哲学的探究7.「見る」「感じる」とは何か? ~物質と感官~

ぼくの目の前にあるPCやスマホや机やイスはどう見ても「存在している」。

そしてぼくらはそんな物質に取り囲まれている。

 

物質は、目で見たり、音を聞いたり、匂いを嗅いだり、舐めて味わったり、手で触ったりと、感官(五官と五感)を通して知覚することができる。

 

五官:目・耳・鼻・舌・皮膚

五感:視覚・聴覚・臭覚・味覚・触覚

 

ちなみに仏教では以下のようにいう。

 

五根:眼・耳・鼻・舌・身

五境:色・声・香・味・触

 

科学はこう語る。

最初に物質が存在し、物質によってぼくらの身体が作られて、知性や感性が生み出された――

 

しかし。

事実はまったく反対だ。

 

リンゴを観察して万有引力の法則を発見したように、感性が捉え知性が整えたデータをあれこれ分析することで科学理論は生み出されている。 

科学は知性や感性を極力排除して客観的に世界を捉えようとするが、最初に与えられるデータはすべて人間の知性と感性から来ているという事実から逃れることはできない。

 

先にぼくらの知性や感性があって、それらが世界を捉え、世界を規定し、世界が現れる。

そうやって創造された世界を観察して、人間はさまざまな物理法則を発見する。

 

今回は前回「物質とは何か?」の結論を推し進め、物質と感官の関係について考えてみたい。

 

* * *

 

<「感じる」ことと「物質」の関係>

 

物を見る――

これはどのような現象なのだろう?

 

ここにリンゴがある。

リンゴは光を反射し、その反射した光を人の目が捉える。

光は目の神経に刺激を与え、刺激を受けた神経がセンスデータ(感覚器で得られたデータ)を脳に転送し、それを脳が統合することで「リンゴを見る」という現象が起こる。

 

ということは。

 

「赤」とか「リンゴの丸い形」などといったものが実際に存在するわけではないことになる。

脳は送られてきたデータをまとめて「色」や「形」を創り出し、ぼくたちはそうやって結ばれたリンゴの像を見ていることになる。

 

つまり。

色や形は「存在」ではない。

人間の表現形式だ。

色という「質感」や形という「空間」を用いることで、センスデータの内容を表現しているのだ。

 

リンゴの色や形はリンゴではない。

同じように、リンゴの味はリンゴではない。

味は表現されているものであって、味自体はリンゴではない。

もちろんリンゴの香りも肌触りもリンゴではない。

 

リンゴは光を放つものであって、放たれた光を捉えて脳が生み出したリンゴの像とは別の存在だ。

リンゴは人間の味覚を振るわせるものであって、振るわされて得られたデータを分析して脳が生み出したリンゴの味ではない。

……ということは。

 

光を放ち味覚を振るわせる「本物のリンゴ」と、人間の脳が創り出した「観念上のリンゴ」があることになる。

ぼくらが観察しているのはつねに「観念上のリンゴ」や「観念上のPC」といった「観念上の物質」だ。

 

一方で、「本物のリンゴ」は色や形や香りで表現できるようなものではないことになる。

ぼくらが知ることも感じることもできないものなのだ。

 

そして色や形が存在ではないのであれば、それによって構成される「物質」も当然存在ではありえない。

 

つまり。

物質は存在ではないのである。

 

* * *

 

<唯脳論の矛盾>

 

色や形は存在ではない――

それならば、色や形によって構成される「物質」も存在ではない。

 

そうすると、たしかに存在するのは「観念上の物質」を創っている「脳」だけ、と言いたくなる。

脳だけは絶対的な存在であると。

ところがこれは論理的にありえない。

 

人間が見ているリンゴは脳が創り出した映像である――

この理論が正しいならば、こうも結論できる。

 

人間が観察する脳は脳が創り出した映像である――

完全に矛盾している。

 

脳という発想は、脳を見たり触ったり、脳についての文献を読んだり聞いたりして得られた結論だ。

ということは、ぼくらの知っている脳は「観念上の脳」ということになる。

脳が観念を創っているはずなのに、その脳という発想も観念である――

 

脳を絶対的なものかつ相対的なものと規定している。

無矛盾律からこの理論は間違いだ。

 

では。

脳でないのであれば、いったい何が感官から得られたセンスデータを統合し、物質という現象を生み出しているのか?

 

「人とは何か?」を問う場合、この先に論を進めていかなければならない。

しかし、今回のテーマは「物質」なのでこの話は今後に譲ってエポケー(判断中止)し、以下の結論に留めたい。

 

・色や形は存在ではない

・したがって、色や形によって形作られる物質も存在ではない

・これらを生み出しているのは脳ではない

 

* * *

 

<人の表現形式>

 

「色」や「形」は人間の表現形式だ。

つまり、光の刺激を受けると色や形という現象が起こる。

 

リンゴを見ると人間の感官が刺激され、やがて「赤いリンゴ」像が創られる。

そして新たな現象を通して色や形や位置が書き換えられて「リンゴが落ちる」という現象が観察される。

 

物質は、力や波が現象であることと同様に物質という「現象」だ。

そしてこの現象に対して人は「存在する」という言葉を当てる。

 

だから、物質はぼくたちが普段考えているような確固たる存在ではない。

そういう意味で、実在していない。

 

しかし、物質という現象は確たる現象であり、ぼくたちの主観に影響を与える「主観以外のもの」であることに変わりはない。

そういう意味で、実在している。

 

「現象」や「物質」という言葉の定義の問題だ。

 

物質というとき、一般的には空間を占める確たる「存在」を示す。

一方、現象は物が現れたり動いたりそのままでいたりする「現れ方」や「振る舞い」を示す。

 

つまり物質は空間的なもので、現象は空間と時間が渾然一体となったものだ。

 

では、空間とは何か?

時間とは何か?

 

 

次回はまず「空間」について考えを進めてみたい。

 


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