世界遺産NEWS 25/07/14:速報! 2025年新登録の世界遺産!!
フランスのパリにて7月6~16日の日程で開催されている第47回世界遺産委員会ですが、新登録物件の審議が終わったようなので新しい世界遺産を速報でお伝えします。
新登録の世界遺産は計26件で、文化遺産21件、自然遺産4件、複合遺産1件です。
これで世界遺産の総数は1,248件となり、文化遺産972件、自然遺産235件、複合遺産41件となりました。
また、世界遺産登録と同等の手続きが必要となる「重大な変更」については2件が承認されています。
危機遺産について、新規のリスト入りはなし、3件が解除されて、計53件となりました。
さらに、日本と韓国による「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の議題を巡る攻防についても解説します。
速報なので、万一追加や間違い等が確認された場合は随時修正します。
※世界遺産総数と文化遺産数についての注意
数字については公式サイトに従っています。
しかし、新登録物件について1点懸念点があります。
パナマの新世界遺産「パナマの植民地時代の地峡横断路」ですが、この物件は1997年に登録された「パナマ・ビエホの考古遺跡とパナマ歴史地区」を含むとの決議がなされています。
「含む」の意味ですが、単なる重複登録ならよくあることです。
しかし、公式サイトからは「パナマ・ビエホの考古遺跡とパナマ歴史地区」のページが消えており、総数も1件減っています。
もしかしたら新世界遺産に吸収されたという意味かもしれません。
吸収されたのであれば、過去の世界遺産の拡大ということで「重大な変更」の扱いになりそうなものですが、公式サイトでは新登録として扱っています。
新世界遺産のページでも「パナマ・ビエホの考古遺跡とパナマ歴史地区」の登録年・拡大年などはまったく反映されていません。
上記の総数1,248件、文化遺産972件は「パナマ・ビエホの考古遺跡とパナマ歴史地区」が吸収されて消えた場合の数字で、公式サイトではこちらを採用しています。
消えていなければそれぞれ+1の数字となります。
この件については確認でき次第、正しい数字に置き換えます。
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毎年恒例の世界遺産委員会ですが、今年は7月6~16日の日程でフランス・パリのUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)本部にて第47回が開催されています。
世界遺産委員会の21委員国は以下となっています。
○世界遺産委員会構成国
議長国:ブルガリア
書記国:ルワンダ
副議長国:ベルギー、カタール、韓国、メキシコ、ザンビア
委員国:イタリア、ウクライナ、ギリシア、トルコ、ブルガリア、ベルギー、インド、カザフスタン、カタール、韓国、日本、ベトナム、レバノン、ジャマイカ、セントビンセント及びグレナディーン諸島、メキシコ、アルジェリア、ケニア、ザンビア、セネガル、ルワンダ
本年の新登録の世界遺産は計26件で、文化遺産21件、自然遺産4件、複合遺産1件です。
これで世界遺産の総数は1,248件となり、文化遺産972件、自然遺産235件、複合遺産41件となりました。
ギニアビサウ、シエラレオネにはじめての世界遺産が誕生しています。
日本の物件はありません。

世界遺産登録と同等の手続きが必要となる「重大な変更」については2件が承認されています。
2003年に登録されたベトナムの世界遺産「フォンニャ=ケバン国立公園」は、ラオスのヒン・ナム・ノ国立公園を含む形で範囲を広げてトランスバウンダリー・サイト(国境をまたがる遺産)となり、名称が「フォンニャ=ケバン国立公園及びヒン・ナム・ノ国立公園」となりました。
また、1999年に登録された南アフリカの「イシマンガリソ湿地公園」も範囲をモザンビークのマプト国立公園まで拡大してトランスバウンダリー・サイトとなり、名称が「イシマンガリソ湿地公園=マプト国立公園」となっています。
危機遺産リストについて、新規のリスト入りはなしで、3件がリストから解除されました。
これで危機遺産は計53件となっています。
以下、解除された3件の概要です。
エジプトの「アブ・メナ」は初期キリスト教巡礼地のすぐれた遺構として知られますが、周囲の農場の影響を受けた地下水位の変動や建造物崩壊の危機を受けて、2001年に危機遺産リスト入りしました。
しかし、排水システムの改善や太陽エネルギーの活用が進んだ結果、地下水位の上昇が押さえられ、構造物も安定したことで、今回の解除を勝ち取りました。
マダガスカルの「アツィナナナの雨林」は生物多様性に秀でた自然遺産ですが、森林伐採をはじめとする違法な開発がキツネザルなどの希少種に悪影響を与えていたことから、2010年に危機遺産となりました。
これに対して高度な管理計画を策定し、人工衛星をも利用した監視システムを築いて対応した結果、伐採された土地の63%が回復し、違法開発や木材の密輸がほぼ停止したことで、リストからの解除となりました。
リビアの「ガダーミスの旧市街」はアフリカ内陸部と地中海沿岸を結ぶ交易都市として発達しましたが、政情不安からくるトラブルや、山火事や集中豪雨といった災害対策・修復活動が不十分であることから2016年に危機遺産リストに登載されました。
しかし、建造物が適切に修復・保全され、すぐれた管理・予防計画が運用されはじめたことで状況が改善されて、今回の決定となりました。
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報道でご存知の方も多いと思いますが、世界遺産委員会の開幕日である7月6日に軍艦島(端島)に関して日本と韓国の間で激しい応酬がありました。
この件について過去にいくつか記事を書いていますので、ここで簡単にまとめておきましょう。
その前に、世界遺産の報告について説明します。
世界遺産は「世界遺産リストに登録されたら終わり」というものではなく、保有国は世界遺産を保護・保全する義務を負い、世界遺産委員会に対してさまざまな報告を行います。
すべての世界遺産に義務付けられているのが6年に一度の定期報告です。
また、なんらかの脅威が報告された世界遺産については世界遺産委員会の決議に従ってUNESCOの世界遺産センターや諮問機関が調査を行います(リアクティブ・モニタリング)。
さらに、緊急の危機に対してはUNESCO事務局長の判断で世界遺産センターや諮問機関が調査することもあります(強化モニタリング)。
そして世界遺産委員会は報告を受けた後、その後の対応を決めるのですが、不十分と判断された場合は翌年以降に追加報告を求めます。
日本に関し、今年の報告の対象になっていたのは「知床」で、2024年12月1日までに報告書を提出し、今年の世界遺産委員会で審議することになっていました。
そして先日の9日に報告を行い、携帯電話の基地局事業などについて2027年12月1日までに追加の報告書を提出し、翌年の世界遺産委員会で審議されることが決議されました。
なぜ突然、軍艦島の話が持ち上がったのでしょうか?
軍艦島は2015年に登録された世界遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産のひとつですが、この遺産は登録以前から韓国が反対を表明していました。
その理由は、「強制労働など韓国民の痛みが立ちこめる場所」であり、「長崎造船所をはじめとする7つの施設は朝鮮半島から57,900人が強制動員された悲しみの場所」であるとしています。
そして2015年の世界遺産委員会では直前の外相会談で合意に至ったにもかかわらず、委員会開催中に韓国が反対のロビー活動を行い、日本は対応に追われました。
結局、日本は徴用工が自らの意思に反して連れてこられ、厳しい条件で労働を強いられたことを認めて、インフォメーション・センターなどを設置して徴用について記載することを約束し、世界遺産委員会で討議をいっさい行わないという前代未聞の形で登録が決定されました。
そして2020年3月31日、東京新宿の政府庁舎に産業遺産情報センターがオープンしました。
ただ、内容的に強制労働や差別を否定する側面が多かったことから、韓国は世界遺産リストからの抹消を求めるなど強く反発しました。
そして韓国の抗議を受けて先述したリアクティブ・モニタリングが実施され、世界遺産センターと諮問機関であるICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)が共同調査団を組織して現地調査を含む調査を行いました。
その結果、世界遺産委員会で合意された約束は守られておらず、措置は不十分であると報告しました(ただし、韓国や日本の主張に対する正誤の判断は行っていません)。
日本はこれに対する報告を2022年12月1日までに行い、2023年の第45回世界遺産委員会で審議を受けました。
ここでは日本の取り組みを評価したうえで、韓国を念頭に関係国との対話を継続することを奨励し、2024年12月1日までに新たな情報提供を行い、世界遺産センターと諮問機関の評価を受けることが決議されました。
つまり、この時点でこの件に関して世界遺産委員会での審議は不要となったのです。
今回、韓国はこれを覆そうとしたわけです。
そして7月6日にこの件を議題に戻すよう修正案を提出しました。
これに対して日本は世界遺産の顕著な普遍的価値に関係のない政治色の濃い議題であり、2国間の協議によって解決を図ることがすでに承認されているとして委員会での報告を削除する修正案を出して対応しました。
世界遺産センターやICOMOSも2国間協議による解決を勧めましたが、両国が合意に至ることはありませんでした。
21委員国からなる世界遺産委員会は全会一致を原則としており、基本的にコンセンサス(合意形成)で決定を行います。
しかし、それに至らない場合は表決が行われて、投票した国の3分の2以上の賛成で承認となります。
今回は日本案が賛成7、反対3、棄権・無効11で可決されました。
初日から、しかも議題について表決が行われるのは前代未聞でしたが、ともかく韓国の要請は退けられ、世界遺産委員会で審議されることはありませんでした。
韓国外交部は遺憾を表明し、今後も世界遺産委員会で取り上げると主張しています。
なお、これまでの過程の詳細については以下の過去記事を参照してください。
[関連記事]
世界遺産NEWS 14/02/05:韓国、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録に反対
世界遺産NEWS 15/04/01:韓国、「明治日本の産業革命遺産」に再度反対表明
世界遺産NEWS 16/09/15:軍艦島/端島をめぐるふたつの課題
世界遺産NEWS 20/04/11:明治日本の産業革命遺産を紹介する産業遺産情報センターを東京に開設
世界遺産NEWS 20/06/25:韓国、明治日本の産業革命遺産の世界遺産抹消を要求へ
世界遺産NEWS 21/07/13:UNESCO調査団、軍艦島の朝鮮人労働者に関し日本の措置を不十分と指摘
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それでは新登録の世界遺産をすべて紹介します。
掲載の順番は、文化遺産→自然遺産→複合遺産で、それぞれトランスナショナル・サイト/トランスバウンダリー・サイト(複数国に資産を有する物件)→ヨーロッパ→アジア→オセアニア→北アメリカ→南アメリカ→アフリカ、さらに国別五十音順→世界遺産名五十音順です。
また、これらの後に「重大な変更」、危機遺産リストの変更点も記載しています。
日本語名は私が適当に訳したもので、正式な名称は英語の表記になります。
世界遺産英名の下に記載したのは所属国と登録基準です。
登録勧告以外からの逆転登録についてはその旨を表記しました。
何も書かれていなければ登録勧告からの登録決定です。
<文化遺産21件>
■サルデーニャの先史時代の葬祭伝統-ドムス・デ・ヤナス
Funerary Tradition in the Prehistory of Sardinia – The domus de janas
イタリア、文化遺産(iii)
※情報照会勧告からの逆転
■ミノア文明の宮殿地区
Minoan Palatial Centres
ギリシア、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
※情報照会勧告からの逆転
■バイエルン王ルートヴィヒ2世の宮殿群:ノイシュヴァンシュタイン、リンダーホーフ、シャッヘン及びヘレンキームゼー
The Palaces of King Ludwig II of Bavaria: Neuschwanstein, Linderhof, Schachen and Herrenchiemsee
ドイツ、文化遺産(iv)
■サルディスとビン・テペのリディア墳墓群
Sardis and the Lydian Tumuli of Bin Tepe
トルコ、文化遺産(iii)
■カルナックとモルビアン海岸の巨石群
Megaliths of Carnac and of the Shores of Morbihan
フランス、文化遺産(i)(iv)
■シュルガン=タシュ洞窟の岩絵群
Rock Paintings of Shulgan-Tash Cave
ロシア、文化遺産(iii)
■ファヤの先史景観
Faya Palaeolandscape
アラブ首長国連邦、文化遺産(iii)(iv)
※不登録勧告からの逆転
■ホッラマーバード渓谷の先史遺跡群
The Prehistoric Sites of the Khorramabad Valley
イラン、文化遺産(iii)
■インドのマラータの軍事景観群
Maratha Military Landscapes of India
インド、文化遺産(iv)(vi)
※登録延期勧告からの逆転
■盤亀川の岩刻画群
Petroglyphs along the Bangucheon Stream
韓国、文化遺産(i)(iii)
■カンボジアの記憶の場:弾圧の中心から平和と反省の地へ
Cambodian Memorial Sites: From centres of repression to places of peace and reflection
カンボジア、文化遺産(vi)
■古代クッタルの文化遺産遺跡群
Cultural Heritage Sites of Ancient Khuttal
タジキスタン、文化遺産(ii)(iii)
※情報照会勧告からの逆転
■西夏王陵群
Xixia Imperial Tombs
中国、文化遺産(ii)(iii)
■イェン・トゥー=ヴィン・ギエム=コン・ソン、キエップ・バックの建造物群・景観群複合地帯
Yen Tu-Vinh Nghiem-Con Son, Kiep Bac Complex of Monuments and Landscapes
ベトナム、文化遺産(iii)(vi)
※登録延期勧告からの逆転
■マレーシア森林研究所・セランゴール森林公園
Forest Research Institute Malaysia Forest Park Selangor
マレーシア、文化遺産(ii)(v)
※情報照会勧告からの逆転
■ムルジュガの文化的景観
Murujuga Cultural Landscape
オーストラリア、文化遺産(i)(iii)(v)
※情報照会勧告からの逆転
■17世紀ポート・ロイヤルの考古遺跡群
The Archaeological Ensemble of 17th Century Port Royal
ジャマイカ、文化遺産(iv)(vi)
■パナマの植民地時代の地峡横断路
The Colonial Transisthmian Route of Panamá
パナマ、文化遺産(ii)(iv)
■聖地を経てウィリクタに至るウィシャリカの道[タテウアリ・ウアフイエ]
Wixárika Route through Sacred Sites to Wirikuta (Tatehuarí Huajuyé)
メキシコ、文化遺産(iii)(vi)
■マンダラ山地のディ=ギド=ビィの文化的景観
Diy-Gid-Biy Cultural Landscape of the Mandara Mountains
カメルーン、文化遺産(iii)
■ムランジェ山の文化的景観
Mount Mulanje Cultural Landscape
マラウイ、文化遺産(iii)(vi)
※情報照会勧告からの逆転
<自然遺産4件>
■ムンス・クリント
Møns Klint
デンマーク、自然遺産(viii)
※情報照会勧告からの逆転
■カヴェルナス・ド・ペルアス国立公園
Cavernas do Peruaçu National Park
ブラジル、自然遺産(vii)(viii)
※情報照会勧告からの逆転
■ビジャゴ諸島-オマチ・ミンホの沿岸及び海洋生態系
Coastal and Marine Ecosystems of the Bijagós Archipelago – Omatí Minhô
ギニアビサウ、自然遺産(ix)(x)
■ゴラ=ティワイ複合地帯
Gola-Tiwai Complex
シエラレオネ、自然遺産(ix)(x)
<複合遺産1件>
■金剛山-海から立ち上がるダイヤモンド・マウンテン
Mount Kumgang – Diamond Mountain from the Sea
北朝鮮、文化遺産(iii)、自然遺産(vii)
<重大な変更2件>
■フォンニャ=ケバン国立公園及びヒン・ナム・ノ国立公園
Phong Nha-Ke Bang National Park and Hin Nam No National Park
ベトナム/ラオス共通、自然遺産(viii)(ix)(x)
※世界遺産「フォンニャ=ケバン国立公園(ベトナム、2003年、2015年、自然遺産(viii)(ix)(x))」のラオスのヒン・ナム・ノ国立公園への範囲拡大
■イシマンガリソ湿地公園=マプト国立公園
iSimangaliso Wetland Park – Maputo National Park
南アフリカ/モザンビーク共通、自然遺産(vii)(ix)(x)
※世界遺産「イシマンガリソ湿地公園(南アフリカ、1999年、自然遺産(vii)(ix)(x))」のモザンビークのマプト国立公園への範囲拡大
<危機遺産リスト登載0件>
なし。
<危機遺産リスト解除3件>
■アブ・メナ
Abu Mena
エジプト、1979年、文化遺産(iv)、2001年危機遺産リスト登録→2025年解除
■アツィナナナの雨林
Rainforests of the Atsinanana
マダガスカル、2007年、自然遺産(ix)(x)、2010年危機遺産リスト登録→2025年解除
■ガダーミスの旧市街
Old Town of Ghadamès
リビア、1986年、2023年、文化遺産(v)、2016年危機遺産リスト登録→2025年解除
なお、来年2026年の世界遺産候補地については下にリンクを張った「世界遺産NEWS 25/05/29:2026年の世界遺産候補地」を参照ください。
[関連記事&サイト]
47th session of the World Heritage Committee(UNESCO)
世界遺産NEWS 25/05/29:2026年の世界遺産候補地(来年の世界遺産候補地)
世界遺産NEWS 25/05/27:2025年の世界遺産候補地と勧告結果(事前の勧告結果)
世界遺産NEWS 24/07/28:速報! 2024年新登録の世界遺産!!(前年)
※いずれもさらに以前の関連記事へリンクあり