世界遺産と建築03 建築の種類3:メガリス

シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」では世界遺産を通して世界の建築の基礎知識を紹介します。

なお、本シリーズはほぼ毎年更新している以下の電子書籍の写真や文章を大幅に削ったダイジェスト記事となっています。

 

■電子書籍『世界遺産で学ぶ世界の建築 ~海外旅行から世界遺産学習まで~』

 1.古代、ギリシア・ローマ、中世編  2.近世、近代、現代編

 3.イスラム教、ヒンドゥー教編    4.仏教、中国、日本編

 

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第3回は建築物の種類、特にメガリスを紹介します。

メガリスは巨石記念物のことで世界中で建設されていますが、特にヨーロッパ巨石文化のものを中心に種類別に紹介していきます。

 

* * *

 

<メガリス>

■メンヒル/立石、石碑、対訳碑文

世界遺産「オークニー諸島の新石器時代遺跡中心地(イギリス)」、ストーンズ・オブ・ステネス
紀元前3000年頃に立てられたイギリス・オークニー諸島のストーンズ・オブ・ステネス。世界遺産「オークニー諸島の新石器時代遺跡中心地(イギリス)」構成資産 (C) Wilson44691
世界遺産「キリグアの遺跡公園と遺跡群(グアテマラ)」のステラD
ユニークなマヤ文字が刻まれた世界遺産「キリグアの遺跡公園と遺跡群(グアテマラ)」のステラD (C) Stuardo Herrera
イランの世界遺産「ペルセポリス」の対訳碑文
イランの世界遺産「ペルセポリス」の対訳碑文。ドイツの考古学者グローテフェントは王の名前をヒントに三言語碑文を紐解き、楔形文字の解読に成功しました

独立した石を立てた記念碑的な石を「メンヒル(立石)」といいます。

自然石を立てたものから加工されたものまで意匠は多彩です。

 

石に文字が刻まれている場合は「石碑」、彫刻の場合は「石彫(せきちょう/いしぼり)」、墓に供えられた石は「墓石」、墓石に文字が刻まれている場合は「墓碑」などと呼ばれることもあります。

 

マヤ文明の遺跡には「ステラ」と呼ばれる石碑が多数見られます。

もともとステラは碑を意味するラテン語で、スペイン人によって名付けられました。

南欧にはステチュツィ※と呼ばれる同じ語源の墓碑群があります。

 

石碑の中には複数の文字で書かれているものもあり、このような碑文(ひぶん。碑に記された文)を「対訳碑文」といいます。

ナポレオンのエジプト遠征で発見され、大英博物館に収蔵されているロゼッタ・ストーンは特に有名です。

※世界遺産「中世の墓碑ステチュツィの墓所群(クロアチア/セルビア/ボスニア・ヘルツェゴビナ/モンテネグロ共通)」 

 

■アリニュマン/列石

世界遺産「ストーン・ヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群(イギリス)」、エーヴベリーのケネット・アベニュー
2.5kmにわたって約100個のメンヒルが2列に並ぶエーヴベリーのケネット・アベニュー。世界遺産「ストーン・ヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群(イギリス)」構成資産

メンヒルを直線上に並べたものを「アリニュマン(列石)」と呼びます。

列は1列であることも複数列であることもあります。

 

エーヴベリー※のケネット・アベニューは2列のアリニュマンで知られます。

このように英語ではアリニュマンは「アベニュー」と呼ばれることが多くなっています。

※世界遺産「ストーン・ヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群(イギリス)」 

 

■ストーン・サークル/環状列石

世界遺産「オークニー諸島の新石器時代遺跡中心地(イギリス)」のリング・オブ・ブロッガー
世界遺産「オークニー諸島の新石器時代遺跡中心地(イギリス)」のリング・オブ・ブロッガー。60個(現存するのは27個)のメンヒルからなるストーン・サークルで、外側に円形の溝を持つ複合的なヘンジとなっています
世界遺産「セネガンビアのストーン・サークル(ガンビア/セネガル)」、ワッス
ワッス、ケルバチ、シン・ンガイエネ、ワナールという4つのストーン・サークル群を構成資産とする世界遺産「セネガンビアのストーン・サークル(ガンビア/セネガル)」。写真はワッス (C) Niels Broekzitter

円形に並べられたメンヒルは「ストーン・サークル(環状列石)」と呼ばれます。

アイルランドやイギリス、フランス北部では多数のストーン・サークルが発見されていますが、なぜこの地域に集中しているのか、どの民族が築いたのかは謎に包まれています。

 

ストーン・サークルは石を円形に配置した単純な意匠であるため世界各地で見られます。

アフリカ・ガンビア川流域では1,000以上のストーン・サークル①が発見されており、日本でも大湯環状列石②のように縄文時代の遺跡で見られることがあります。

※①世界遺産「セネガンビアのストーン・サークル(ガンビア/セネガル)」

 ②世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」 

 

■ヘンジ、エンクロージャー、カーサス

イギリスの世界遺産「ストーン・ヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群」のストーン・ヘンジ
イギリスの世界遺産「ストーン・ヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群」のストーン・ヘンジ
世界遺産「グレート・ジンバブエ国立記念物(ジンバブエ)」のグレート・エンクロージャー(大囲壁)
世界遺産「グレート・ジンバブエ国立記念物(ジンバブエ)」のグレート・エンクロージャー(大囲壁)

円形の環状遺跡は「ヘンジ」と呼ばれます。

ストーン・ヘンジ※やエーヴベリー・ヘンジ※が知られますが、両遺跡の周辺には他にもウッド・ヘンジ※、コリーベリー・ヘンジ※などのヘンジが存在します。

ストーン・サークルはヘンジの一種です。

 

ストーン・ヘンジの最初期の土のヘンジは紀元前3100年前後の建設で、直径110mに達します。

紀元前3000年頃にはその内側に木製のヘンジが築かれ、その後さらに内側に玄武岩や砂岩のストーン・サークルが同心円状に並べられました。

 

石を積み上げて円形に囲った大型のヘンジは「エンクロージャー」、四角形に並べられた工作物は「カーサス」と呼ばれます。

※世界遺産「ストーン・ヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群(イギリス)」 

 

■ドルメン/支石墓、トロス/円形神殿、巨石神殿、石室墓

プールナブローン
アイルランド、バレン高原の「巨人のテーブル」、プールナブローン。アイルランドの世界遺産暫定リスト記載
世界遺産「高敞、和順、江華の支石墓群跡(韓国)」、江華島のドルメン
江華島のドルメン。世界遺産「高敞、和順、江華の支石墓群跡(韓国)」構成資産 (C) Jtm71

平らな天井石を複数の支石で支えた巨石墓を「ドルメン(支石墓)」といいます。

天井石が浮いているように見える形が特徴で、独特の雰囲気を持っています。

もっとも有名なのはアイルランドのプールナブローン・ドルメン①でしょう。

 

朝鮮半島では「コインドル」と呼ばれており、半島全域で5万前後のコインドルが存在するといわれます。

このうち高敞、和順、江華のドルメン群②が世界遺産に登録されています。

 

ドルメンよりさらに複雑な構造を持つ神殿は「巨石神殿」、円形神殿は「トロス」、石室を持つ墳墓は「石室墓」、石室への羨道を持つ墳墓は「羨道墳」と呼ばれます。

※①アイルランドの世界遺産暫定リスト記載

 ②世界遺産「高敞、和順、江華の支石墓群跡(韓国)」

 

■オベリスク、ステッレ

世界遺産「古代都市テーベとその墓地遺跡(エジプト)」のルクソール神殿、第1塔門とオベリスク
世界遺産「古代都市テーベとその墓地遺跡(エジプト)」のルクソール神殿、第1塔門とオベリスク。オベリスクは2本立っていましたが、もう1本は現在、世界遺産「パリのセーヌ河岸」のコンコルド広場に立っています
世界遺産「アクスム(エチオピア)」のステッレ群
世界遺産「アクスム(エチオピア)」のステッレ群。ステッレは碑を意味するギリシア語で、現地では「ハウィルト」と呼ばれています (C) Allamiro

古代エジプトで神殿の前などに立てられた記念碑が「オベリスク」です。

神やファラオの名前や謝意がヒエログリフ(象形文字)で刻まれた一種の石碑です。

 

エジプトのオベリスクの影響を受けてエチオピアのアクスム王国が立てた一枚岩の記念碑が「ステッレ」です。

かつて首都アクスム※には最大33mになるステッレが約130基も立ち並んでいました。

※世界遺産「アクスム(エチオピア)」 

 

■スタンバ

世界遺産「仏陀の生誕地ルンビニ(ネパール)」、アショーカ・スタンバ
マウリヤ朝の第3代国王アショーカがブッダ生誕の地に立てたと伝えられるアショーカ・スタンバ。世界遺産「仏陀の生誕地ルンビニ(ネパール)」構成資産 (C) Bibek Raj Pandeya
世界遺産「ラジャスタンの丘陵要塞群(インド)」、チットールガル城のヴィジャイ・スタンバ
チットールガル城、中央やや右に立っているのがヴィジャイ・スタンバ。世界遺産「ラジャスタンの丘陵要塞群(インド)」構成資産 (C) Ssjoshi111

高い山は世界各地で神聖視されており(聖山信仰)、ピラミッドやピラミッド形の宗教建造物も人工的に造り出された聖山といえるでしょう。

同じように、天に近い柱や樹木もしばしば神聖視されました(聖柱信仰、聖樹信仰)。

 

よく知られた聖柱が古代インドの「スタンバ」です。

スタンバは天と地を結ぶ役割を果たし、宇宙の根本原理であるブラフマンの象徴とされていました。

 

メソポタミアや古代エジプト、古代ギリシアにおいて、神殿は柱で囲われたり、多くの柱が立ち並ぶ多柱室や列柱廊が設けられました。

石壁の神殿には本来、それほどの石柱は不要ですが、柱を並べることで神聖な空気感を醸し出したのでしょう。

 

日本では神や魂の数を「柱」で数えますが、これも一種の聖柱信仰でしょう。

伊勢神宮の正殿床下に立てられた心御柱(しんのみはしら)や、塔の中心に立てられた心柱(しんばしら)はその表れともいわれます。

『鬼滅の刃』の鬼殺隊剣士の「柱」もここから来ているのでしょうね。

 

■石球、聖岩

コスタリカの世界遺産「ディキスの石球のある先コロンブス期首長制集落群」に点在するディキスの石球
コスタリカの世界遺産「ディキスの石球のある先コロンブス期首長制集落群」に点在するディキスの石球 (C) WAvegetarian
世界遺産「エルサレムの旧市街とその城壁群(ヨルダン申請)」、岩のドーム
ユダヤ・キリスト・イスラム3教の聖地である「神殿の丘」に立つ岩のドーム。世界遺産「エルサレムの旧市街とその城壁群(ヨルダン申請)」構成資産

真球に近いほどまで磨き抜いた石球をなんらかの記念碑として置いた遺跡も存在します。

コスタリカのディキスの石球①がそれで、数センチから直径2m超まで200以上の石球が発見されています。

ただ、石球の目的はわかっていません。

 

石や岩に対する信仰も少なくありません。

エルサレム旧市街②の神殿の丘に立つ岩のドームは、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教でいう「聖なる岩」を覆うように建てられています。

この岩は神が世界を創造する際の基礎石であり、ノアの洪水のあと登場する最初の預言者アブラハムが息子イサクを神に捧げる「イサクの燔祭(はんさい)」のために使用した台と伝えられています。

 

エアーズ・ロックの名前で知られる世界最大級のモノリス(一枚岩)であるウルル③や、ウルルと同一のモノリスのもう一端である奇岩群カタ・ジュタ(オルガ山)③は先住民アボリジニの聖地として崇められています。

※①世界遺産「ディキスの石球のある先コロンブス期首長制集落群(コスタリカ)」

 ②世界遺産「エルサレムの旧市街とその城壁群(ヨルダン申請)」

 ③世界遺産「ウルル=カタ・ジュタ国立公園(オーストラリア)」

 

* * *

 

シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」、第4回は木造建築の基礎知識を紹介します。

 


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10.中国文明

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<世界遺産で学ぶ世界の建築>

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02.建築の種類2:宗教建築

03.建築の種類3:メガリス

04.木造建築の基礎知識

05.石造建築の基礎知識

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07.ローマ建築

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09.ロマネスク建築

10.ゴシック建築

以下続く。

 

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2.文化交差路サマルカンド2

3.アッパー・スヴァネティ

4.グラナダのアルハンブラ宮殿1

5.グラナダのアルハンブラ宮殿2

6.コトル

7.プレア・ヴィヒア寺院

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9.福建の土楼2

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