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世界遺産NEWS 20/10/24:グレートバリアリーフのサンゴが25年で半減

10月中旬、オーストラリアのARCサンゴ礁研究COEは世界遺産「グレートバリアリーフ」について、この25年でサンゴが半減したとの研究結果を発表しました。

その原因として地球規模の気候変動を挙げています。

 

Great Barrier Reef has lost half of its corals since 1995(BBC)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * *

ARCサンゴ礁研究COEはオーストラリアのクイーンズランド州に拠点を置く組織横断的な研究組織です。

研究対象のひとつが同州の沖合に約2,300kmにわたって伸びている世界遺産「グレートバリアリーフ」です。

 

グレートバリアリーフは「宇宙から見える世界遺産」と言われますが、その美しいリーフはサンゴ礁によるもので、生物の作り出した巨大な痕跡と言うこともできます。

世界遺産の資産面積は34,870,000haに及び、日本の国土面積37,790,000haの92.2%に及びます。

 

といっても、サンゴ礁というのはひとつの大きな生き物であるわけではありません。

サンゴはポリプと呼ばれる小さな刺胞動物で、イソギンチャクのように岩に固着して活動を行います。

個体でいるときは単細胞生物のように分裂して増えるのですが、数を増やして「群体」と呼ばれる集合体を作ると性質が変わります。

 

ポリプは共肉と呼ばれる有機物で周囲のポリプと結びつき、情報伝達を行ってまるでサンゴのひとつの個体(群体個体)のように活動を行います。

たとえばテーブルサンゴの場合は光を効率よく集めるために石灰質の骨格を作って平らに広がっていくのですが、このように組織的に行動するようになるわけです。

この骨格が積み重なってできた地形がサンゴ礁です。

そして夏の大潮の日、群体のポリプはいっせいに産卵を行います。

 

ポリプは体内に光合成を行う褐虫藻と呼ばれる藻類を共生させて栄養を得ています。

サンゴの色はこの褐虫藻の色に由来します。

 

褐虫藻は25~28度でもっとも活発に活動するのですが、30度を超えるとポリプはストレスを受けて褐虫藻を体内から排出してしまいます。

このためサンゴは白く変色し、褐虫藻が戻らなければやがて栄養不足で死んでしまいます。

これが白化現象です。

 

この白化現象は21世紀に入ってから世界中のサンゴ礁で頻繁に観察されるようになりました。

特に2015~16年の白化現象は史上最大規模のもので、世界の38%ものサンゴが白化したとする報告もあります。

グレートバリアリーフではこれまでに5回、1998年、2002年、2016年、2017年、そして今年2020年に大規模白化現象が起きていますが、特にひどかったのがやはり2016年で、浅瀬のサンゴの半数以上が死んだと言われています。

 

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さて、今回のニュースです。

 

ARCサンゴ礁研究COEは "Proceedingsof the Royal Society B" という科学ジャーナルで1995~2017年のグレートバリアリーフにおけるサンゴ・コロニーの健康度とサイズを調査してレポートしました。

それによると樹枝状あるいはテーブル状のサンゴを中心にすべてのサンゴの種類とサイズで個体数が50%以上減少したことが確認されたということです。

 

特に大きな影響を及ぼしたのが2016~17年の白化現象で、全体の2/3のサンゴが損傷し、いまだにそこから回復し切れていないとしています。

それどころか今年2020年も大規模白化現象が起きており、回復力も年々弱まっているそうです。

 

グレートバリアリーフはそのスケール・メリットから環境の変化に対して強いと考えられてきました。

一部のサンゴが破壊されても別のサンゴの活動によってカバーすることができるからです。

 

しかし、調査チームは近年の白化現象の原因を地球温暖化による海水温の上昇にあると考えており、世界最大のサンゴ礁システムでさえ危機的な状況にある現実を伝えています。

これまでは太平洋の赤道付近からペルー沖にかけての海面水温が高くなるエルニーニョ現象が白化現象の引き金とされていましたが、過去5回の大規模白化現象のうちエルニーニョ現象を伴ったのは1998年と2016年に限られています。

海水温は地球規模で平均的に高くなっており、白化現象はエルニーニョ現象を必要としなくなっているようです。

 

氷河とサンゴは地球環境のバロメーターと言われています。

地球の平均気温が4度上昇すると極地を除いたすべての氷河が消滅し、海水温が4度上昇するとグレートバリアリーフのサンゴが消滅すると考えられています。

 

2013年に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書によると、世界の平均気温は1880~2012年の間に0.85度上昇し、海面から水深75m層の平均水温も10年間で0.11度の割合で上がりつづけているとしています。

なんの対策もなされなかった場合、気温や海水温の上昇は加速し、平均気温は2100年までに4.3度、海水温も2度以上の上昇が予想されています。

 

調査チームのテリー・ヒューズ教授は、「私たちには時間がありません。温室効果ガスの排出量をできるだけ早期に削減しなければなりません」と述べています。

 

グレートバリアリーフなど海洋環境の変化については以下の過去記事でも紹介しています。

よろしければご参照ください。

 

 

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