世界遺産と世界史7.戦争の時代 ~メソポタミア

エルサレム
世界遺産「エルサレムの旧市街とその城壁群」の中心部。金色の建物がイスラム教の聖地「岩のドーム」、右の壁がユダヤ教の聖地「嘆きの壁」。すぐ後ろにはキリスト教の聖地である聖墳墓教会がある

青・黄・黒・緑・赤、5色の輪が結ばれたオリンピック・シンボル「五輪の紋章」。

人類は遅くとも1万年前までには輪が示すアジア、アフリカ、アメリカ、オセアニア、ヨーロッパの5大陸の隅々にまで到達した。

五輪の紋章
五輪の紋章

そして世界各地で「文化」を生み出し、住居を造り、石器を使い、埋葬を行い、火を利用し、命をつないだ。

世界中の森林・熱帯雨林に文化があった。

人類は長らくそれで十分だった。


そして。

人類の文化は乾燥地帯で飛躍する。

その理由は推測するしかない。

 

砂漠やステップはシルクロード※や中東を見てわかるようにいつの時代も隊商貿易が盛ん。

つまり、人と文化の移動や集積が容易だった。

砂漠の周囲のオアシスや大河に人が集まり、文化が多彩に交流した。

そして、大河の周りの貴重な緑を活かしてできるだけ効率的な生産を行った。

さらに、その希少な水源やオアシスを守るために広い領土と強い国家を必要とした。

※世界遺産「シルクロード:長安-天山回廊の交易路網(カザフスタン/キルギス/中国共通、2014年、文化遺産(ii)(iii)(v)(vi))」

  

あるいは乾燥地帯で大きな文化が見つかる理由は、そうした地域が遺跡として残りやすい石や土の文化であるうえに、森林や風雨の侵食を受けにくく、遺跡として発見されやすいという点も挙げられるだろう。

 

とにかく。

一部の人類が農耕・牧畜を発明。

採取・狩猟生活を中心とした獲得経済から生産経済へ移行。

徐々に定住生活に移り、道具は打製石器から磨製石器や土器へ、農業は略奪農業から灌漑農業へと発展し、食料生産が増し、人口も飛躍的に増えていく。

 

「文明」の誕生だ。

文明は、どうしてもそれを必要とした人々によって、長い時間をかけて生み出された。

逆に言えば、「文明を必要としなかった」人類の方が多かったとも言える。

実際世界でもっとも過酷な土地=砂漠に暮らす狩猟採取民サン人(ブッシュマン)でさえ1日の平均労働時間はわずか1~2時間。

ほとんど労働を必要とせず、その生活はとても豊かであることがわかっている。

 

まずはオリエントで生まれた大文明を見ていこう。

 

* * *

肥沃な三日月地帯
肥沃な三日月地帯

古代からギリシア時代まで(見方によっては大航海時代やルネサンス、産業革命まで)、世界最先端の文明はつねに日が昇る所=オリエントにあった。

ティグリス川、ユーフラテス川、中東の地中海沿岸部、エジプトのナイル川流域。

この3点をつなぐ「肥沃な三日月地帯」だ。

 

紀元前10000~前8000年、ティグリス川とユーフラテス川流域、いわゆるメソポタミアで農耕・牧畜がはじまる。

人工的に水を引く灌漑農業が発達すると、富の増大・集中によって多彩な文化が生まれ、人口が都市部に集中。

紀元前3000年頃にはウル※、ウルク※、エリドゥ※、ラガシュをはじめとするシュメール人の都市国家が誕生する。

※世界遺産「南イラクのアフワール:生物の避難所と古代メソポタミア都市景観の残影(イラク、2016年、複合遺産(iii)(v)(ix)(x))」

 

チョガ・ザンビール
世界遺産「チョガ・ザンビール」のジッグラト。紀元前1200年頃、エラム王国によって建てられたもので、日干しレンガを積み重ねて一辺105mの四角錘・五層のピラミッド構造をなしている
ピタ
中東のピタ、あるいはホブス。インドではチャパティと呼ばれる小麦のパン。古代オリエントでは大麦や小麦を栽培し、このようなパンにして主食としていた。ピタ、ホブス、チャパティは現在でも主食だ

 

農業の発達において、気候や天気の観測は欠かせぬ技術だ。

いつ雨が降り、川の水位が増し、洪水が起こるのか。

いつ種をまき、収穫し、どのように保存すればよいのか。

 

たとえば北回帰線以北では、太陽がもっとも高くなる頃(夏至)から暑くなり、もっとも低くなる頃(冬至)から寒くなる。

そして夏至の頃、おおいぬ座のシリウスが太陽と一緒に東の空に顔を出し、それと前後してナイル川が氾濫する。

こうして星々の動きと季節の関係を知る。

 

たとえば太陽をはじめ、すべての星々は毎日決まった方向でもっとも高くなり(南中、北中)、動かない星が近くにひとつ存在する(北極星)。

南中の方向を南、北中あるいは北極星の方向を北、南北の中間点のうち、星々が昇ってくる方向を東、暮れゆく方向を西と呼ぶ。

こうして星々の動きと方角の関係を知る。

 

動植物は季節に応じて生まれ、移動し、やがて死ぬ。

星々と動植物が、そして星々と人間が、深い関係にあることを学ぶ。

こうしていずれの文明でも天体観測技術が発達し、宗教と科学が結び付き、宗教遺跡は方角、つまり星々を強く意識して造られた。

 

たとえば古代エジプトでは王家の谷のような墓や死者を祀る葬祭殿はすべてナイル川西岸に造られた。

日が沈む方角=夜の世界=死の世界と考えられたからだが、インドにおいてヒンドゥー教の聖なる川・ガンジスの西岸も不浄の地と考えられているし、中央アメリカ・マヤ文明の冥界の神(死の神)も西に鎮座している。

日本の仏教の場合、西方に阿弥陀仏のいる極楽浄土があると考えられているが、「あの世」であることには変わりない。

人間の思考法に大きな差はないということの一例だ。

 

[関連記事]

世界遺産と建築 1.星と大地と古代遺跡

 

シュメール文化において、都市の中心に設置された神殿がジッグラトだ。

ジッグラトは宗教と政治の中心であり、豊穣繁栄の祈りであり、そしてまた科学技術の粋でもあった。

やがてジッグラトはピラミッドとなってエジプト文明に引き継がれるが、いずれも天体や方角を意識して造られている。

そして現存するもっとも保存状態がよいジッグラトが上のイランの世界遺産「チョガ・ザンビール(イラン、1979年、文化遺産(iii)(iv))」だ。

これ以外にもウルやシリアのマリなど十数基のジッグラトが発見されている。


* * * 

メソポタミアの栄枯盛衰


スサ
イランの世界遺産「スーサ」の遺跡。チョガ・ザンビールから40kmほどしか離れていない

ニネヴェ①、アッシュール②、アルベラ(エルビル)③、ディルムン④をはじめ都市国家はその後も次々と誕生するが、こうした都市の文明群をまとめてメソポタミア文明という。

そして文明の成立は、今日を生きるための縄張り争いの終了=戦争時代の幕開けをも意味した。

※①イラクの世界遺産暫定リスト記載

 ②世界遺産「アッシュール[カラット・シェルカット](イラク、2003年、文化遺産(iii)(iv))」

 ③世界遺産「エルビル城塞(イラク、2014年、文化遺産(iv))」

 ④世界遺産「カラット・アル-バーレーン-古代の港とディルムンの首都(バーレーン、2005年、2008年拡大、文化遺産(ii)(iii)(iv))」

 

紀元前2300年頃。

サルゴン1世が都市国家群をまとめてメソポタミア初の領域国家=アッカドを建国。

 

紀元前1800年頃。

ハンムラビ王がシュメールの都市国家を侵略してはじめてメソポタミアを統一。

バビロン①を首都とする古バビロニアが成立する。

スーサ②で発見されたハンムラビ法典の復讐法(目には目を、歯には歯を)はあまりに有名だ。

※①イラクの世界遺産暫定リスト記載

 ②世界遺産「スーサ(イラン、2015年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv))」

 

紀元前1700年頃。

小アジア(アナトリア高原)にヒッタイトが成立。

鉄器と戦車を駆使して古バビロニアを滅ぼし、エジプトにまで遠征。

首都はハットゥシャで、当時の遺跡は世界遺産「ハットゥシャ:ヒッタイトの首都(トルコ、1986年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)」から出土している。

また、カッパドキアはアッシリア、ヒッタイトの時代にアジアとヨーロッパをつなぐ要衝として繁栄した。

こちらは世界遺産「ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩窟群(トルコ、1985年、文化遺産(i)(iii)(v)、自然遺産(vii))」として登録されている。

アブ・シンベル大神殿に刻まれたカデシュの戦いの戦勝レリーフ
アブ・シンベル大神殿に刻まれたカデシュの戦いの戦勝レリーフ。戦車に乗っているのがラムセス2世

特にエジプトのラムセス2世と戦った「カデシュの戦い」は有名で、ハットゥシャのボアズカレ遺跡から出土した粘土板によると、戦いはヒッタイトの勝利に終わり、2国は世界初となる平和条約を締結したという。

ラムセス2世は勝利したものと国内に伝えていたらしく、カルナック神殿①やアブ・シンベル大神殿②の壁画に勝利のレリーフを刻んでいる。

※①世界遺産「古代都市テーベとその墓地遺跡(エジプト、1979年、文化遺産(i)(iii)(vi))」

 ②世界遺産「アブ・シンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群(エジプト、1979年、文化遺産(i)(iii)(vi))」


紀元前1200年頃。

謎の民族「海の民」が地中海沿岸部を席巻。

ヒッタイト、ミケーネ、エジプト新王国を滅ぼすと、この機に乗じて新たな民族・国家がオリエントに登場する。

 

[関連サイト]

古代都市テーベ/エジプト

アブシンベル/エジプト


* * *

ダマスカスのウマイヤド・モスク
世界遺産「古都ダマスカス」のウマイヤド・モスク。ダマスカスは1万年近い歴史を誇る古都。7世紀にウマイヤ朝の首都となり、705年にこの現存世界最古のモスクが建てられた
バールベック
高さ28mを誇るバールベックのバッカス神殿

まず、地中海の海洋貿易を支配したのがフェニキア人だ。

 

現在のレバノンにあたる場所で、シドン①、バールベック②、ティルス③、ビブロス④などを拠点とするフェニキア人が、レバノン杉でガレー船を造って地中海に進出。

その勢力は地中海全域に広がり、カルタゴ⑤、ケルクアン⑥、レプティス・マグナ⑦、サブラータ⑧、ティパサ⑨、スース⑩、イビサ⑪、エルチェ⑫をはじめとする植民市をあちらこちらに築いて支配を固めた。

 

彼らが使っていたフェニキア文字はアルファベットとなり、ヨーロッパ言語の基礎を築く。

1922年、ビブロス④を襲った地滑りでアヒラム王の石棺が出土し、フェニキア文字の碑文が発見されて大いに話題になった。

※①レバノンの世界遺産暫定リスト記載

 ②世界遺産「バールベック(レバノン、1984年、文化遺産(i)(iv))」

 ③世界遺産「ティルス(レバノン、1984年、文化遺産(iii)(vi))」

 ④世界遺産「ビブロス(レバノン、1984年、文化遺産(iii)(iv)(vi))」

 ⑤世界遺産「カルタゴ遺跡(チュニジア、1979年、文化遺産(ii)(iii)(vi))」

 ⑥世界遺産「ケルクアンの古代カルタゴの町とその墓地遺跡(チュニジア、1985年、1986年拡大、文化遺産 (iii))」

 ⑦世界遺産「レプティス・マグナの古代遺跡(リビア、1982年、文化遺産(i)(ii)(iii))」

 ⑧世界遺産「サブラータの古代遺跡(リビア、1982年、文化遺産 (iii))」

 ⑨世界遺産「ティパサ(アルジェリア、1982年、文化遺産(iii)(iv))」

 ⑩世界遺産「スース旧市街(チュニジア、1988年、文化遺産(iii)(iv)(v))」

 ⑪世界遺産「イビサ、生物多様性と文化(スペイン、 1999年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、自然遺産(ix)(x))」

 ⑫世界遺産「エルチェの椰子園(スペイン、2000年、文化遺産(ii)(v))」 

フェニキア都市ビブロス
フェニキア都市ビブロス。ビブロスはエジプトのパピルスのことで、ビブル=バイブル=聖書の語源。当時はパピルス草から作ったパピルスに文字を記録しており、そのパピルス草はビブロスからギリシアに輸出された

レバノン杉はこの時代の伐採で絶滅の危機さえあったらしい。

その様子はウルク王ギルガメシュの活躍を描いた『ギルガメシュ叙事詩』に描かれている。

森の神フンババを殺したあと森林を破壊して街を造るが、洪水によって都市は破壊されてしまう。

森林伐採が文明に滅亡をもたらすことを示唆しており、環境破壊に関する最古の記述と言われている。

文明は自然を組み替えることであり、文明誕生当初から環境破壊が問題になっていたことを示している。

現在でもレバノン杉はIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに記載されており、最大生息地は世界遺産「カディーシャ渓谷[聖なる谷]と神のスギの森[ホルシュ・アルツ・エル-ラーブ](レバノン、1998年、文化遺産(iii)(iv)」として保護されている。


一方、オリエントの内陸貿易を支配したのがアラムだ。

現在のシリアにあたる場所で、ハマ①やダマスカス②、アレッポ③を拠点としたアラム人は砂漠を結ぶ隊商貿易によってオリエント諸都市・諸国家を結び付けた。

そのためアラム語が共通語となり、フェニキア文字から派生したアラム文字は、ヘブライ文字やアラビア文字、ソグド文字、モンゴル文字など、現在に至るアジアの多数の文字の原語となった。

※①シリアの世界遺産暫定リスト記載

 ②世界遺産「古都ダマスカス(シリア、1979年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(vi))」

 ③世界遺産「古都アレッポ(シリア、1986年、文化遺産(iii)(iv))」

 

[関連サイト]

古都アレッポ

『旧約聖書』の「出エジプト記」を映画化したセシル・デミル監督『十戒』のワン・シーン。エジプトから逃れるヘブライ人たちだったが、ファラオの軍によって紅海に追い詰められてしまう。海を割る有名な伝説だ

シナイ山
神が降り立ったというシナイ山からの眺め

 

同じ頃。

エジプトの奴隷として働いていたヘブライ人たちは、預言者モーセに率いられたてエジプトを脱出。

紅海を真っ二つに割って海底を歩いてシナイ半島に渡り、シナイ山①で神から「十戒」を授かり、十戒を入れた契約の箱=聖櫃(せいひつ。アーク)を先頭に、神との契約の土地カナンを探し求める旅に出る。

『旧約聖書』の「出エジプト記」の記録だ。

 

そしてヘブライ王国を建て、第2代国王ダビデがエルサレム②③を征服して首都に定め、第3代ソロモン王がエルサレム神殿を建設する。

※①シナイ山には後に修道院が建築されて世界遺産「聖カトリーナ修道院地域(エジプト、2002年、文化遺産(i)(iii)(iv)(vi))」で登録

 ②世界遺産「エルサレムの旧市街とその城壁群(ヨルダン申請、1981年、文化遺産(ii)(iii)(vi))」

 ③エルサレム南部は古代からオリーブ栽培が盛んで、こちらは「パレスチナ:オリーブとワインの地-エルサレム南部バティールの文化的景観(パレスチナ、2014年、文化遺産(iv)(v))」に登録されている

 

『旧約聖書』に登場し、またヘブライ人たちが入植した街には世界遺産に登録されている「聖書時代の遺丘群-メギド、ハツォール、ベエル・シェバ(イスラエル、2005年、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi))」などがある。

特にメギドは数々の戦いで知られ、善と悪の最終戦争ハルマゲドンの舞台であるといわれる。

 

世界遺産「ベルリンのムゼウムスインゼル[博物館島]」ペルガモン博物館のイシュタル門
ベルリンのペルガモン博物館で再建されたネブカドネザル2世のイシュタル門・レプリカ。博物館は世界遺産「ベルリンのムゼウムスインゼル[博物館島](ドイツ、1999年、文化遺産(ii)(iv))」構成資産 (C) Rictor Norton

ソロモン王の死後、国は北のイスラエル王国と南のユダ王国に分裂。

前者はアッシリア、後者は新バビロニア(共に後述)によって滅亡する。

新バビロニアのネブカトザル2世はユダヤ人をバビロンに移住させるが(バビロン捕囚)、アケメネス朝によって国に帰ることを認められ、再びエルサレム神殿を再建する。


この頃確立したのが唯一神ヤハウェを掲げるユダヤ教だ。

救世主(メシア)の誕生を待望する信仰は、やがてイエスの誕生によってキリスト教を、ムハンマドの誕生によってイスラム教を派生させることになる。

エルサレム神殿は66~74年のユダヤ戦争の際、ローマ帝国によって徹底的に破壊されるが、その西壁が「嘆きの壁」だといわれている。

そしてエルサレムが落ちたあと、967人のヘブライ人が死海の畔の城塞、世界遺産「マサダ(イスラエル、2001年、文化遺産(iii)(iv)(vi))」に閉じこもるが、73年、女性と子ども7人を除く全員が自害した。

マサダはいまだにユダヤ人の心の故郷であり続けている。

 

[関連サイト]

聖カトリーナ修道院地域/エジプト

聖地エルサレム

 

 

* * *

ペルセポリス、アパダナの列柱
オリエントを統一したアケメネス朝の聖都=世界遺産「ペルセポリス」のアパダナ(謁見の間)の列柱。各地の王たちはこの上で「諸王の王」に謁見した
アッシリアとアケメネス朝の最大版図
アッシリアとアケメネス朝の最大版図

紀元前700年頃。

史上はじめて三日月地帯、つまりエジプトとメソポタミアのほぼ全域=オリエントをアッシリアが統一。

ヒッタイトから鉄器と戦車を受け継ぎ、騎馬戦術を駆使してこれまでにない大帝国を完成させるが、統制しきれず紀元前612年には崩壊してしまう。

アッシリア人の古代都市であり、帝国の最初の首都であるアッシュールは世界遺産「アッシュール[カラット・シェルカット](イラク、2003年、文化遺産(iii)(iv))」に、後年の首都であるニネヴェはイラクの世界遺産暫定リストに記載されている。

 

紀元前600年前後。

アッシリアが滅ぶと、現在のエジプトの地をエジプト、トルコの地をリディア、メソポタミアを新バビロニア、イラクからイラン・パキスタンにかけてをメディアが版図を広げる。

メディアは中央アジアから下がってきた遊牧民族で、馬の扱いに長けており、その下にペルシア人がいた。

 

パサルガダエ、キュロス2世の墓
世界遺産「パサルガダエ」にあるキュロス2世の墓

紀元前550年。

ペルシア人を率いたキュロス2世はメディアを滅ぼし、首都パルサカダエ①を造ってアケメネス朝ペルシアを建国。

続いてリディア、新バビロニアを滅ぼして巨大な帝国=ペルシア帝国を成立させる。

その息子カンビュセス2世はエジプトを滅ぼし、アッシリアに続いてオリエントを再統一。

最大版図を築いたダレイオス1世は首都スーサ②、聖都ペルセポリス③を造り、インダス川、つまり現在のインド西部からギリシア東部、エジプト、スーダンにまたがる大帝国を建設する。


ダレイオス1世は地方を統制するために全国をサトラピーという州に分けてサトラップと呼ばれる知事を置き、「王の道」と呼ばれる道路で全国をつなぎ、駅伝制によって情報を伝達させ、「王の目」「王の耳」という監察官を設置して地方を統制した。

そして各地の王はアケメネス朝の王を「諸王の王」と呼び、彼らをペルセポリスに巡礼させていた。

また、自らが王位に就いた理由や戦いの様子をビソトゥーン④のレリーフと碑文に残している。

※①世界遺産「パサルガダエ(イラン、2004年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv))」

 ②世界遺産「スーサ(イラン、2015年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv))」

 ③世界遺産「ペルセポリス(イラン、1979年、文化遺産(i)(iii)(vi))」

 ④世界遺産「ビソトゥーン(イラン、2006年、文化遺産 (ii)(iii))」

 

[関連サイト]

ペルセポリス/イラン

ペルセポリスのレリーフ
ペルセポリスのレリーフに彫られたアフラ・マズダ。3つの翼は良い考え・良い言葉・良い行動の3つの教えを示す

アケメネス朝で信仰された宗教がゾロアスター教だ。

知の神アフラ・マズダを最高神として善悪二元論を特徴とする宗教で、天国と地獄、善の神と悪の神による最後の戦いや神による裁き(最後の審判)などの終末論はのちのユダヤ教(つまりキリスト教やイスラム教にも)に大きな影響を与えたと見られる。

世界遺産「タフテ・スレマーン(イラン、2003年、文化遺産 (i)(ii)(iii)(iv)(vi))」はアケメネス朝以来のゾロアスター教聖地で、拝火壇アザル・ゴシュナスブで王による祭祀が執り行われた。

 

また、アケメネス朝時代には水をふんだんに使った美しい庭園が造られたが、これは砂漠地方にあって水が何より重視されたため。

水が溢れる天国を模しており、全体を四分割したチャハル・バーグ式(四分庭園)の庭園はやがてイスラム建築に取り入れられ、インドや北アフリカ、南ヨーロッパにまで広がっていく。

特に重要な9つの庭園は世界遺産「ペルシャ庭園(イラン、2011年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(vi))」に登録されている。

 

紀元前500年頃。

ギリシアの都市国家連合軍とアケメネス朝の間でペルシア戦争が勃発。

ダレイオス1世は部下に命じてギリシア半島を攻めるが、紀元前490年、マラトンの戦いで敗北。

続くクセルクセス1世はギリシア連合軍の1万に対して数十万と言われる大軍勢を自ら率いて再び攻め入るが、紀元前480年、テルモピレーの戦い、サラミス海戦で連敗。

紀元前479年のプラタイアの戦いに敗れると、ギリシア攻略をあきらめる。

 

紀元前330年。

ギリシア半島、マケドニアのアレクサンドロス大王が逆にアケメネス朝に攻め入ってこれを滅ぼすと、地中海からインドに至る史上空前の大帝国を成立させる。

 

なお、世界史でいう「○○朝」は「○○家の王国」といった意味になる。

アケメネス朝ペルシアはアケメネス家のペルシア王国、ササン朝ペルシアはササン家のペルシア王国だし、フランス王国はヴァロワ朝→ブルボン朝と移行したが、これは王家が変わったことを意味する。

中国の場合は王家が変わると国名が変わるし、日本は万世一系(同じ王家の継続)であるため原則的には○○朝という言い方はしないが、いずれも王家が分かれていた時代には「北朝」「南朝」ということもあった。

 

ペルシア戦争の話は「12.古代ギリシアの繁栄」、アレクサンドロスの東方遠征については「13.アレクサンドロスとヘレニズム時代」で解説する。

 

次回はオリエントのもうひとつの雄、エジプトの歴史を見てみよう。

 

 

[関連サイト]

古代都市テーベ/エジプト

アブシンベル/エジプト

古都アレッポ

聖地エルサレム

聖カトリーナ修道院地域/エジプト

ペルセポリス/イラン

 


セシル・デミル監督『十戒』より。シナイ山で神から十戒を刻んだ石板を授けられるモーセ


十戒を収めた聖櫃=アークを探し求める冒険活劇、『インディ・ジョーンズ レイダース 失われたアーク《聖櫃》』予告編。アークは現在も行方不明だが、世界遺産「アクスム(エチオピア、1980年、文化遺産(i)(iv))」のシオンのマリア教会、「エルサレムの旧市街とその城壁群(ヨルダン申請、1981年、文化遺産(ii)(iii)(vi))」や「バチカン市国(バチカン、1984年、文化遺産(i)(ii)(iv)(vi))」の地下に隠されたなどという伝説がある。アクスムについては「15.東南&東アジア、アフリカの古代文明」で解説する

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世界遺産カテゴリー "WORLD HERITAGE" にて新シリーズ「世界遺産写真館」を立ち上げました。

ぼくがこれまで撮影してきた写真を掲載していこうと思います。

 →世界遺産写真館

オフリド地域の自然遺産及び文化遺産
オフリド地域の自然遺産及び文化遺産
世界遺産「文化交差路サマルカンド」のグリ・アミール廟、イーワーン
フランス・ブルボン家のベルサイユ宮殿に対抗して、オーストリア・ハプスブルク家が贅と粋を尽くした世界遺産「シェーンブルン宮殿と庭園群」。クリックで外部記事へ。
イギリスの世界遺産「ロンドン塔」
イギリスでもっとも歴史のある石造城塞であり、多くの囚人を収容した監獄兼処刑場で、世界一有名な幽霊屋敷でもある「ロンドン塔」。クリックで外部記事へ

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 なぜ日本のGDPは低迷?

 なぜ今TPP等の地域協定なのか?

 なぜシンガポールは豊かなのか?

 なぜ米国は銃規制できないか?

 なぜハリウッドは強いのか?

 なぜ外国人が渋谷の交差点に?

 なぜイスラムは仏を狙うのか?

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 なぜ中華料理はおいしいのか?

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 なぜ台湾は独立できないのか?

 なぜアフリカはいつも戦争?

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 なぜブータンは幸せの国なのか?

 なぜ世界でパンデミックが拡大?

 なぜ世界に親日国が多いのか?

 なぜイスラムは遺跡を壊すか?

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 なぜ捕鯨は野蛮なのか?

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1.哲学とは何か?

2.「正しい-間違い」とは何か?

3.証明とは何か?

4.わかる・理解するとは何か?

5.力とは何か? 波とは何か?

6.物質とは何か?

7.見る・感じるとは何か?

8.空間とは何か?

9.時間とは何か?

 

<哲学的考察:ウソだ!>

.無と偶然

.ことだま-はじめに言葉ありき

10.物質とは何か?

11.神とは何か?-一神教と多神教

 

<世界遺産NEWS>

世界遺産のサンゴ礁、全滅危機

新登録のユネスコエコパーク

政治的対立が深まる世界の記憶

ゴミに覆われたヘンダーソン島

宗像・沖ノ島を巡る不安

 

<世界遺産ランキング集>

登録基準に見る世界遺産

世界の七不思議

国内集計の世界遺産ランキング

海外集計の世界遺産ランキング

世界遺産国別ランキング

 

<UNESCOリスト集>

日本の遺産リスト

無形文化遺産リスト

世界の記憶リスト

世界遺産リスト

ユネスコエコパーク・リスト

世界ジオパーク・リスト

創造都市リスト

 

<世界遺産の見方>

知性的鑑賞法

感性的鑑賞法

異文化理解の方法論

正しい・間違いの基準

星と大地と古代遺跡

 

<味わう世界遺産>

.王様のワイン トカイ

.命の水 テキーラ

.ポルトガルの宝石 ポート

.神の贈り物チョコレート

 

<世界遺産で学ぶ世界の歴史>

.宇宙と地球の誕生

.地球と火山活動

.大陸移動と世界の形成

.生命の誕生 先カンブリア時代

.生命の進化 古生代から新生代へ

.人類の夜明け

.戦争の時代 ~メソポタミア

.古代エジプトの繁栄

.インダス文明と古代インド

10.長江・黄河文明と古代中国

11.欧州巨石文化とエーゲ文明

12.古代ギリシアの繁栄

13.アレクサンドロスとヘレニズム

14.シルクロードとクシャーナ&漢

15.東南&東アジア,アフリカの古代

16.南北アメリカ大陸の古代文明

17.共和政ローマと帝政ローマ

18.ローマの平和、そして分裂へ

19.民族大移動と西欧の形成

20.東欧の形成とビザンツ帝国

21.東西教会の分裂と十字軍

22.イスラム教とペルシア・アラブ

23.イスラム帝国の分裂

24.イスラムの拡散-インド,アジア

25.アフリカの交易とイスラム教

26.隋・唐・宋の時代

27.北方騎馬民族とその周辺

28.モンゴル帝国の世界征服

29.オスマン,サファヴィー,ムガル

30.中世ヨーロッパの飛躍

31.修道院とロマネスク&ゴシック

32.イギリス・フランスと百年戦争

33.ハプスブルク家とレコンキスタ

34.大航海時代

35.ルネサンス

36.宗教改革

37.絶対王政とオランダの台頭

38.三十年戦争とイギリス革命

39.啓蒙思想とプロイセン、ロシア

40.明と清の繁栄

41.東・東南アジアの植民前史

42.産業革命とアメリカ独立革命

43.フランス革命とナポレオン

44.ウィーン体制と七月・二月革命

45.イタリアとドイツの成立

46.帝国主義と米英仏

47.アジアの衰退・植民地化

48.清、朝鮮、江戸の開国・滅亡

49.世界分割

50.第一次世界大戦

51.ファシズムと世界恐慌

52.第二次世界大戦

 

<世界遺産写真館>

1.文化交差路サマルカンド1

2.文化交差路サマルカンド2

3.アッパー・スヴァネティ

4.グラナダのアルハンブラ宮殿1

5.グラナダのアルハンブラ宮殿2

6.コトル

7.プレアヴィヒア寺院

8.福建の土楼1

9.福建の土楼2

10.フォンニャ-ケバン国立公園1

11.フォンニャ-ケバン国立公園2

12.カタルーニャ堂とサンパウ病院1

13.カタルーニャ堂とサンパウ病院2

14.オフリド地域1

15.オフリド地域2

16.古都京都の文化財1

17.古都京都の文化財2

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