グルメ14:肉と赤身 at Vlado's

本当にいい店というのは、食べる人の世界を書き換えてしまうような料理を提供してくれる店だ。
そう以前書いた。
いまでもそう思う。

 

これまでに紹介してきた数々の店は、自分の小さな概念を打ち破って「こんな世界もあるんだよ。楽しいでしょ?」と未知の世界を提供してくれた。
新しい世界にワクワクすると同時に、広がった世界は店主の世界と交わって、人と人とがつながる喜びをも与えてくれた。
そんな店に友達を連れていき、また輪は広がって……
メルボルンでもそんな出会いに恵まれた。

 

 * * *

 

肉は内臓だ。

そう思う。
内臓って本当においしい。
それぞれの部位で味が変わるし、それを分けて出すホルモン焼きなんて楽しくって仕方がない。
おまけに安いし。

ところがメルボルン一の肉を食べさせるというステーキ専門店Vlado's(ブラドス)で、「肉は赤身だ」と唸ってしまった。
スゲー、スゲーよ、本気になったオージー・ビーフの赤身は。

 

肉ではないが、ぼくの赤身の基準はマグロだ。
近所にある焼津港は、2007年のマグロ水揚げ高で、重さ換算・値段換算ともに全国第2位だった(1位は前者が銚子、後者が福岡)。
そんなこともあって、小さな頃から刺身といえばマグロかカツオで、それも赤身。
白身魚や青魚はもちろん、マグロでもトロなんかの刺身を食べた記憶はほとんどない。
大人になってから親に聞いたら、「自分が赤身が好きだから」なんだそうだ。

実家は母親が専業主婦だし、小さな頃は祖母もいたので、とにかく料理はうまかった。
以前も書いたが、お惣菜にかけては実家以上においしい料理を食べたことがない。
そんな母親だから、どの魚屋にいつ行くとおいしいマグロが手に入るのか知っていたし、この時期はこの店、カツオはあの店と、魚屋を使い分けてもいた。

だからなんだろう。
本当においしい赤身を食べていたと思う。

 

Vlado'sのプライム・ステーキを食べたとき、思い浮かんだのが実家で食べたマグロの赤身だ。
もちろん食べたのは牛肉、それもオージー・ビーフなんだけど。

肉はまっ赤なのだが温かくて、刺身というのではなくしっかりと火が通っている。
見事なレア。
味付けはシンプルに塩と胡椒。
ナイフを入れると弾力でプルっとふるえるけれど、サッとナイフを入れるとふわっと切れる。

柔らかさ。
キメの細かさ。
血というか、鉄の味。
どれもが上等なマグロのような繊細さ。
憎憎しいほどに肉肉しいのだけれど、少しも獣くさくない。
これが牛肉というものなのか……
内臓もいいけれど肉ってのは赤身のことをいうのかもしれない。
そうまで思った。

そういえば店に入るときから寿司屋のような店だった。
店構えがっていうわけじゃない。
店のカウンターには本当に寿司屋のようなガラスのショーケースがあって、そこに何種類かの肉が並べられている。
椅子に座って食前酒を飲んでいると、店主が数種類の肉を持ってオーダーをとりにくる。
fillet、porterhouse、rumpなんかが並んでいるのだが、いずれも脂身はほとんどなくて、霜降りなんかじゃなくて赤身。
で、自分はいちばんちっこいけど高級そうなprime filletを選んだわけだ。

いやー、すごかった。
日本でもマグロが本当に好きな人はトロより赤身を愛するという。
その気持ちはよくわかる。
トロより赤身の方がうまいって話じゃない。
「今日はマグロ」っていう気分のとき、筋肉の弾力の躍動感あふれる歯ごたえとか、海さえ感じさせる生き生きとした血液の香りなんかで、赤身はマグロの姿をより鮮明に描き出してくれる。
そういう話なのだ。

肉も同じ。
Vlado'sにくるオージーたちがいかに牛肉を愛しているのか、よ~くわかる。
オージー・ビーフは和牛より1ランク下に見られるが、それがとんでもない誤解であることもよ~くわかった。

店主であるVlado Gregurekはこう言ったそうだ。
"I am not a chef, I am just a red meat specialist."

最高の肉を用意して、肉の声とお客さんの声を聴き、声にしたがって指揮を執る。
ステーキとはただそれだけの料理なのだと。

 

<関連サイト>

Vlado's Restaurant Melbourne


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