世界遺産検定攻略法11.マイスター試験の問3対策
前回は世界遺産検定マイスター試験の受検戦略と、問1・問2対策を紹介しました。
今回は同試験の山場と言える問3対策を解説します。
○本記事の章立て
- マイスター試験、問3対策
- 問3の解答ポイント
* * *
■マイスター試験、問3対策
○問3の解答戦略
前回の記事で示したように、マイスター試験の認定基準は20点満点中12点以上(得点率で60%以上)となっています。
そして配点は、推定ではありますが問1+問2で計10点、問3で10点と見られます。
問1・問2は模範解答の作成と過去問対策をしておけば、合わせて6点以上(おそらく60%以上)を達成するのはそう難しいことではありません。
本当は問1+問2で8点・80%以上程度を確保して問3の得点をカバーしたいのですが、マイスター試験ではそういう戦略が取れません。
というのは、世界遺産検定の公式サイトに「12点に達していても、問1、2で6点、問3で6点にそれぞれ達していなければ、合格基準を満たしていないものとする」とあるからです。
ですから問3単独で6点以上を取らなければ認定基準に至らないのです。
ということで、マイスター試験の山は間違いなくこの問3です。
そして問3の問題はこのようになっています。
- 問3:……1,200字以内で論じなさい
実際の問題は載せられないので、ぼくが作った予想問題のひとつを例として掲載しましょう。
- 2020年の審議から、1締約国からの推薦上限を1回の世界遺産委員会につき1件(従来2件)とし、1回の世界遺産委員会の審議上限を35件(従来45件)に絞り、35件を超えた場合は保有遺産が少ない国や自然遺産、複合遺産、トランスバウンダリー・サイトを優先することになる。こうした登録プロセスの変更により考えられるよい点と懸念される点について、具体的な世界遺産を取り上げながら1,200字以内で論じなさい
過去問とそれに対する講評は世界遺産検定公式サイトの「例題と対策:マイスター」で手に入れることができます。
「○○年○月の試験の講評および学習方法はこちら」のリンク先にある「第○回世界遺産検定 マイスター試験講評および学習方法」というPDFがそれです。
- 【マイスター】概要と例題・対策(世界遺産検定公式サイト)
上には直近2年4回分の講評しかリンクされていませんが、できれば検索して過去の講評をできるだけたくさん手に入れてください。
そして過去問を並べ、講評を熟読して傾向を読み取ってみてください。
過去問をズラッと並べてみると、まず目に付くのは試験の年に話題になった時事的な話題を絡めた問題が多いという点です。
ほとんどの問題が直近の世界遺産委員会に関するニュースや、その年に世界遺産で起こった出来事などを絡めて作問されています。
しかしながら、時事的な内容や特定の世界遺産そのものが主題になったり、問われているわけではない点も特徴です。
「小笠原諸島」や「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」「明治日本の産業革命遺産」といった世界遺産が登場しても、主題は観光だったり都市開発だったり保護・保全あるいは政治問題等々で、個々の時事ニュースや世界遺産そのものが問われているわけではありません。
つまり、時事的な話題を窓口に、ユネスコや世界遺産条約に内在する重大で根深い問題を論じさせる内容になっているのです。
過去問の背景に広がるそうした問題を軽く書き出してみましょう。
○問3の主題の例
- 世界遺産と保護・保全の問題(法的保護やバッファー・ゾーン等)
- 世界遺産と開発の問題(都市景観や観光開発等)
- 世界遺産と地域社会・住民の問題(地域参加や開発問題等)
- 世界遺産条約や世界遺産リストの代表性・信用性の問題(数的問題や不均衡是正等)
- ユネスコと政治の問題(多国間の政治問題や諮問機関の役割等)
そしてこれらは独立した問題ではなく、それぞれ深い関係にあります。
例を挙げましょう。
世界遺産の保護・保全には地域社会や住民参加が欠かせません。
地域社会が「世界遺産なんていらない」と言い出してしまったら保護や保全は実現されないからです。
実際にドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」やジョージアのバグラティ大聖堂では地域や住民の求めに応じて架橋や改修を認めてしまった結果、顕著な普遍的価値を失ったとみなされて世界遺産リストから抹消されてしまいました。
反対に、地域をあげて保全に乗り出し、成功した世界遺産もあります。
フィリピンの「ビガンの歴史地区」や「トゥバッタハ岩礁自然公園」では地域の協力のもと違法建築や密漁を徹底的に取り締まり、一帯の保護・保全が実現しました。
そして世界遺産を活用した観光が産業として成立し、地域に利益を還元するようになると、世界遺産は地域の誇りとなり、住民が率先して保護・保全に参加するようになったのです。
このように、保護・保全と観光・開発、地域社会・住民といった問題は相互に密接に関係しています。
これらに代表性・信用性や政治問題を絡めることもできるでしょう。
問3がこうした重大で根深い問題に焦点を当てているのであれば、対策はこうなります。
「どのような問題が出題されようと、重大で根深い問題に結びつけて解答する」
この結論を受けてぼくが立てた問3対策は以下です。
○マイスター試験、問3対策
- ユネスコや世界遺産条約に関係する最新の情報を入手する
- ユネスコや世界遺産条約に内在する重大で根深い問題を調べ、それに対する意見を知る
- 重大で根深い問題と関係した典型的な世界遺産を調べる
- 過去問を解き、そうした問題に対する解答をパターン化する
- 自分の解答を読み直し、随時修正する
- 検定の1か月前からは、実際に書いて解答してみる
- 予想問題を作成し、実際に書いて解答する
最初の項目、「最新の情報」については「世界遺産検定攻略法8.時事問題・世界史・検定講座の攻略」の「時事問題攻略法」と同じです。
世界遺産検定や世界遺産アカデミーの研究員ブログ(旧研究院ブログ)やマイスターの世界遺産ニュースを中心に、ニュースサイトなどを検索してユネスコや世界遺産関係のニュースを集めました。
本サイトの「World Heritage 1:世界遺産最新情報/世界遺産ニュース」も役に立つと思います。
続く「重大で根深い問題」とそれに対する「意見」「関係した世界遺産」については、先述の研究員ブログのほかに、「世界遺産 問題」「ユネスコ 問題」等々、さまざまな角度から検索して大学の論文や書籍等に目を通しました。
松浦晃一郎氏をはじめ、ユネスコや世界遺産の関係者の著作なども参考になると思います。
こうして集めた情報の要点は1つのファイルにまとめ、何度も読み返しました。
以下は一例です。
- 世界遺産検定事務局編『世界遺産で取り組む探究学習 自ら考えるための26の事例』(マイナビ出版)
- 宮澤光『歴史総合パートナーズ 11 世界遺産で考える5つの現在』(清水書院)
- 木曽功『世界遺産ビジネス』(小学館新書)
- 吉田正人『世界遺産を問い直す』(ヤマケイ新書)
- 松浦晃一郎『世界遺産 ユネスコ事務局長は訴える』(講談社)
- 松浦晃一郎他『世界遺産の50年: 文化の多様性と日本の役割』(ブックエンド)
- 中村俊介『世界遺産: 理想と現実のはざまで』(岩波新書)
- 須磨章、 NHK世界遺産プロジェクト『世界遺産 知られざる物語』(角川新書)
こうした問題に対する「解答パターン」は実際に過去問を解いて確立していきます。
解答したら自己採点をして、「こうすればよかった」「今度はここに気をつけよう」といった解答ポイントを明らかにして、そこを何度も読んで身につけます。
いろいろな問題を解いているうちに解答パターンが確立されてくるので、過去問を何周か解いてブラッシュアップするとよいでしょう。
ぼくは最初PCで打ち込んでいましたが、受検前には紙に書いて解答しました。
問題を解いていくうちに、いろいろな問題に使える使い勝手がいい世界遺産が出てくると思います。
ぼくの場合は先述した「ビガンの歴史地区」や「トゥバッタハ岩礁自然公園」が一例で、保護・保全、開発・観光、地域社会・住民などの問題のいずれにも対応できる「キー世界遺産」になりました。
ただ、事実関係に間違いがあってはいけないので、ぼくは英語の文献も含めて調査しました。
ぼくがよく使っていたキー世界遺産の一例を紹介しましょう。
気になる方はその理由を調べてみてください。
なお、世界遺産名は1級検定教材の初版である『すべてがわかる世界遺産大事典』上・下巻に記された名称で、普段ぼくが使っている名称(基本的に日本ユネスコ協会準拠)と微妙に異なることがあります。
○キー世界遺産の一例
- ヴェネツィアとその潟(イタリア)
- ウィーンの歴史地区(オーストリア)
- コソボの中世建造物群(セルビア)
- ケルンの大聖堂(ドイツ)
- ドレスデン・エルベ渓谷(元世界遺産。ドイツ)
- バグラティ大聖堂(元世界遺産。現在の名称は「ゲラティ修道院」。ジョージア)
- ワルシャワの歴史地区(ポーランド)
- モスタル旧市街の石橋と周辺(ボスニア・ヘルツェゴビナ)
- バーミヤン渓谷の文化的景観と考古遺跡群(アフガニスタン)
- エルサレムの旧市街とその城壁群(ヨルダン申請)
- サナアの旧市街(イエメン)
- 円形都市ハトラ(イラク)
- ボロブドゥールの仏教遺跡群(インドネシア)
- アラビアオリックスの保護区(元世界遺産。オマーン)
- プレア・ビヒア寺院(カンボジア)
- アレッポの旧市街(シリア)
- 古代都市パルミラ(シリア)
- 麗江の旧市街(中国)
- 原爆ドーム(日本)
- 古都京都の文化財(日本)
- 富士山-信仰の対象と芸術の源泉(日本)
- 明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業(日本)
- 屋久島(日本)
- イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路(パレスチナ)
- パレスチナ:オリーブとワインの地-エルサレム南部バティールの文化的景観(パレスチナ)
- トゥバッタハ岩礁自然公園(フィリピン)
- ビガンの歴史地区(フィリピン)
- フィリピンのコルディリェーラの棚田群(フィリピン)
- トンガリロ国立公園(ニュージーランド)
- グレート・バリア・リーフ(オーストラリア)
- イエローストーン国立公園(アメリカ)
- エヴァーグレース国立公園(アメリカ)
- ガラパゴス諸島(エクアドル)
- ヌビア遺跡群:アブ・シンベルからフィラエまで(エジプト)
- アスキア墳墓(マリ)
- 伝説の都市トンブクトゥ(マリ)
- ロベン島(南アフリカ)
最新のニュースを集め、解答がパターン化してくると、自分自身で問題が作れるようになります。
ぼくが作った予想問題は以下です。
マイスターを目指す方は過去問と一緒にぜひ解いてみてください。
○2017年のマイスター試験のために作った予想問題
- 予想問題1:2020年の審議から、1締約国からの推薦上限を1回の世界遺産委員会につき1件(従来2件)とし、1回の世界遺産委員会の審議上限を35件(従来45件)に絞り、35件を超えた場合は保有遺産が少ない国や自然遺産、複合遺産、トランスバウンダリー・サイトを優先することになる。こうした登録プロセスの変更により考えられるよい点と懸念される点について、具体的な世界遺産を取り上げながら1,200字以内で論じなさい
- 予想問題2:2016年、2017年と日本はユネスコ分担金の拠出を一時留保した。この政策の是非と、ユネスコの文化事業と国家間の政治問題について、他の締約国の動きを挙げながら1,200字以内で論じなさい
- 予想問題3:「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」について、イコモスは沖ノ島と周辺の小島4件について登録勧告が出したが、宗像大社の中津宮・辺津宮を中心とする4件は除外すべきとの提言を示した。日本政府は8件全件の登録を目指す意向を表明したが、近年、世界遺産委員会では諮問機関の判断と異なる決議が問題となっている。この問題の是非を、具体的な世界遺産の例を挙げながら1,200字以内で論じなさい
- 予想問題4:2017年は「開発のための持続可能な観光の国際年」だが、世界遺産でも持続可能な観光開発が注目されている。世界遺産における観光開発の是非を、具体的な世界遺産の例を挙げながら1,200字以内で論じなさい
- 予想問題5:2017年、日本に2件のユネスコエコパークが誕生し、日本の物件は9件となった。近年、白山や屋久島・口永良部島、大台ヶ原・大峰山・大杉谷といったユネスコエコパークにおいて世界遺産との連携が進められている。こうした連携の是非について、具体的な世界遺産の例を挙げながら1,200字以内で論じなさい
ぼくは前年までの傾向から、予想問題1~3のいずれかに近い問題が出るだろうと考えていましたが、実際に出題されたのはまったく違うものでした。
その問題は「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部バッファーゾーン公有化に関する問題でしたが、ぼくは主に保護・保全、地域社会・住民、開発・観光という問題に結びつけて解答しました。
予想は見事に外れましたが、解答はある程度、思惑通りに書けたと思います。
* * *
■問3の解答ポイント
問3において、知識については上に掲げた戦略で対応できると思います。
しかし、問3は知識を問う問題ではなく、立論を行う問題であるという点を忘れてはなりません。
問3の解答で重要なのは、「立論することであって事実を述べることではない」ということです。
これに関して犯しがちなミスが下記2点です。
- 問題に関する事実を書き連ねて終わる
- 問題に関する意見を書き連ねて終わる
事実や意見だけをいくら書き連ねたところで得点にはなりません。
事実を論理的に組み合わせてたどり着いた結論を、自らの意見として掲げなければなりません。
意見を裏付ける事実と、事実を展開した意見、このふたつが必須なのです。
問題のパターンは限られているので、自分なりの解答フォーマットを作っておくとよいでしょう。
一例を提示しておきましょう。
○解答フォーマットの例① 是非を問う問題
1.前提・問題の所在 (いったい何が問題になっているのか?)
2.是の立論 (肯定的な意見とそれを裏付ける世界遺産の例)
3.非の立論 (否定的な意見とそれを裏付ける世界遺産の例)
4.結論 (是と非を比較したうえでの結論。自分の意見)
○解答フォーマットの例② 複数の立場を問う問題
1.前提・問題の所在 (いったい何が問題になっているのか?)
2.立論a (aの立場からの立論とそれを裏付ける世界遺産の例)
3.立論b (bの立場からの立論とそれを裏付ける世界遺産の例)
4.立論c (cの立場からの立論とそれを裏付ける世界遺産の例)
5.結論 (a、b、cの立場を比較検討したうえでの結論。自分の意見)
出題されるのは世界遺産について長年懸念されている問題で、簡単に正解が見つかるようなものではありませんし、さまざまな意見が出る類いの問題です。
ですから、そのさまざまな意見を併記し、そんな中で解答者自身の意見を書いていかなければなりません。
書くべきは自分の意見であって、事実ではないのです。
意見ですから、そもそも正解は存在しません。
だからこそ、講評にしばしば「正解はない」と書かかれているわけです。
たとえば「世界遺産の観光開発」という問題に対して、まず「いったい何が問題になっているのか?」「なぜいま観光問題なのか?」という前提条件を明らかにします。
続いて、観光開発を是とする意見とそれを裏付ける世界遺産の例を出し、これに反論する形で観光開発を非とする意見と例を出します。
そして最後に、是と非の2つ意見を踏まえて、自分の意見を結論として提示していきます(結論を先に置いて立論しても構いません)。
是と非を問う問題でなく、さまざまな立場から意見が割れているような問題であっても同様です。
それぞれの立場から立論し、自分の意見を結論として表現していきます。
そして立論は必ず事実で裏付けを行います。
先の問題であれば、「観光開発は実際に世界遺産○○で成功している。具体的な方法は……」「しかし開発は××で失敗しており、その理由は……」といった具合です。
机上の空論ではなく、事実で補強されたしっかりとした論を提示することを心掛けましょう。
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次回はマイスター試験の本番当日に役立つ試験戦術を紹介します。
[関連サイト]
世界遺産検定(公式サイト)