいていプレートの衝突面にあるものですが、もちろん引き裂き合っているプレートも存在します。
先の解説で、超大陸パンゲアはスーパープルームの力で引き裂かれたと書きましたが、ホット・プルームの上昇で現在引き裂かれつつあるのがグレート・リフト・バレー(大地溝帯)です。
グレート・リフト・バレーはアフリカ南部から中東の死海までおよそ7,000kmに及ぶ断層で、プルームの隆起によって高い山地を形成すると同時に、地殻にぶつかったプルームが左右に分かれることで大地は引き裂かれており、深い渓谷を築いています。
渓谷は年間2.5~5.0cmほどの速さで広がっており、5,000万年後にはグレート・リフト・バレーは海中に没し、モザンビークからタンザニア、ケニアの沿岸部からエチオピア、ジプチにかけての土地が新大陸を形成するようです。
エチオピア高原やケニア、ウガンダ、コンゴ周辺の山地はこうした隆起によって誕生しました。
標高5,895mを誇るアフリカ最高峰キリマンジャロ山①、第2峰ケニア山②、第3峰スタンリー山③、第4峰ラスタジャン山④はいずれもこの隆起部分に含まれています。
※①世界遺産「キリマンジャロ国立公園(タンザニア)」
②世界遺産「ケニア山国立公園/自然林(ケニア)」
③世界遺産「ルウェンゾリ山地国立公園(ウガンダ)」
④世界遺産「シミエン国立公園(エチオピア)」
[関連サイト]

一方、裂け目にあたる渓谷や低地・盆地にできた湖や海がトゥルカナ湖①やマラウイ湖②、エレメンタイタ湖③やナクル湖③、紅海です。
マサダ④を含むヨルダン渓谷の死海はグレート・リフト・バレーの北端に近く、隆起がないため海抜-400m超と世界でもっとも低い場所となっています。
※①世界遺産「トゥルカナ湖国立公園群(エチオピア)」
②世界遺産「マラウイ湖国立公園(マラウイ)」
③世界遺産「グレート・リフト・バレーにあるケニアの湖水システム(ケニア)」
④世界遺産「マサダ(イスラエル)」
グレート・リフト・バレーに多いのが「古代湖」です。
一般的に、湖は川から流れ込む土砂のせいで数千年・数万年で埋め立てられてしまいます。
ところがグレート・リフト・バレーにあるマラウイ湖やヴィクトリア湖、タンガニーカ湖は裂け目が少しずつ広がっているため何百万年もありつづけることができました。
こうした数十万年以上の歴史を持つ湖を古代湖といいます。
たとえばマラウイ湖は300万~200万年前に誕生したと考えられています。
アイスランドの形成の様子

グレート・リフト・バレーと同様に、引き裂かれつつあるのがアイスランド周辺です。
アイスランドの地下ではホット・プルームが上昇しており、マグマが吹き出す「ホット・スポット」が存在します。
これが数多くの火山を生んでいるわけですが、プルームは大地を左右に引き裂くようにして上昇してきます。
ユーラシア・プレートと北アメリカ・プレートが引き裂き合い、中央でマグマが吹き上げてできた大西洋中央海嶺に浮かぶのがアイスランドです。
世界遺産「ヴァトナヨークトル国立公園-炎と氷によるダイナミックな自然(アイスランド)」の火山群はこうしてできたもので、世界遺産「シングヴェトリル国立公園(アイスランド)」ではギャオと呼ばれる大地の裂け目を見学することができます
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