世界遺産NEWS 25/10/11:エジプト・王家の谷でアメンホテプ3世の墓が修復完了・公開へ
10月4日、エジプト南部の都市ルクソール西岸の砂漠地帯に広がる「王家の谷」で、アメンホテプ3世の墓が20年以上にわたる修復を完了し、一般公開されました。
アメンホテプ3世はエジプト最盛期と言われる第18王朝のファラオ(王)のひとりで、WV22と呼ばれるその王墓も最大規模を誇ります。
■Egyptian Pharaoh’s Tomb Opens to the Public After 20-Year Restoration(Artnet)
今回はこのニュースをお伝えします。
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古代エジプトにおいて、紀元前2700~前2200年頃の古王国時代、首都は現在のカイロ近く、ナイル川東岸のメンフィスに置かれていました。
東岸が生者の町であったのに対し、西岸は死者の町=ネクロポリスとされ、竪穴式墳墓=マスタバや、マスタバが発達したピラミッド、魂を祀る葬祭殿などが築かれました。
エジプトでピラミッドが建造されたのはほぼこの時代に限られます。
これらの遺跡は「メンフィスとその墓地遺跡-ギザからダハシュールまでのピラミッド地帯」として世界遺産リストに登録されています。
時代は下って紀元前2100~前1800年頃の中王国時代、首都はナイル川を約500kmほど上ったテーベ、現在のルクソールに遷されました。
そして紀元前1600~前1000年頃の新王国時代、第18王朝(紀元前1600~前1300年頃)で最盛期を迎え、トトメス1世やトトメス3世といったファラオがスーダンからメソポタミアに至る大帝国を築き上げました。
ナイル川東岸のカルナック神殿やルクソール神殿を中心にテーベは大々的に開発され、かつてない巨大都市が繁栄しました。
一方、西岸では砂漠の谷に穴を掘り、内部を装飾した地下墓に遺体を隠しました。
こうして谷には60を超える墓が築かれ、「王家の谷」「王妃の谷」「貴族の谷」と呼ばれるネクロポリスが整備されました。
東岸と西岸の遺跡群は「古代都市テーベとその墓地遺跡」としてこちらも世界遺産となっています。

第18王朝には14人のファラオがいますが、第9代のファラオがアメンホテプ3世です。
紀元前1388年頃から40年近くも君臨したファラオで、ルクソール神殿やアメンホテプ3世葬祭殿(メムノンの巨像)、マルカタ王宮など数々の建築物を築いたことでも知られます。
王家の谷は東谷と西谷に分かれていますが、アメンホテプ3世の墓であるWV22は西谷で最大級を誇ります。
1799年8月、フランスのナポレオンのエジプト遠征隊が発見した王墓で、古代エジプト象形文字ヒエログリフの解読で知られるシャンポリオンや、ツタンカーメンの墓を発見したハワード・カーターといった名だたる考古学者が調査したことでも有名です。
この墓の現代的調査において、UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)や日本政府とともに大きく貢献したのが早稲田大学古代エジプト調査隊です。
1971年にルクソールで調査を開始した同隊は、1974年にアメンホテプ3世の儀式用彩色階段を発見。
以来、アメンホテプ3世とその時代の研究をテーマに掲げ、関連遺跡の発掘や調査に尽力しました。
アメンホテプ3世の墓については1989年に調査を開始し、同時に保存修復プロジェクトを立ち上げました。
王墓は全長約85mで大小8室ほどの部屋がありますが、早くに盗掘されており、コウモリが巣くうなど荒廃が進んでいました。
そのため慎重に発掘やマッピング、壁画の修復、壁・柱の補強、石棺の修復などを行い、2010年代まで3期にわたって作業が続けられました。
3期の途中でプロジェクトは中断されたようですが、その後もUNESCOが中心となって修復を続けました。
そして今年10月4日、20年以上にわたる修復を完了して一般公開されました。
上の動画にあるように、壁や天井に描かれた絵には鮮やかな色が戻り、玄室の中央には石棺の蓋が掲げられています。
この蓋は早稲田大学古代エジプト調査隊が修復したもので、当初はバラバラになって床に打ち捨てられていました。
来月2025年11月1日には待望の大エジプト博物館がグランドオープンを迎えます。
博物館がカイロの目玉になるのに対して、アメンホテプ3世の墓はルクソールの目玉のひとつとなりそうです。
ちなみに、アメンホテプ3世のミイラはアメンホテプ2世の墓で発見されています。
アメンホテプ3世の墓が早い段階で盗掘され、ミイラがこちらに退避させられていたようです。
現在はカイロのエジプト国立文明博物館に収められています。
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