世界遺産NEWS 14/02/05:韓国、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録に反対

毎年開催されている世界遺産委員会。

2014年は6月15~25日にかけて、カタールのドーハで第38回世界遺産委員会が開催されます。

日本からは「富岡製糸場と絹産業遺産群」がエントリーしています。

 

そして来年、2015年の第39回世界遺産委員会で世界遺産登録を目指しているのが「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域 "Sites of Japan Meiji Industrial Revolution (Kyushu, Yamaguchi and related area)"」です。

すでに推薦状は提出されており、今年の夏から秋にかけてICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)による現地調査が行われる予定です。

以前も掲載しましたが、もう一度、その意義と全国8県11市にまたがる構成資産を紹介しておきましょう(内閣官房地域活性化統合事務局報道資料より)。

 

■世界史的意義

重工業(製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業)は、日本経済の屋台骨を支える基幹産業である。

幕末から明治後期にかけて、日本は工業立国の経済的基盤を築き、奇跡とも呼ばれる急速な産業化を果たした。

20世紀初頭には、非西欧地域において、他に先駆け、最初の産業国家として国家の質を変革した。

アメリカ軍東インド艦隊の江戸湾来航以降、徳川幕府が開国の方針に改めた後、僅か半世紀で、重工業の急速な産業化を進め、国家の質を変革し、産業国家の礎を築いたことは、技術、産業、社会経済に関わる世界の歴史的発展段階において、極めて、歴史的価値、技術的価値、文化的価値の高い特筆すべき類稀な事象である。

 

■構成資産

  • 1~5:萩の産業遺産群(山口県萩市)
  • 6:旧集成館(鹿児島県鹿児島市)
  • 7:寺山炭窯跡(鹿児島県鹿児島市)
  • 8:関吉の疎水溝(鹿児島県鹿児島市)
  • 9:三重津海軍所跡(佐賀県佐賀市)
  • 10:韮山反射炉(静岡県伊豆の国市)
  • 11:橋野高炉跡及び関連遺跡(岩手県釜石市)
  • 12:小菅修船場跡(長崎県長崎市)
  • 13:長崎造船所第三船渠(長崎県長崎市)
  • 14:長崎造船所旧木型場(長崎県長崎市)
  • 15:長崎造船所、ジャイアント・カンチレバークレーン(長崎県長崎市)
  • 16:長崎造船所占勝閣(長崎県長崎市)
  • 17:高島炭坑(長崎県長崎市)
  • 18:端島炭坑(長崎県長崎市)
  • 19:旧グラバー住宅(長崎県長崎市)
  • 20:三池炭鉱宮原坑(福岡県大牟田市)
  • 21:三池炭鉱万田坑(福岡県大牟田市、熊本県荒尾市)
  • 22:三池炭鉱専用鉄道敷跡(福岡県大牟田市、熊本県荒尾市)
  • 23:三池港(福岡県大牟田市)
  • 24:三角西(旧)港(熊本県宇城市)
  • 25:八幡製鐵所旧本事務所(福岡県北九州市)
  • 26:八幡製鐵所修繕工場(福岡県北九州市)
  • 27:八幡製鐵所旧鍛冶工場(福岡県北九州市)
  • 28:八幡製鐵所、遠賀川水源地ポンプ室(福岡県中間市)

 

これに対し韓国は、昨年から「日本が登録を推進する施設は韓国民の痛みが立ちこめた場所だ」として推薦に反対を表明しています。

朝鮮日報の記事にはこう書かれていました。

 

これらの施設で韓国人が強制的に徴用され、長時間の労働や賃金の未払いなどの末、 多くの人が命を落としたという事実に目を背け、自国の近代化に貢献したという側面だけを強調している。長崎造船所には第2次大戦中、約4700人の韓国人が軍艦の建造のため徴用された。このうち多くの人が、 1945年8月9日に長崎に投下された原子爆弾で命を落とした。また、端島炭鉱(軍艦島)には1944年から45年にかけ、約800人の韓国人が連れていかれ、このうち122人が炭鉱での事故などのため死亡した。

(朝鮮日報日本語版2013年9月16日の記事より)

 

この2月4日には韓国外交相がUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)のイリーナ・ボコバ事務局長と会談し、「世界遺産登録の基本精神に反する」ということで反対の立場を伝達。

これに対して事務局長は「世界遺産登録は、関係国の分裂と葛藤ではなく、統合を導く役割をしなくてはならない」と回答したとのことです。

 

日本の産業革命遺産に反対を=ユネスコ事務局長に韓国外相(時事通信)

 

世界遺産には「アウシュヴィッツ-ビルケナウ:ナチスドイツの強制絶滅収容所 [1940-1945])」や「広島平和記念碑[原爆ドーム]」のようないわゆる「負の遺産」と呼ばれるものがあり、「世界遺産登録の基本精神に反する」という立場はよくわかりません。

しかし、日本国内でも「徴用の事実があったのであれば、その事実を確認して触れておく必要がある」という意見もあって、この立場ならよく理解できます。

夏から秋にかけてICOMOSの専門家による現地調査が行われますから、この点について科学的な調査を行って報告・相談しておく必要があるかもしれません。

 

なお、世界遺産の登録は世界遺産委員会において21の委員国の2/3以上の賛成をもって可決されます。

2015年の第39回世界遺産委員会における委員国は以下21か国の予定です。

アルジェリア、コロンビア、クロアチア、フィンランド、ドイツ、インド、ジャマイカ、日本、カザフスタン、レバノン、マレーシア、ペルー、フィリピン、ポーランド、ポルトガル、カタール、韓国、セネガル、セビリア、トルコ、ベトナム。

 

日中韓の対立が激化していると言われますが、実はここ最近、戦争に関する物件の世界遺産登録活動が各国で活発化しています。

UNESCOの三大遺産事業のひとつである「世界の記憶(世界記録遺産)」において、中国は南京大虐殺に関する歴史公文書、韓国はいわゆる従軍慰安婦に関する記録書を登録しようと活動を進めています。

日本では南九州市が、特攻隊員が出撃前に書き残した「知覧からの手紙(知覧特攻遺書)」の推薦活動を行っていますが、韓国紙はこれに対しても反対しています。

 

■ 「知覧特攻遺書」ユネスコ世界記憶遺産登録を目指して!(知覧特攻平和会館)

 

上のサイトでは「知覧からの手紙(知覧特攻遺書)」の登録理由に「平和への願い」を挙げています。

引用してみましょう。

 

特攻隊員が書き残した遺書や手紙等は、「戦争の悲劇」「愛する者への想い」が綴られた「平和への遺言」であります。これら資料は、戦争の悲惨さを世界の人々に語り継ぎ、「二度と戦争を起こ してはならない」ということを発信する、人類にとって極めて貴重な記憶遺産であると信じています。私たちは、特攻隊員が出撃前に書き残した「知覧からの手紙」(知覧特攻遺書)を毀損・消失することなく保存し、人類の宝として次の世代に永久に語り継いでいくために、2015年のユネスコ世界記憶遺産登録を目指します。

(知覧特攻平和会館公式サイトより)

 

先のイリーナ・ボコバ事務局長の言葉や、上の知覧特攻平和会館公式サイトの思いは、UNESCO設立の理念に非常にかなっています。

 

世界史上、もっとも多くの人が亡くなった戦争は言うまでもなく第一次・第二次世界大戦です。

犠牲者数はふたつの大戦を合わせて7,000万~8,000万。

人権概念が浸透したはずの20世紀の先進国でこのような凄惨な戦争が行われました。

 

この反省の下に作られたのがUNESCOです。

UNESCO憲章にはこう書かれています。

 

戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。

相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信をおこした共通の原因であり、この疑惑と不信のために、諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった。

ここに終りを告げた恐るべき大戦争は、人間の尊厳・平等・相互の尊重という民主主義の原理を否認し、これらの原理の代わりに、無知と偏見を通じて人間と人種の不平等という教義をひろめることによって可能にされた戦争であった。

文化の広い普及と正義・自由・平和のための人類の教育とは、人間の尊厳に欠くことのできないものであり、且つすべての国民が相互の援助及び相互の関心の精神をもって果さなければならない神聖な義務である。

政府の政治的及び経済的取極のみに基く平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって平和は、失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かなければならない。

これらの理由によって、この憲章の当事国は、すべての人に教育の充分で平等な機会が与えられ、客観的真理が拘束を受けずに探究され、且つ、思想と知識が自由に交換されるべきことを信じて、その国民の間における伝達の方法を発展させ及び増加させること並びに相互に理解し及び相互の生活を一層真実に一層完全に知るためにこの伝達の方法を用いることに一致し及び決意している。

その結果、当事国は、世界の諸人民の教育、科学及び文化上の関係を通じて、国際連合の設立の目的であり、且つその憲章が宣言している国際平和と人類の共通の福祉という目的を促進するために、ここに国際連合教育科学文化機関を創設する。

(日本ユネスコ協会連盟公式サイトより)

 

このようにUNESCO、すなわち国際連合教育科学文化機関は、教育・科学・文化を普及させることで戦争を防ぐために誕生しました。

そしていま、UNESCOが各国の対立に使われつつあります。

まったく本末転倒なお話です。

 

いったいどうしたらお互いの心の中に「平和のとりで」を築くことができるのでしょうか?

非常に難しい問題ではありますが、世界遺産の意義を語るうえで欠かせない問いであるはずです。

 

 

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