絵&写真7:光と闇 ~オディロン・ルドン~
揺れる毛。うごめく虫。見つめる目。
分解される身体。歪む空間。消える時間。
深く、悲しく、恐ろしい場所。
それがルドンの闇だ。
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闇が恐ろしければ闇を隙間なく埋めてしまえばいい。
言葉によって。
闇は単なる光の不在だ――
世界は唯物的に動いている――
感情も感覚も迷妄だ――
だからルドンは科学に近づいた。
そう感じる。
黒の時代の絵は思想に大きな影響を受けている。
人体や物質に対するある観念に縛られている。
でも。
闇を追い詰めれば追い詰めるほど、闇の核、闇の本質へと迫る。
言語では到底埋めきれない闇の深遠に気づかざるを得なくなる。
こうしてより本質的な闇が絶対的な恐怖を呼び起こす。
ところが。
闇に花を置くと、花は万の色彩を放ち、生々しく艶やかに輝き出す。
なぜって、闇は光の不在なのではなく、花の不在なのだから。
空間が光に満ちていても、反射するものがなければ闇に閉ざされる。
闇と同じ場所に光はあるのだ。
![オディロン・ルドン「翼のある横向きの鏡像(スフィンクス)」1898-1900年頃、岐阜県美術館](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=270x10000:format=jpg/path/s1d11230f68ef1d16/image/i0cf733e0369186bd/version/1349709413/%E3%82%AA%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%AD%E3%83%B3-%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%B3-%E7%BF%BC%E3%81%AE%E3%81%82%E3%82%8B%E6%A8%AA%E5%90%91%E3%81%8D%E3%81%AE%E9%8F%A1%E5%83%8F-%E3%82%B9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%82%B9-1898-1900%E5%B9%B4%E9%A0%83-%E5%B2%90%E9%98%9C%E7%9C%8C%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8.jpg)
同様に。
哀しみと同じ場所に悦びがある。
ルドンの色彩はそう語っているように、ぼくには感じられる。
* * *
伝えられるところによると。
ルドンは幼くして母に捨てられ、父に育てられたという。
身体は弱く、性格は内向的。
描く絵はどこか猟奇的で、黒を基調としたものばかり。
40歳で結婚するが、長男はすぐに死去。
そんなルドンの絵が、待望の次男アリの誕生を機に変わる。
闇から光へ。
黒から色彩へ。
幻想から物質へ。
思想から感覚へ。
![オディロン・ルドン「グラン・ブーケ」1901年、三菱一号館美術館](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=270x10000:format=jpg/path/s1d11230f68ef1d16/image/id347561287cd7e6d/version/1349709469/%E3%82%AA%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%AD%E3%83%B3-%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%B3-%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%B3-%E3%83%96%E3%83%BC%E3%82%B1-1901%E5%B9%B4-%E4%B8%89%E8%8F%B1%E4%B8%80%E5%8F%B7%E9%A4%A8%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8.jpg)
闇は光の中にあり、光はまた闇の中にある。
闇のルドンも、光のルドンも、人の形のひとつの姿なのだろう。
光のルドンの感覚こそアートだと思うが、闇のルドンの感情にも大いに共感する。
p.s.
上の「グラン・ブーケ」、なんと2.5×1.6mほどもある。
三菱一号館美術館の所蔵になったそうで、これがしばしば見れるとは、なんという幸運。
こういうところが東京で暮らすことのすばらしさだと思う。
<関連サイト>
三菱一号館美術館(公式サイト)