世界遺産と建築01 建築の種類1:城と宮殿

シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」では世界遺産を通して世界の建築の基礎知識を紹介します。

なお、本シリーズはほぼ毎年更新している以下の電子書籍の写真や文章を大幅に削ったダイジェスト記事となっています。

 

■電子書籍『世界遺産で学ぶ世界の建築 ~海外旅行から世界遺産学習まで~』

 1.古代、ギリシア・ローマ、中世編  2.近世、近代、現代編

 3.イスラム教、ヒンドゥー教編    4.仏教、中国、日本編

 

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第1回は建築物の種類、なかでも城と宮殿について紹介していきます。

なお、建築物といった用語はおおよそ以下のような意味で使用しています。

  • 工作物:人工的に素材を加工して作られたもの
  • 建物:土地に定着し、屋根や壁などで外部と区別され、人が中で継続的に活動を行うための工作物
  • 建築物:建物に門や塀・庭といった付属工作物を加えた建物
  • 構築物:土地に定着した建築物以外のもの(塔、橋、ダム、堀、堤防、運河、道路、鉄道など)

 

* * *

 

<城と宮殿>

■城郭都市、環濠都市

世界遺産「アビラの旧市街と城壁外の教会群(スペイン)」、城郭都市アビラ
全長2.5km・高さ3mの城壁に囲まれた城郭都市アビラ。世界遺産「アビラの旧市街と城壁外の教会群(スペイン)」構成資産
世界遺産「古都平遥(中国)」、城郭都市・平遥の市壁
明・清の時代に山西商人の拠点として繁栄した城郭都市・平遥の市壁。世界遺産「古都平遥(中国)」構成資産 (C) Gisling
ウズベキスタンの世界遺産「イチャン・カラ(ウズベキスタン)」
中央アジアのイスラム・オアシス都市ヒヴァのイチャン・カラの市壁。イチャン・カラは「内城」の意味で、市の中核部分がこの城壁内に展開していました。ウズベキスタンの世界遺産「イチャン・カラ(ウズベキスタン)」

メソポタミア、エジプト、インダス、黄河……人類の文明は乾燥地帯で飛躍しました。

 

そして人類は農耕や牧畜を発明し、狩猟・採取を中心とした獲得経済から生産経済へ移行します。

やがて食料生産が増し、人口が増えると村は町へ、町は都市へと成長していきました。

こうした都市が集まった文化地帯が「文明」です。

 

他の国や都市から独立し、独自のまとまりを持つ都市を「都市国家」と呼びます。

こうした都市は防衛の必要から周囲を「市壁」と呼ばれる城壁で囲って「城郭都市(城壁都市)」を形成していました。

大陸において「城」はそのまま「都市」を意味します。

だから「長安①が落城した」「コンスタンティノープル②の開城を迫った」などという表現が出てくるわけです。

 

市壁ではなく堀を中心とする場合は「環濠都市」と呼ばれます。

 ※①世界遺産「シルクロード:長安-天山回廊の交易路網(カザフスタン/キルギス/中国共通)」

 ②世界遺産「イスタンブール歴史地域(トルコ)」 

 

■城塞、宮殿

世界遺産「古都アレッポ(シリア)」、アレッポ城
全長約2.5km・深さ22mの堀に囲まれたの円形城塞・アレッポ城。世界遺産「古都アレッポ(シリア)」構成資産
世界遺産「シュリー=シュル=ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷(フランス)」、シャンボール城
フランス・ルネサンス建築の傑作、シャンボール城。世界遺産「シュリー=シュル=ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷(フランス)」構成資産
世界遺産「グラナダのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン地区(スペイン)」、アルハンブラ宮殿
城壁に囲まれたアルハンブラ宮殿。世界遺産「グラナダのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン地区(スペイン)」構成資産

城郭都市の中で拠点となる軍事施設を「城塞」といいます。

都市の外部で拠点を守るための大型軍事施設は「要塞」と呼ばれます。

 

そして君主や貴族が暮らす住居を「宮殿」と呼びます。

王(国家の世襲の君主)の住居は「王宮」、皇帝(多くの国を統べる帝国の君主)の住居は「皇居」や「皇宮」といわれることもあります。

宮殿は複数あることもあって、副次的な宮殿は「離宮」と呼ばれます。

 

ただ、この辺りの使い分けは厳密ではなく、宮殿のような城や、城のような宮殿もあったりします。

たとえばフランス・ロワール渓谷のシャンボール城①やドイツのヴィルヘルムスヘーエ城②には城壁も防御施設もほとんどないため、機能的には城塞というより宮殿や離宮です。

フランス語の「シャトー」、ドイツ語の「シュロス」をどう訳すかということになります。

一方、スペイン・グラナダのアルハンブラ宮殿③は城館が整備されたものでもともとは城塞です。

※①世界遺産「シュリー=シュル=ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷(フランス)」

 ②世界遺産「ヴィルヘルムスヘーエ城公園(ドイツ)」

 ③世界遺産「グラナダのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン地区(スペイン)」

 

■長城

世界遺産「万里の長城(中国)」、八達嶺
北京近郊に横たわる明代の長城、八達嶺。世界遺産「万里の長城(中国)」構成資産
世界遺産「ローマ帝国の国境線(イギリス/ドイツ共通)」、ハドリアヌスの長城
イングランド・スコットランド国境近くに延びるハドリアヌスの長城。世界遺産「ローマ帝国の国境線(イギリス/ドイツ共通)」構成資産
ドイツの世界遺産「ヘーゼビューとダーネヴィルケの考古学的境界線群 」、ダーネヴィルケ
デンマーク王ゴドフレドが築いたダーネヴィルケ。デンマーク王国とフランク王国の国境線で、西欧と北欧を分けています。世界遺産「ヘーゼビューとダーネヴィルケの考古学的境界線群(ドイツ)」構成資産 (C) Danevirke

都市以外に領土・領水・領空を持つ国家を「領域国家」と呼びます。

もっとも古代や中世、都市と都市の間の無人の砂漠や森林が国家に属しているとは考えられていませんでした。

厳密な国境を持つ領域国家という概念は近代以降のものとなります。

 

多くの都市国家は市壁で囲った城郭都市を形成していましたが、領域国家が国境線に沿って城壁や土塁・堀を巡らせる場合は「長城」と呼ばれます。 

 

■テル/遺丘

世界遺産「トロイの考古遺跡」
ギリシア神話の伝説の都トロイア=イリオスの跡を留めるギリシアの世界遺産「トロイの考古遺跡」
丁字形のメンヒル(立石)がサークル状に連なるストーン・サークルが特徴的なトルコの世界遺産「ギョベクリ・テペ」。「テペ」はトルコ語で「テル」のこと (C) Teomancimit
丁字形のメンヒル(立石)がサークル状に連なるストーン・サークルが特徴的なトルコの世界遺産「ギョベクリ・テペ」。「テペ」はトルコ語で「テル」のこと (C) Teomancimit

都市国家は交通の要衝だったり、守りやすく攻めがたい場所に築かれました。

だから戦争や災害で滅亡しても、その貴重な場所には新たな都市が築かれました。

 

新しい都市を築く際、建築材料となる石やレンガを取り出してから都市跡を埋め立て、その上に建設しました。

このように都市や集落が積み重なった丘のような土地を「テル(遺丘)」といいます。

 

たとえば「トロイの木馬」で知られるギリシアの古代都市イリオスあるいはトロイア※には第1市から第9市まであり、地下に9層に連なっていることが知られています。

※世界遺産「トロイの考古遺跡(ギリシア)」 

 

■要塞、砦

世界遺産「クラック・デ・シュバリエとカラット・サラディン(シリア)」、クラック・デ・シュバリエ
丘の上の要衝を押さえるクラック・デ・シュバリエ。世界遺産「クラック・デ・シュバリエとカラット・サラディン(シリア)」構成資産
世界遺産「デル・モンテ城(イタリア)」
神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世が13世紀に建てた城砦、世界遺産「デル・モンテ城(イタリア)」
フランスの世界遺産「ヴォーバンの要塞群」、ヌフ=ブリザック
フランスの世界遺産「ヴォーバンの要塞群」の構成資産のひとつ、ヌフ=ブリザック (C) Norbert Blau

守るべき都市や拠点と離れた場所に築かれた大型軍事施設を「要塞」、小型のものを「砦」あるいは「城砦」といいます。

世界遺産リストの中で「要塞」「砦」の名を冠する世界遺産は20を超え、シリアのクラック・デ・シュバリエ①のように城とされていても実質的には要塞であるものも少なくありません。

 

要塞内に神殿や住居群を備えて都市のような構造を持つ「要塞都市」の場合は、イラクのハトラ②のように城郭都市と変わらない規模のものもあります。

 

ルネサンス以降、強力な大砲が普及すると城壁では守り切れず、前線に強力な要塞や砦が築かれるようになりました。

その最たる例が☆形や多角形の平面プランを持つヴォーバン様式(稜堡式)の星形要塞③です。

※①世界遺産「クラック・デ・シュバリエとカラット・サラディン(シリア)」

 ②世界遺産「ハトラ(イラク)」

 ③世界遺産「ヴォーバンの要塞群(フランス)」 

 

■港市

クロアチアの世界遺産「ドゥブロヴニク旧市街」
クロアチアの世界遺産「ドゥブロヴニク旧市街」。海洋都市国家ドゥブロヴニクは島を城壁で取り囲んだ城郭都市となっています
モロッコの世界遺産「エッサウィラのメディナ[旧名モガドール]」
ヴォーバン様式の城壁に守られたモロッコの世界遺産「エッサウィラのメディナ[旧名モガドール]」

大河や海沿いの要衝では木々が生い茂る陸路よりも海路が発達しました。

港を中心として発達した都市を「港市(こうし)」、港市を中心とした国家を「港市国家」と呼びます。

 

特にモンスーン(季節風)の影響で海洋貿易が盛んだった東南アジアや東アフリカで発達しました。

マレーシアのマラッカ①、タンザニアのキルワ②などが一例で、タイのアユタヤ③やカンボジアのアンコール・トム④のように大河や湖沿いの港市もあったりします。

また、イタリア半島やバルカン半島で発達したヴェネツィア⑤やドゥブロヴニク⑥といった海洋都市国家も港市国家です。

※①世界遺産「ムラカとジョージタウン、マラッカ海峡の古都群(マレーシア)」

 ②世界遺産「キルワ・キシワニとソンゴ・ムナラの遺跡群(タンザニア)」

 ③世界遺産「古都アユタヤ(タイ)」

 ④世界遺産「アンコール(カンボジア)」

 ⑤世界遺産「ヴェネツィアとその潟(イタリア)」

 ⑥世界遺産「ドブロブニク旧市街(クロアチア)」 

 

* * *

 

シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」、第2回はピラミッドやジッグラトを含む宗教建築を紹介します。

 


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『朝日新聞 世界の扉』記事執筆。『Fine』自然遺産特集執筆。『地球の歩き方 MOOK 世界のビーチBEST100』『ノジュール』に旅のスペシャリスト・達人として参加。『PEN』でアフリカの世界遺産執筆。『MONOQLO』世界遺産特集取材協力。『女性セブン』で日本の世界遺産を解説。エクスナレッジ『聖地建築巡礼 世界遺産から現代建築まで、73の聖地を巡る旅』、洋泉社ムック『負の世界遺産』執筆。RKBラジオ、FM TOKYOで世界遺産特集出演。その他企業・大学広報誌等。

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02.大陸の形成

03.地形の形成

04.生命の誕生

05.生命の進化

06.人類の夜明け

07.文明の誕生

08.エジプト文明

09.インダス文明

10.中国文明

以下続く。

 

<世界遺産で学ぶ世界の建築>

01.建築の種類1:城と宮殿

02.建築の種類2:宗教建築

03.建築の種類3:メガリス

04.木造建築の基礎知識

05.石造建築の基礎知識

06.ギリシア建築

07.ローマ建築

08.ビザンツ/ビザンチン建築

09.ロマネスク建築

10.ゴシック建築

以下続く。

 

<世界遺産写真館>

1.文化交差路サマルカンド1

2.文化交差路サマルカンド2

3.アッパー・スヴァネティ

4.グラナダのアルハンブラ宮殿1

5.グラナダのアルハンブラ宮殿2

6.コトル

7.プレア・ヴィヒア寺院

8.福建の土楼1

9.福建の土楼2

10.フォンニャ=ケバン国立公園1

以下続く。

 

<世界遺産攻略法>

1.世界遺産検定攻略の理念と背景

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8.時事問題・世界史・検定講座

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