私的旅行術 現地編6:治安情報の入手法&治安の判断法
日本は世界でもっとも治安がよい国のひとつです。
ですから海外旅行に行く際は多かれ少なかれ日本にいるときよりも警戒しなければならないことになります。
現地編の第6回では、現地の治安の最新情報を手に入れる方法、治安を的確に判断する方法を紹介します。
なお、盗難や紛失に対する事前準備については「私的旅行術 準備編11:盗難&紛失対策」を参照してください(一部内容が重複しています)。
○本記事の章立て
- 治安の考え方
- 外務省・危険情報と政治リスク、犯罪リスク
- 現地の治安&犯罪情報を入手する方法
- 治安を判断する方法
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■治安の考え方
ぼくは約100か国を訪ねていますが、これまでに未遂も含めて以下のような犯罪に出くわしています。
○個人的に出くわした犯罪の例
- 中国:ボッタクリ(バー、茶屋、タクシー。被害小)
- 香港:通りでショルダーバッグ内の財布の盗難
- イスラエル:キャンプサイトでカメラバッグの盗難
- オランダ:ナイフ強盗(被害なし)
- スペイン:地下鉄内で集団スリ(ほぼ被害なし)
- ポーランド:駅で仮眠していて靴の置き引き
- エクアドル:トラム内で集団スリ(被害なし)
- エクアドル:ナイフ強盗(被害なし)
- グアテマラ:バス内で集団スリ(ほぼ被害なし)
- ボリビア:路上でケチャップ強盗(被害なし)
- ブラジル:ビーチで脱いだ服の置き引き
- 南アフリカ:ATMでスキミングまたはATM詐欺(被害なし)
- 不明:クレジットカードの不正使用
数えてみると結構ありますね。
多くを「被害なし」で食い止めているのは事前に犯罪情報をつかんで警戒していたからです。
中国・上海などのボッタクリは『地球の歩き方』や上海の日本総領事館でも警戒を呼び掛けています。
スペインの集団スリとボリビアのケチャップ強盗は非常に有名で、実際に被害に遭った人にも会っていたので、ケチャップを掛けられた瞬間、集団に囲まれた瞬間に対応することができました。
香港の財布の盗難については、こういうこともあろうかとポケットとショルダーバッグに盗まれても構わない見せ財布を入れていたので、被害を最小限に抑えることができました。
ただ、「警戒する」と言っても警戒しすぎると行動範囲や自由度が限られますし、人々との交流も減ってしまいます。
ぼくは町歩きが好きで、市場などで食事をして現地の方々と交流することを大きな楽しみにしています。
市場は観光エリアから離れた生活圏にあるものですが、こうした場所に行かない旅は考えられません。
ですから適切に治安を見切り、警戒のレベルを調整する必要があるわけです。
ぼくはLevel.1~4の4段階の警戒レベルを設定していますが、その場の状況を見てレベルを決め、それに沿った行動をしています(次回「私的旅行術 現地編7:治安が悪い場所の歩き方」で紹介します)。
厄介なのは、危険だと思われている場所がそれほど危険でなかったり、安全だと思われている場所が実際にはかなり危ないなんてことが少なくないことです。
日本にも夜ひとりで出歩くことがためらわれるような場所があるように、安全だと思われている国や都市にも危険地帯はあるものです。
ですからその場その場で自分自身で治安状況を判断する力が必要になるわけです。
以上より、治安については以下2点がポイントになります。
- 最新の治安&犯罪情報を得て対策を練ること
- 自分自身で治安状況を判断して的確に行動すること
今回の記事で両ポイントの前半部分を、次回の記事で後半部分を紹介します。
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■外務省・危険情報と政治リスク、犯罪リスク
○海外安全ホームページで危険情報を入手する
海外の治安について、まずチェックすべき情報が外務省・海外安全ホームページの「危険情報」でしょう。
○危険情報
危険情報とは、「渡航・滞在にあたって特に注意が必要と考えられる国・地域に発出される情報で、その国の治安情勢やその他の危険要因を総合的に判断し、それぞれの国・地域に応じた安全対策の目安をお知らせするもの」です(海外安全ホームページより抜粋)
以下のwebサイトで国・地域名を検索すると各地の情報が表示されます。
危険情報はその中にあるのですが、渡航前というより旅行先を決める前に必ずチェックしてください。
危険情報では安全対策の目安を4カテゴリー(危険情報が出ていない地域を含めれば5カテゴリー)で表しています。
○危険情報の4カテゴリー(抜粋)
- レベル1:十分注意してください
その国・地域への渡航、滞在に当たって危険を避けていただくため特別な注意が必要です。
- レベル2:不要不急の渡航は止めてください
その国・地域への不要不急の渡航は止めてください。渡航する場合には特別な注意を払うとともに、十分な安全対策をとってください。
- レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)
その国・地域への渡航は、どのような目的であれ止めてください。場合によっては、現地に滞在している日本人の方々に対して退避の可能性や準備を促すメッセージを含むことがあります。
- レベル4:退避してください。渡航は止めてください(退避勧告)
その国・地域に滞在している方は滞在地から、安全な国・地域へ退避してください。この状況では、当然のことながら、どのような目的であれ新たな渡航は止めてください。
目的地にこれらの危険情報が出ている場合、どうしたらよいのでしょうか?
実は安全情報にはいっさいの強制力がありません。
ですからレベル1や2が出ていてもツアーが催行されたりしますし、ビザや交通機関等の事情が許せばレベル4の地域にさえ行くことができます。
ただ、一般的には旅行者はレベル2~4の場所に行くことは避けた方がよいと考えられています。
レベル1については情報を十分に入手したうえであればそれほど問題ないことが多いです。
たとえば2024年2月現在、カンボジアには全土にレベル1が出されていますが、世界遺産「アンコール」へたくさんのツアーが催行されていますし、世界中から毎年数百万人の観光客が訪れています。
注意したいのは、安全情報が出ていない、あるいはレベル1~2だからといって安全だとは限らないという点です。
レベル1でもとてつもなく危険な場所もあれば、レベル4でもさほど危険でない場所もあったりします。
これを政治リスクと犯罪リスクの違いから解説してみましょう。
○危険情報の注意点:政治リスクと犯罪リスクの違い
政治リスク・犯罪リスクの違いは以下。
- 政治リスク:テロ組織や反政府勢力の存在や不安定な政権等、政情不安から来る危険
- 犯罪リスク:スリや強盗など場当たり的な一般犯罪による危険
外務省の危険情報は政治リスクを重視した指標で、犯罪リスクは軽視される傾向があります。
たとえば2024年2月現在、南アフリカのヨハネスブルク、マラウイのリロングウェ、エクアドルのキト、コロンビアのボゴダ、ブラジルのリオデジャネイロといった都市の全域あるいは一部がレベル1~2となっています。
しかし、ヨハネスブルクは旅行者の多くが避ける町で、駅周辺の被強盗率は150%(平均2回弱、強盗に遭うため)なんていう笑い話があるほどの犯罪都市です。
ナイロビはぼくが訪ねた都市の中でもっとも危険な街でしたし、キトやボゴダ、リオにもスラムがあり、強盗等の被犯罪率が異常に高くて最高度の警戒が必要でした。
一方で、レベル3のアブハジアの首都スフミなどは政治リスクは高いものの犯罪リスクはさほど高くなくて、実際行ってしまうとそれほど危険ではなかったりするのです(もちろんクーデターやテロ、大使館・領事館がないなどの問題があるため行くことは控えるべきでしょう)。
このように、危険情報のレベルのみを信じるのは非常に危険です。
ですからガイドブックや実際に訪れた人のクチコミ情報などで最新の治安状況を入手することが大切です。
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■現地の治安&犯罪情報を入手する方法
前章でも紹介しましたが、現地の治安情報を集めるときに最初にアクセスしたいのが外務省の海外安全ホームページと、各国の日本大使館・領事館のwebサイトです。
海外安全ホームページは海外安全アプリでも読むことができます。
海外安全ホームページの各国のデータの中には「危険・スポット・広域情報」の他に「安全対策基礎データ」「テロ・誘拐情勢」「安全の手引」「医療事情」といった項目もあるのでチェックしてみてください。
特に安全対策基礎データにはその国の具体的な犯罪情報が記されているので参考になります。
外務省の日本大使館・領事館のリストページにもリンクを張っておきます。
国名をクリックすると各国の日本大使館や領事館のwebサイトが出てきます。
大使館や領事館でも安全情報をはじめさまざまな情報を発信しているので、こちらも確認してみてください。
海外安全ホームページでは実際の犯罪事例や対策等も解説しています。
関係するページもリンクしておきます。
なお、外務省では海外旅行者や在住者に対して外務省のシステム「たびレジ」や「オンライン在留届ORR」への登録を促しています。
特に海外に住所や居所を定めて3か月以上在留する人については日本大使館や領事館・オンラインで在留届を提出することが義務づけられています。
実際に現地に行ってきた人のクチコミ情報は以下で入手できます。
最新情報がなければ質問してみてください。
特にTripAdvisorは非常に有用です。
英語や現地語の情報の方が多いので、日本語で調べるだけでなく、言語設定や地域設定を変更して調べてみてください。
英語や現地語が読めなくても、Microsoft EdgeやGoogle Chromeなどのブラウザならサイト全体を翻訳してくれるのでオススメです。
○海外旅行に役立つクチコミ・サイト
- TripAdvisor(トリップアドバイザー)
- 4travel(フォートラベル)
- 地球の歩き方
- Yahoo!知恵袋
- 5ch海外旅行板
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■治安を判断する方法
○治安を判断することの大切さ
安全な街にも危険な場所があり、危険な街にも安全な場所があります。
先入観にとらわれずに治安を判断することができれば、危険を大きく減らすことができます。
一例ですが、ぼくは個人的に、殺人件数が極端に多いコロンビアのボゴダやフィリピンのマニラよりスペインのマドリードやイタリアのミラノの方が危険だと感じました。
実際、日本人観光客の被犯罪率はボゴダやマニラよりマドリードやミラノの方が高いのではないでしょうか。
コロンビアでは殺人事件は多くても外国人観光客が被害に遭うケースは非常に少なかったりします。
コロンビアに強力な犯罪組織や反政府勢力があるのは事実ですが、観光客に被害を与えると外圧を通して自分たちの立場が不利になるため、外国人への犯罪を抑制する傾向にあるためです。
反対に、危険なのは統制する組織のないスラムです。
特にスラムについては先進国の方が危険だと言われています。
途上国の強盗は命を奪うことまでしませんが、先進国は警察機構がしっかりしているので、犯罪が露見することを恐れて手軽に殺害してしまうためです。
先進国だから安全、途上国だから危険などということはありません。
だからこそ、その場その場で治安状況を判断する必要があるわけです。
危険な街は雰囲気でわかるものですが、以下では具体的に目を向けるべき場所をピックアップしてみましょう。
○ここに注目!:若い女性のファッションと行動
ぼくは危険と言われている場所でも現地の若い女性と同レベルの行動をしていればほぼ間違いないと思っています。
これまでの経験でもっとも危険だった場所はケニアのナイロビやエルサルバドルのサンサルバドル、コロンビアのカリなどの郊外ですが、そのような場所では若い女性をほとんど見かけません。
少し危険な場所になると、女性は身体の線が出ない厚めの服装をして、荷物を前に抱え、夕方以降は出歩きません。
逆に言えば、若い女性が露出の多い格好をして、夜ひとりで出歩いているような街の治安はそれほど悪くはありません。
ハンドバッグをフラフラ持っているようならひったくりや強盗も少ないということです。
○ここに注目!:24時間営業店、店外ATM
治安が悪い場所には24時間オープンしている店舗や店外ATMがほとんどありません。
武装強盗の餌食になるからでしょう。
比較的治安が悪い場所では武装した警備員が常駐していたり、店舗が鉄格子で囲われていたりします。
24時間オープンしている店に警備員等がおらず、少数の女性店員で店を回しているようであれば、治安は悪くないと言えるでしょう。
○ここに注目!:ホテルや店・家のエントランスや窓
治安が本当に悪い場所ではホテルや店のエントランスがオープン中でも鉄格子で覆われています。
ケニアのナイロビではホテルの鉄格子を開けてもらって入っていましたし、商店では鉄格子越しに商品をやりとりしていました。
また、家々は高い壁で囲われており、壁の上には有刺鉄線や電気柵が張り巡らされています。
店を閉めるときシャッターなのか鉄格子なのか、建物の窓ガラスに鉄格子がはめられているか否かなどでも治安は判断できます。
総ガラスの建物は治安の悪い場所にはあまりないので、そのような建物が多い場所は比較的治安がよいことを意味します。
○ここに注目!:人々の表情
やはり緊張感は表情に出ます。
表情をよく観察していると、治安の悪い場所では皆、険しい表情をしているのがわかります。
そんな場所で悪いことをしようとしている人は鬼のような表情をしています。
悪を悪と認識しているからでしょう。
これに対して先進国の詐欺師などは悪いことをしているという意識がないのか、怖い表情をしていなかったりします。
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次回は治安が悪い場所の歩き方を紹介します。