エロジー2:おいしい、美しい、気持ちいい
ノリを効かせてピシッとキメたシャツにタキシードを着たあなた、彼女はドレス。
すてきな純白の可憐なドレスです。
よくお似合いでいらっしゃる。
脂滴るラム肉を小さなお口に運んで、血と肉とソースを唾液に絡めてグチョグチョに租借なさって。
まっ赤なワインが残酷な食べかすを洗い流したら1mmの狂いもなく折りたたまれたナプキンでかわいらしいお口をトントンとやさしくぬぐいましょう。
料理に縛られ、作法に縛られ、立ち居振る舞い、歩き方まで縛られて、上品に華麗に夜景美しい高層階のスウィートにエスコートしておあげなさい。
オレンジの間接照明を背景に、一枚の前面ガラスの向こうは東京湾。
真下にはサラリーマンたちが蟻のように動き回っていることでしょう。
サラリーマンたちのまん中で、やさしくキスしながら彼女の手をやわらかく結びましょう。
耳を噛みながら純白のドレスは脱がさず、少しずつ少しずつ指を這わせつつ撫で上げましょう。
おわかりですかの。
美しい音楽にはルールがあります。
不協和音を心地よいと感じる民族はこの世におりません。
美しい絵にはルールがあります。
美しい絵は誰がみても美しいからゴッホの絵はいつの時代、世界のどこでも評価されるのですな。
この原初のルールを人はアートと名づけました。
すべての人の活動の原点がこのアートですな。
おいしい。
美しい。
気持ちいい。
感覚ですな。
おいしいを追究して、焼いたり、煮たり、ソースをかけたり、別の食材と合わせたりといった技法が生まれました。
気持ちいいを追究して、縛りの技法や、縛りを破る技法が生まれました。
人はなぜおいしいものを食べるのですかの?
あなたのような方はこんなことをおっしゃる。
「栄養を補給するために有用なものはおいしく、有用でないものはマズく感じるようになった」
たわごとですな。
「進化の過程で遺伝子がそのように決めた。脳がそう反応するよう決めている」
違いますな。
人の活動の原点はおいしい、美しい、気持ちいい、です。
それを説明するために生まれた仮説が進化論や遺伝子説、脳の科学に心理学です。
順番が逆ですな。
なぜ人はおいしいものを食べるのか?
おいしいからに決まってるじゃありませんか。