エッセイ3:アフリカ時間
朝4時45分に起きてバスを待つ。
昨日は日が落ちるまでバスを待ったが結局こなかった。
モザンビークに入って英語がまったく通じなくなり、バスが出る曜日も時間もわからない。
時刻表もないし、そもそも予定なんかないのかもしれない。
バス停でゴザを引いて待っていると、おじさんがゼスチャーで「バスはない」みたいな振りをする。
別のおじさんは「6時だ」。
結局8時まで待ってもバスはこなかった。
街外れの十字路にゴザを敷いて車を待つことにする。
なんでもいいから車が通りかかったらヒッチハイクだ。
太陽が高度を増し、影が尻の下に消える。
車の気配は一向にない。
あまりの暑さにマンゴーの木陰に逃げる。
バッグから本を取り出して何度も読んだ本をまた読みはじめる。
それにも飽きてボケッとしてみる。
そこではじめて気がついた。
向こうの木の下に男がひとり、死んだように眠っている。
あちらの家の軒下ではおばさんが呆けたように座っている。
親子連れが大地に腰を下ろし、パンや魚をバケツに入れて半分眠りながら商売している。
誰も口をきかない。
何もしない。
たまに人が通りかかると軒下のおばさんが挨拶し、行商の親子は「パン、パン」と声をかける。
「パン」ってポルトガル語だったんだ。
本を放り投げて寝そべってみる。
熱帯の重い青空をまっ白な雲が形を変えながらすごい速さで流れていく。
やがて目の焦点すら合わなくなると、感じるのは虫の羽音や太陽の熱や風のやわらかさ。
それにも慣れると感覚が消え、時間が止まる。
頬が「冷」を感じて飛び起きる。
ボコッ、ボコッとマンゴーが落ちてくる。
やわらかい雨が大地を冷やし、木々を濡らす。
マンゴーは雨を受けてその実を土に委ねているらしい。
子供がバケツをもって駆けてくる。
バケツにマンゴーを一杯に詰めると、「5,000メティカル!」
いいよ、そこに落ちてるもん、ごめんな。
マンゴーはジューシーでとてもうまい。
やがて雨がやみ、太陽が水たまりをキラキラ照らす。
周囲にはマンゴーがこれでもかと落ちている。
川を見下ろすと魚がウジャウジャ泳いでいる。
人々を見ると、目の焦点も合わせずに、ただ大地に溶け込んでいる。
男は相変わらず死んだようだし、おばさんの時間は止まっている。
親子はパンと魚にマンゴーを加えてボケッと座っている。
マンゴーの根を枕に寝転がる。
ぼくは木になった。
Dai@モザンビーク、モシンボア・ダ・プライア