世界遺産と建築18 イスラム教建築3:イスラム装飾

シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」では世界遺産を通して世界の建築の基礎知識を紹介します。

本シリーズは以下の電子書籍の写真や文章を大幅に削ったダイジェスト記事となっています(構成は多少変えてあります)。

詳細は下のリンクか "shop" を参照してください。

 

電子書籍『世界遺産で学ぶ世界の建築 ~海外旅行から世界遺産学習まで~』

  1. 古代、ギリシア・ローマ、中世編
  2. 近世、近代、現代編
  3. イスラム教、ヒンドゥー教編
  4. 仏教、中国、日本編

第18回はイスラム教建築の装飾を紹介します。

 

* * *

<イスラム装飾>

■ムカルナス

世界遺産「イスファハンのイマーム広場(イラン)」、イマーム・モスク
イスファハン、イマーム・モスクのイーワーンに施された大胆なムカルナス。同じムカルナスでも地域によって意匠は異なります。世界遺産「イスファハンのイマーム広場(イラン)」構成資産 (C) Zenith210
世界遺産「サマルカンド-文化交差路(ウズベキスタン)」、グリ・アミール廟
サマルカンドのグリ・アミール廟内部。上がムカルナス、下がドーム装飾。よく見るとさまざまな場所にムカルナスが見られます。世界遺産「サマルカンド-文化交差路(ウズベキスタン)」構成資産
世界遺産「グラナダのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン地区(スペイン)」、アルハンブラ宮殿、ナスル朝宮殿のライオン宮、二姉妹の間
アルハンブラ宮殿、ナスル朝宮殿のライオン宮、二姉妹の間。天井を飾るのは約5,000のパーツからなるという繊細なムカルナス。世界遺産「グラナダのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン地区(スペイン)」構成資産

鍾乳洞に垂れ下がる鍾乳石を模した装飾が「ムカルナス」です。

 

もともとはドームやヴォールト、アーチの下にさらに半ドームやアーチをかけて重さを分散するために使われていたもので、特に丸いドームを四角形の部屋に架ける際にドームの下に置いたスキンチ(入隅迫持/トロンプ)として用いられていました。

これが装飾として発展し、シャンデリアのような繊細華麗なムカルナスとなりました。

スキンチについては「世界遺産と建築08 ビザンツ建築」を参照してください。

 

一見したところ非常に複雑ですが、複数の幾何学図形の繰り返しであることが多く、ハチの巣のようなハニカム構造を持つものもあります。

ムカルナスはドームの窓やイーワーンの開口部で用いられることが多く、それらから入り込む光がムカルナスの複雑な陰影を描き出すような演出が施されています。

 

■多彩なアーチ、ポリクロミア

アーチの種類
アーチの種類。左が基本的な尖頭アーチ。小さな図は、上段の左から楕円形アーチ、四心アーチ、尖頭サラセン・アーチ。下段は左からオジー・アーチ、馬蹄形アーチ、多弁アーチ
世界遺産「コルドバ歴史地区(スペイン)」、メスキータ、外壁の装飾
コルドバのメスキータ、外壁の装飾。中央の馬蹄形アーチは壁に埋め込まれた埋め込みアーチ(ブラインド・アーチ)で、上部は赤と黒のポリクロミア。壁の最上段はアーチが連なる連続交差アーチで、その左右には多弁アーチも見られます。世界遺産「コルドバ歴史地区(スペイン)」構成資産
世界遺産「コルドバ歴史地区(スペイン)」、メスキータ内部
コルドバのメスキータ内部。右側は紅白のポリクロミアで彩られた二重半円アーチ、左下には紅白の多弁アーチも確認できます。世界遺産「コルドバ歴史地区(スペイン)」構成資産
世界遺産「サマルカンド-文化交差路(ウズベキスタン)」、レギスタン広場のティリャー・コリー・モスク・マドラサ
サラセン・アーチを描くイーワーンで覆われた、レギスタン広場のティリャー・コリー・モスク・マドラサ。ドームも真球ではありません。世界遺産「サマルカンド-文化交差路(ウズベキスタン)」構成資産

イスラム教建築のアーチは多彩でキリスト教建築ではあまり見られない型も少なくありません。

こうしたイスラム教建築特有のアーチはキリスト教徒から「サラセン・アーチ」と呼ばれていました。

 

ペルシアやトルキスタン、その影響下にあるインドでよく見られるのが四心アーチなどの扁平な尖頭サラセン・アーチです。

同地のイーワーンの多くは尖った尖頭を持ち、平たく肩がなだらかなこうしたアーチが用いられています。

マグレブ建築(リビア以西の北アフリカのイスラム教建築)やムーア建築(イベリア半島のイスラム教建築)ではしばしば馬蹄形アーチや多弁アーチが見られます。

 

オジー・アーチはアーチの弧が反転した尖頭アーチで、ムガル建築でよく見られます。

インド型・ムガル式モスクの屋根にしばしば見られる平たいオニオン・ドームはオジー・アーチを回転させたものです。

 

アーチは切石やレンガで架けられますが、マグレブ建築やムーア建築などではしばしば白大理石と色大理石、あるいは大理石と砂岩など異なる色の素材を用いてストライプを描く「ポリクロミア」が採用されました。

ポリクロミアは装飾であるだけでなく、大理石など貴重な素材の使用量を減らす目的もありました。

ポリクロミアはイタリアなど南欧や中欧のキリスト教建築でもしばしば見られますが、ムーア建築の影響といわれています。

 

■アラベスク、イスラミック・カリグラフィー

イスラミック・カリグラフィーの例
イスラミック・カリグラフィーの例。イスラム世界ではアラビア語を装飾化したアラビック・カリグラフィーやペルシア語のペルシアン・カリグラフィーがメインです
世界遺産「サマルカンド-文化交差路(ウズベキスタン)」、ティリャー・コリー・モスク・マドラサ
アラベスクで覆われたティリャー・コリー・モスク・マドラサ。最上段の白いラインはイスラミック・カリグラフィーで、中央のイーワーンにはムカルナスも見えます。世界遺産「サマルカンド-文化交差路(ウズベキスタン)」構成資産
世界遺産「イスファハンのイマーム広場(イラン)」、シャイフ・ルトゥフッラー・モスク
イスファハンのシャイフ・ルトゥフッラー・モスク、ミフラーブと周辺の装飾。アラベスクとイスラミック・カリグラフィーで隙間なく覆われており、窓も透かし彫りです。世界遺産「イスファハンのイマーム広場(イラン)」構成資産 (C) Rohallah

『旧約聖書』の偶像崇拝の禁止を文字通りに受け取って、人や動物の彫刻や絵を厳格に禁じているイスラム教では幾何学図形や草花文様を連ねる装飾が発達しました。

「アラベスク」です。

アラベスクでは図形や草花のパターンが繰り返されていますが、制作者が変わっても真似しやすいように、美しいだけでなく数学的に計算されたものでした。

 

文字をアラベスクのように装飾文様化したのが「イスラミック・カリグラフィー」です。

『コーラン』が他の宗教の聖典と異なるのは、一般的な聖典は人間が書いたものであるのに対して、『コーラン』は天使ジブリル(ガブリエル)が預言者ムハンマドにアラビア語で語りかけた神の言葉を記したものであるという点です。

そのためイスラム教徒は母国語でなくてもアラビア語を習うのですが、イスラミック・カリグラフィーではこの神の言葉をそのまま装飾化してモスクを飾っています。

 

■スタッコ、彩釉タイル、モザイク、象眼

世界遺産「グラナダのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン地区(スペイン)」、アルハンブラ宮殿のナスル朝宮殿・ライオン宮、リンダラハのバルコニー
あらゆる装飾が集ったアルハンブラ宮殿のナスル朝宮殿・ライオン宮、リンダラハのバルコニー。凹凸のある装飾がスタッコ細工。世界遺産「グラナダのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン地区(スペイン)」構成資産
世界遺産「イスファハンのイマーム広場(イラン)」、シェイフ・ロトフォッラー・モスク
イスファハンのシェイフ・ロトフォッラー・モスクのドーム。左右に見られるのは彩釉タイルに描かれたイスラミック・カリグラフィー。世界遺産「イスファハンのイマーム広場(イラン)」構成資産 (C) Mostafameraji
世界遺産「グラナダのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン地区(スペイン)」の象眼細工
世界遺産「グラナダのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン地区(スペイン)」の象眼細工。石を削って色の異なる石をはめ込んでいます

建築において、アラベスクやイスラミック・カリグラフィーはさまざまな形で装飾に採り入れられています。

 

一例が「スタッコ(化粧漆喰)」です。

スタッコは石灰などからなるセメントに水と細かい砂を加えたモルタルを塗りつけて形を整えたもので、粘土のように形を整えて色を塗って使用しました。

 

陶磁器に絵を描いて焼き付けたタイルを「彩釉タイル」といいます。

よい土や顔料が採れるペルシアやイベリア半島では陶磁器が名産品で、アラベスクを描いた彩釉タイルが盛んに作られました。

 

陶磁器を砕いた欠片や宝石やガラス・貝殻などの小片を貼り合わせて描いた絵や模様を「モザイク」といいます。

イスラム圏では人物が描かれなかったため、絵画的で色が淡くなるフレスコ(生乾き状態の漆喰に顔料で描いた絵や模様)は発達せず、色が退色しないモザイクが好まれました。

 

大理石を削ってそのスペースに宝石をはめ込むなど、素材を削って別の素材をはめ込む装飾技法を「象眼(ぞうがん)」といいます。

象眼細工はメソポタミアで誕生してイスラム圏で発達し、石に石をはめ込むだけでなく、木に木を合わせるなど(木象眼)さまざまな素材で行われました。

 

* * *

 

シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」、第19回からはヒンドゥー教建築を紹介します。

 


News

★世界遺産カテゴリー "WORLD HERITAGE" にて新シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」を立ち上げました。世界遺産を通して世界の建築を学びましょう。

 →世界遺産で学ぶ世界の建築

★世界遺産カテゴリー "WORLD HERITAGE" にて新シリーズ「世界遺産検定攻略法」が始動! 最難関の1級とマイスター攻略を中心に、受検戦略や学習法を紹介します。

 →世界遺産検定攻略法

E-book

■Amazon Kindle

■楽天Kobo

All About 世界遺産「2019年新登録の世界遺産 日本の大阪に初の遺産!」では新世界遺産の概要を解説
All About 世界遺産「2019年新登録の世界遺産 日本の大阪に初の遺産!」では新たに登録された全29件の新世界遺産の概要を解説。クリックで外部記事へ
タンザニアの世界遺産「ンゴロンゴロ保全地域」のクロサイ
タンザニアの世界遺産「ンゴロンゴロ保全地域」のクロサイ。高さ600mの壁が囲うクレーター内部に25,000頭の野生動物が暮らしている。クリックで外部記事へ

Topics

・Facebook, twitterです

 ART+LOGIC=TRAVEL Facebook

 dai hasegawa twitter

・All About 世界遺産 新記事

 2019年新登録の世界遺産

 ンゴロンゴロ/タンザニア

 イエローストーン/アメリカ

 2018年新登録の世界遺産

 ガラパゴス諸島/エクアドル

Bizコンパス 世界の名言

 リンカーン 人民の人民による

 チャップリン 勇気・想像力・金

 本田宗一郎「挑戦した失敗」

 岡本太郎「毒を持て」

 ディズニー「未完成」

 ジョブズ「愚かであれ」

 ナポレオン「不可能はない」

 高杉晋作「おもしろき世」

 エジソン「1%の才能99%の汗」

・Bizコンパス 国際情勢連載

 なぜLCCが世界を席巻?

 なぜ日本のGDPは低迷?

 なぜ今TPP等の地域協定なのか?

 なぜシンガポールは豊かなのか?

 なぜ米国は銃規制できないか?

 なぜハリウッドは強いのか?

 なぜ外国人が渋谷の交差点に?

 なぜイスラムは仏を狙うのか?

 なぜスイスは永世中立なのか?

 なぜ中華料理はおいしいのか?

 なぜ難民が増えているのか?

 なぜ五輪は4年に1度の開催か?

 なぜイランは核開発するのか?

 なぜ台湾は独立できないのか?

 なぜアフリカはいつも戦争?

 なぜシーア派とスンニ派がある?

 なぜブータンは幸せの国なのか?

 なぜ世界でパンデミックが拡大?

 なぜ世界に親日国が多いのか?

 なぜイスラムは遺跡を壊すか?

 なぜ米国とキューバが接近?

 なぜ訪日外国人が増えたのか?

 なぜギリシャ危機が問題か?

 なぜウクライナで米露が対立?

 なぜ世界中に中華街があるのか?

 なぜ柔道はJUDOに勝てないか?

 なぜ捕鯨は野蛮なのか?

 なぜイスラムは西洋と戦うのか?

 なぜ日本料理は世界で人気か?

 なぜ中南米はミスコンに強いか?

 なぜ中国で民主化・独立運動か?

 なぜ英・西で独立運動なのか?

・Bizコンパス 世界遺産連載

 世界遺産の夜明けを導く2遺跡

 人類の歴史に挑戦する負の遺産

 危機遺産リストと世界遺産

 世界遺産が世界遺産でなくなる日

 キング・オブ・世界遺産

 自然遺産を守る意味 

 聖地が示す世界遺産の限界

 世界遺産と平和への挑戦

 世界遺産登録と今後の日本の遺産

 なぜ世界遺産は欧州に多いのか

 産業遺産と新しい世界遺産

 自宅で楽しむ世界遺産 ワイン編

 W杯! ブラジルの歴史と世界遺産

 なぜ伊勢神宮は世界遺産でない?

 一度の旅行でたくさんの世界遺産

 夏休みに訪れたい海の世界遺産

 世界遺産はじめて行くならここ!

 最新の世界遺産を訪ねよう!

 世界遺産で野生動物と触れ合う

 パワースポットの「聖なる山」

 立入禁止! 非開放の世界遺産

 神々が降り立つ聖地の世界遺産

 絶景と人工美が融合した鉄道

 愛と美を称える世界遺産

・その他

『朝日新聞 世界の扉』記事執筆。『Fine』自然遺産特集執筆。『地球の歩き方 MOOK 世界のビーチBEST100』『ノジュール』に旅のスペシャリスト・達人として参加。『PEN』でアフリカの世界遺産執筆。『MONOQLO』世界遺産特集取材協力。『女性セブン』で日本の世界遺産を解説。エクスナレッジ『聖地建築巡礼 世界遺産から現代建築まで、73の聖地を巡る旅』、洋泉社ムック『負の世界遺産』執筆。RKBラジオ、FM TOKYOで世界遺産特集出演。その他企業・大学広報誌等。

New articles

<旅論:たびロジー>

1.あなたは幸せですか?

.麻薬は悪? ゴキブリは汚い?

.裸とワイセツ

 

<エロス論:エロジー>

.遊びの本質

.おいしい、美しい、気持ちいい

.文化SM論

 

<絵と写真の話>

.アートと魂~抽象画とポロック

.ロスコの扉 ~ロスコ・ルーム~

10.写真と抽象芸術~グルスキー

 

<哲学的探究:哲学入門>

1.哲学とは何か?

2.「正しい-間違い」とは何か?

3.証明とは何か?

4.わかる・理解するとは何か?

5.力とは何か? 波とは何か?

6.物質とは何か?

7.見る・感じるとは何か?

8.空間とは何か?

9.時間とは何か?

10.物質と時間を超えて

以下続く。

 

<哲学的考察:ウソだ!>

.無と偶然

.ことだま-はじめに言葉ありき

10.物質とは何か?

11.神とは何か?-一神教と多神教

 

<世界遺産NEWS>

世界遺産最新情報/ニュース

 

<世界遺産ランキング集>

登録基準に見る世界遺産

世界の七不思議

国内集計の世界遺産ランキング

海外集計の世界遺産ランキング

世界遺産国別ランキング

 

<UNESCOリスト集>

日本の遺産リスト

無形文化遺産リスト

世界の記憶リスト

世界遺産リスト

ユネスコエコパーク・リスト

世界ジオパーク・リスト

創造都市リスト

 

<世界遺産の見方>

知性的鑑賞法

感性的鑑賞法

異文化理解の方法論

正しい・間違いの基準

星と大地と古代遺跡

 

<味わう世界遺産>

.王様のワイン トカイ

.命の水 テキーラ

.ポルトガルの宝石 ポート

.神の贈り物チョコレート

 

<世界遺産で学ぶ世界史>

01.宇宙と地球の誕生

02.大陸の形成

03.地形の形成

04.生命の誕生

05.生命の進化

06.人類の夜明け

07.文明の誕生

08.エジプト文明

09.インダス文明

10.中国文明

以下続く。

 

<世界遺産で学ぶ世界の建築>

01.建築の種類1:城と宮殿

02.建築の種類2:宗教建築

03.建築の種類3:メガリス

04.木造建築の基礎知識

05.石造建築の基礎知識

06.ギリシア建築

07.ローマ建築

08.ビザンツ/ビザンチン建築

09.ロマネスク建築

10.ゴシック建築

以下続く。

 

<世界遺産写真館>

1.文化交差路サマルカンド1

2.文化交差路サマルカンド2

3.アッパー・スヴァネティ

4.グラナダのアルハンブラ宮殿1

5.グラナダのアルハンブラ宮殿2

6.コトル

7.プレアヴィヒア寺院

8.福建の土楼1

9.福建の土楼2

10.フォンニャ=ケバン国立公園1

以下続く。

 

<世界遺産攻略法>

1.世界遺産検定攻略の理念と背景

2.世界遺産検定の概要

3.試験戦略の一般論

4.試験戦略の理念

5.世界遺産検定の受検戦略

6.試験勉強の3要素

7.世界遺産検定 最効率学習法

8.時事問題・世界史・検定講座

9.マイスター試験の概要

10.マイスター試験問1・2対策

11.マイスター試験問3対策

12.マイスター試験時間術&解答術

Blog

Link

Search

Site map

○Travel[旅]

○World heritage[世界遺産]

○Art[芸術]

○Logic[哲学]

○Library[私的図書館]

○Profile[プロフィール]

○Work[仕事について]

○Inquiry[お問合せ]

○Blog[ブログ]

※本サイトはリンクフリーです