世界遺産検定攻略法6.試験勉強の3要素、理解・インプット・アウトプット
前回は具体的な受検戦略の立案の仕方を解説しました。
今回はそうした戦略をベースにどのような勉強を行っていくのか、学習方法に焦点を当てます。
○本記事の章立て
- 試験勉強の3要素:理解・インプット・アウトプット
- 理解学習のポイント:流れや物語、意味や理由を意識する
- インプット学習のポイント:覚えようとしない。何度も読む
- アウトプット学習のポイント:弱点を発見する
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■試験勉強の3要素:理解・インプット・アウトプット
試験や検定のための学習は主として3つのパートで成立します。
- 理解
- インプット
- アウトプット
理解学習は、全体の流れや物語、意味や理由を学ぶ学習です。
インプット学習は知識を入力する学習で、アウトプット学習は知識を出力する学習です。
学校の勉強で言えば、理解学習は授業を聞いて内容を理解する学習、インプット学習は参考書や単語帳などを使って知識を入力していく学習、アウトプット学習は問題集を解いたり模試を受けたりして知識を活用する学習です。
この中で、もっとも重要なのが理解学習です。
理由はこれまで試験戦略の理念で解説したように、全体の流れや物語、意味や理由を理解することは「要点を押さえる」ということであり、要点さえ押さえておけば、その後で単語を覚えたり応用したりするのは難しくないからです。
以下では3要素のポイントを解説していきます。
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○理解学習のポイント:流れや物語、意味や理由を意識する
教材を読む際は「流れ・物語」を意識してください。
流れ・物語は「○○だから××」という文脈、つまり因果関係・相関関係で表されます。
ですから「なぜ?」「どうして?」といった理由・原因に焦点を当てると流れ・物語を的確に捉えることができます。
ジャマになるので固有名詞はできるだけ取り除いて考えてみてください。
具体例を挙げましょう。
世界遺産検定1級教材『すべてがわかる世界遺産1500』下巻の「シェーンブルン宮殿と庭園」の解説には、「女帝マリア・テレジアが大規模な増改築を行い、居城とした」「ハプスブルク家の家督を継承すると、この離宮を居城に定め、大改築を始めた」とあります。
単純化すると、「王位に就いた女王が、自分が暮らすためにでっかい宮殿を改築した」ということです。
また、「外観が重厚なバロック様式だった一方で、内部には優美なロココ様式の装飾が施され、花や貝、唐草文様があしらわれている」とあります。
「優美」というのは上品で柔らかな美しさで、「重厚」とはおおよそ反対の意味であることがわかります。
つまり、シェーンブルン宮殿は内観の「優雅で軽やかな美しさ」が特徴で、花や貝・唐草文様を使って軽やかさを演出したものと言えるでしょう。
重々しいバロック建築の宮殿、たとえばヴェルサイユ宮殿の写真と見比べれば、バロックとロココの違いもイメージとして理解できるでしょう。
こうして流れ・物語を理解するとさまざまな応用問題に対応できるようになります。
たとえば。
シェーンブルン宮殿とヴェルサイユ宮殿の写真を載せて「どちらがバロック様式で、どちらがロココ様式か?」、あるいは「時代順に並べなさい」といった問題が出題されたとします。
丸暗記した人は、このようにちょっと角度を変えて出題されると途端に解答できなくなってしまいます。
しかし、流れや物語、意味や理由を把握している人は簡単に解答できます。
それどころか、写真が辺境伯オペラハウスとヴィースの巡礼教会だったとしても、シェーンブルン宮殿とヴェルサイユ宮殿の知識から正解を導き出すことができるのです(前者はバロック、後者はロココの代表的な作品なので、似ている建物を選び出すだけです)。
「攻略法4.試験戦略の理念、頭がいい人の学習法」で書いたように、これが教わらなくても勉強ができる「頭がいい人」「頭が切れる人」が行う思考法であり、要点を押さえた学習法なのです。
このように、理解学習では固有名詞を排除してポイントとなる流れ・物語、意味・理由を理解していきます。
流れ・物語は簡単な言葉で表現できるし、理屈で覚えることができるので理解は難しくありません。
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○インプット学習のポイント:覚えようとしない。何度も読む
理解学習がもっとも大切とは言うものの、実際には固有名詞を覚えなくては合格できません。
特に世界遺産検定の教材は固有名詞が非常に多いので、これをなんとか攻略しなければなりません。
知識を入力していくインプット学習攻略のポイントは以下2点です。
- 覚えようとしない
- 何度も読む
1.覚えようとしない
みなさんも漢字や英単語・元素記号などを覚えようとして、「全然覚えられない…なんて頭が悪いんだろう…」なんて悩んだことがあるのではないでしょうか?
暗記というのはそれほど精神的に辛く、難易度が高く、また非効率的な学習法なのです。
ですから。
単語を覚えようとしてはいけません。
「読む」だけで十分です。
ぼくが取材した東大生の英単語記憶術に共通していたのは、「確実に暗記しよう」などと考えていない点です。
その代わり、1日にたくさんの英単語に接していました。
具体的には、「毎日確実に10~20単語を覚える」というような暗記術ではなく、彼らは「適当でいいから1日100~200単語を読む」という学習法を駆使していました。
理由はたくさんあります。
まず、試験では単語を完全に覚えている必要がないからです。
うろ覚えであっても文脈や選択肢の中にあれば周囲の単語から意味を思い出せる確率は高いでしょう。
また、1日100~200の単語に接していれば10~20くらいの単語は覚えられるものです。
100~200単語の中には知っている単語の関連語やなんとなく覚えやすい単語なども含まれているので、簡単な10~20単語だけ覚えてもよいのです。
最初は似たような単語ばかり覚えていくことになるかもしれませんが、そうして覚えた単語と関連した単語がまた派生して……という具合に、記憶した単語が新たな覚えやすい単語を生み、加速度的に覚えやすくなっていくのです。
さらに、「覚えなくてはいけない」というプレッシャーから解放されることで精神的な苦痛が取り除かれますからモチベーションの向上にもつながります。
特に世界遺産検定はマイスターを除けば四者択一のマークシート方式の問題です。
選択肢を選べばよいだけなので、完璧に覚えている必要はまったくありません。
問題や答えを見て思い出せればよいのです。
ですから「昨日覚えた単語を思い出してみよう!…ええと、ダメだ、思い出せない!!」なんて悩む必要はまったくありません。
読み返して「ああ、そうだ!」と思い出す程度で構わないのです。
実は、筆記試験の学習でも同じことが言えます。
固有名詞を忘れてしまった場合、たしかに減点されるかもしれません。
しかし減点は微々たるもので、全体の流れ・物語を正しく把握して論理的に解答することができれば多くの部分点が確保できるのです。
重要なのは固有名詞ではなく、あくまで全体の流れ・物語、意味・理由で、そこから自分自身の考えを展開することなのですから。
ですから検定教材を読むときは、「毎日確実に4ページ覚える」なんていう学習法をしてはいけません。
「適当でいいから毎日30ページ読む」ような学習法を行うべきです。
適当でよい代わりに、何度も何度も読むのです。
2.何度も読む
単語は覚えようとしてはいけません。
その代わり、何度も読んでください。
「エビングハウスの忘却曲線」と呼ばれる曲線があります。
人は1時間で56%、1日経つと70%の内容を忘れてしまうという心理学者ヘルマン・エビングハウスの実験結果です(上の結果にはさまざまな条件がつきます)。
・忘却曲線(Wikipedia)
人は忘れる生き物です。
ならば忘れることを前提に勉強をするべきです。
たとえば。
今日、いくつかの世界遺産を学習したとします。
1日の勉強を終えるとき、あるいは寝る前に、一通り読み返します。
覚える必要もしっかり読む必要もないので本当に軽くササッとで構いません。
なんなら最初は強調文字以外の固有名詞は飛ばして1ページ数秒~十数秒でも構いません。
翌日、勉強をはじめる前に、またササッと前日の分を読み返します。
さらに1週間後、1か月後に同じように軽く読み返します。
これだけ読むと、完全に暗記することはできなくても、一部を読めば全体の内容を思い出すことができるようにはなっているでしょう。
マークシート方式の問題であればこれで十分です。
時間があったらさらに2か月後、3か月後と情報にアクセスする回数を増やしていきましょう。
重要なのは確実に覚えることではなく情報への「アクセス回数」なのです。
みなさんも自分の趣味については膨大な知識を持っていると思います。
そうした知識は覚えようと思って身につけたものではないでしょう。
情報に何度もアクセスすることで学んだ事柄であるはずです。
また、こうした多読学習は他にもさまざまな副産物を生んでくれます。
たとえば、1回読んだだけでは気づけない流れや物語に気づくことができます。
『すべてがわかる世界遺産1500』下巻の「ランスのノートル=ダム大聖堂、サン=レミ旧修道院、トー宮殿」の解説ではゴシック建築についてまったく触れられていません。
でも、「アミアンの大聖堂」や「ブルゴスの大聖堂」を読んだ後に読み返せば、写真に写っているランスのノートル=ダム大聖堂がゴシック建築であることが容易に理解できます。
また、「シェーンブルン宮殿と庭園」には「鏡の間」という単語が出てきます。
何度も読み返すうちに、「鏡の間」が「ヴェルサイユ宮殿と庭園」にも登場することに気づくでしょう。
前者はモーツァルトが御前演奏をした場所、後者はヴェルサイユ条約の舞台なのですが、こうしてさまざまな事柄を関連づけることで記憶が強化されていきます。
そしてシェーンブルン宮殿がヴェルサイユ宮殿の影響を受けて設計されたことも推測できますし、時代の流れや物語をより一層深く理解することができるのです。
気づきがあったら、それを教材に書き込んでメモしておきましょう。
さまざまな世界遺産が横のつながりを持つことで、流れや物語がより深く・楽しく進化していくのです。
このような学習では復習がとても大切であることがわかります。
何度も何度も読み返すため復習の時間は増えてしまいますが、だからこそ初習は適当でいい、ということもできます。
一度で確実に覚える必要なんてまったくありません。
趣味でそうしているように、覚えようとせずに何度も何度も読み返すのです。
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○アウトプット学習のポイント:弱点を発見する
アウトプット学習は、実際に問題を解いていく学習法です。
目的は以下。
- 弱点を発見する
- 学習内容・学習方法・スケジュールを見直す
理解学習やインプット学習を進めても、以下のような状態に陥って成績が伸びないことがよくあります。
- 内容を理解したつもりでも問題が解けない
- やった記憶はあるけど覚えていない
わかったつもり、やったつもりでいる以上、自分自身でその弱点に気づくことはできません。
ですから問題を実際に解き、間違えることで弱点を発見していくのです。
ですからアウトプット学習は「間違えることが目的」ということもできるでしょう。
ただ、世界遺産検定の学習においては、発売されている過去問集を解く必要性をぼくはあまり感じません。
実際ぼくは過去問集を一度も解いたことがありません。
理由は以下。
- 単純に知識を問う問題が多いので、間違えても「知識不足」以外の情報が得にくい
- 時事問題以外は教材の内容に即した問題しか出題されないので、多読学習だけで事足りる
- 解答時間に余裕があるので、試験時間の使い方などを工夫する必要がない
- 1級の場合は同じ問題が出題されることもあまりない
ですから過去問集を解くとしても1~3回で十分でしょう。
過去問を解くタイミングは以下がよいでしょう。
○過去問を解くタイミング
- 受検勉強の開始前
- 教材を何回か読み終えたあと
- 本番直前
受検勉強の開始前に一度問題を解いておくのは、どんな問題が出題されるのか傾向を知っておくことで、学習の内容と目的がハッキリするからです。
「すでに○%は得点できるのか。それならそんなにたいへんじゃないな」とか「これなら完全に記憶しておく必要はないな」といったことを学ぶ程度で構いません。
そして、教材を何通りか読み終えた後に、どの程度の実力がついたのか確認のために解いてみてください。
まったく点数が伸びていないようであれば、勉強の仕方を考え直さなければならないかもしれません。
ただ、1~2回読んだ程度では点数は上がらないので、3~4回読むたびに解答する形がよいかもしれません。
受検直前に読むのは解答ペースをつかむためです。
過去問を解く前に、全体を何分で終えて確認に何分使うのか、時間配分を考えてみてください。
時間術の一例です。
1級は90分で90問ですが、ぼくは残りの30分をわからなかった問題の確認に使おうと考えました。
そうすると60分で90問、つまり40秒で1問のペースで解かなければなりません。
このペースで解いていって、わからない問題や確認が必要な問題にチェックをして、残りの30分でそういう問題だけを読み直すという戦術です。
これはこれでよい戦術だと思ったのですが、世界遺産検定は全体的に時間に余裕があるので、実際にはぼくは1級の解答用紙を45分程度で提出してしまいました。
直前でなくても、過去問を解くときはつねに時間をキッチリ計って本番同様にやってみるべきです。
時間内にできなければ解けたことになりませんから。
大学入試の筆記試験などでは、解答する前に一度すべての問題を読んで難易度と目標解答時間を割り出し、簡単な問題から解いていくという試験戦術が非常に重要になってきます。
同じ実力でも、難問に手を出して時間をロスしてしまう人と、難問をひと目でパスして簡単な問題から解いていく人とでは、得点に大きな差が出てしまうからです。
世界遺産検定ではマイスター試験以外でこうした試験戦術を使う必要はあまりありません。
ただ、難問があったらそれをマークしておいて、すべて解き終わった後にもう一度、チャレンジするようにしてみてください。
ぼくは過去問集を解いていませんが、やはり1~2度は解いておくべきだったとは思っています。
勉強をやりすぎてしまいましたから。
満点近い得点を取りましたが、そんなにやる必要はありませんでした。
過去問を何度か解いていれば、学習内容・学習方法・スケジュールを見直して、適度な勉強にすることができたと思います。
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「単純に知識を問う問題が多いので、間違えても『知識不足』以外の情報が得にくい」
この点について、ぼくは世界遺産検定の問題にも少々問題があると考えています。
というのは、ただ知識があるか否か、覚えているか否かを問うだけの問題が多すぎるのです。
問題形式についても、たとえば何人かの楽しげな会話の中に問題を入れ込むような工夫をしていますが、結局問われるのは知識・記憶なのでほとんど意味がありません。
ぼくはそうした会話文はいっさい読まず、問題文だけを読んで回答していました。
会話形式を活かすなら、たとえば検定教材に直接書かれていなくても、他の項目の内容から正解を推論できるような問題を出し、それを会話で導いたらどうでしょう?
具体的には、ランスのノートル=ダム大聖堂の写真を載せて建築様式を答えさせるような問題です。
この大聖堂の建築様式は教材に書かれていませんが、「アミアンの大聖堂」や「ブルゴスの大聖堂」の項目でゴシック様式を学んだ人は容易に回答できるでしょう。
会話の中で「アミアン大聖堂と同じ様式なんだよね!」というようなヒントを出してもいいでしょう。
いずれにせよ、知識だけを問う問題は減らした方がよいのではないでしょうか。
勉強している方としても、ただ覚えるだけになりがちです。
私立大学の世界史の問題などは良問が多いので、参考にしていただきたいところです。
さて。
今回は一般論として試験勉強の3要素、理解・インプット・アウトプット学習について解説しました。
次回はこれらをベースに世界遺産検定の具体的な学習法を紹介します。
[関連サイト]
世界遺産検定(公式サイト)