世界遺産と世界史2.地球と火山活動

20世紀はじめのある日、ドイツの科学者アルフレッド・ウェグナーは地球の地図を見ていて閃いた。

「アフリカと南アメリカ大陸ってくっついてたんじゃね?」

そして『大陸と海洋の起源』を著して大陸が移動しているという仮説=大陸移動説を打ち出した。

多くの学者は「まさか」と思ったが、そう考えると解決する問題もたくさんあった。

 

たとえばアフリカと南アメリカ大陸の地層がそっくり。

たとえば熱帯で氷河の痕跡が発見されたり、極地や高山で熱帯生物の化石が発掘される。

たとえばダチョウ目の生物、アフリカのダチョウ、南米のレア、オーストラリアのエミュー、ニュージーランドのキーウィなどの「飛べない鳥」は南半球にしかいない。


大陸移動について、現代では地球表面が固い岩盤=プレートで覆われていて、その岩盤は下に広がるマントルの流れに沿って移動すると説明されている(プレートテクトニクス理論)。

そしてまた、固まった冷たい岩盤はやがてマントルに沈み込み、逆にマントルからは熱いマグマが吹き出して新しい陸地を形成すると考えられている(プルームテクトニクス理論)。

 

イメージとしては下記の動画を参照してほしい。

地表面のプレートの動きがプレートテクトニクス理論、地球内部の対流の様子がプルームテクトニクス理論によるものだ。

なお、地球はだいたい内核-外核-マントル-地殻からできており、このうち外核が液体で他は固体だ。

固体ではあるが対流が起き、上層と下層が入れ替わっている。

イタリアの世界遺産「エオリア諸島」
シチリア島の北に浮かぶ「エオリア諸島(イタリア、2000年、自然遺産(viii))」。火山島が連なっており、周期的に噴火するストロンボリ式で知られるストロンボリ島や、不定期に大噴火を起こすブルカノ式で知られるブルカノ島などがある

地球のダイナミックな活動は、地球内部のマグマの動きによるところが大きい。

そういうことのようだ。

これを端的に示す例がアメリカのハワイ諸島だ。

 

あの辺りにマントルからマグマが吹き出す「ホットスポット」がある。

海底火山が爆発すると、溶岩が固まって島ができる。

島は太平洋プレートに乗って北西、つまり日本の方向に移動する。

そしてまたマグマが吹き出し、海の中に島ができあがる。

こうして生まれた島の連なりがハワイ諸島だ。


ミッドウェー島は約2,000万年前、ハワイ島は約50万年前に誕生した。

現在もホットスポットは激しい活動を続けている。

キラウエア火山やマウナ・ロア山といった活火山がその一例だ。

 

特にマウナ・ロア山は島にありながら4,169mもの標高を持ち、海の下にある部分を含めると1万mを超えて世界最大の活火山となる。

こうした地質学的な希少性から、キラウエアやマウナ・ロアの山域は「ハワイ火山国立公園(アメリカ、1987年、自然遺産(viii))」として世界遺産登録されている。

火の神ペレを祀るキラウエアのハレマウマウ火口
火の神ペレを祀るハワイ島、キラウエア火山のハレマウマウ火口。火山は世界各地で神聖視されている。世界遺産「ハワイ火山国立公園」構成資産

このように、ハワイ諸島は大陸とはいっさい関係を持たない孤独な島々だ。

そのため独自の進化を遂げた多彩な生物が棲んでいる。

 

ハワイ諸島のミッドウェー環礁群「パパハナウモクアケア(アメリカ、2010年、複合遺産(iii)(vi)(viii)(ix)(x))」は、地質学的価値と豊かな生態系が認められて2010年に世界遺産に登録された。

この地域はハワイの先住民に「魂が生まれ帰る場所」と信じられており、貴重な遺構も多いことから文化遺産としての価値も認められ、複合遺産となっている。

さて、ここで自然遺産の登録基準を確認しておこう。

世界自然遺産になるためには必ず以下の登録基準の少なくともひとつを満たさなければならない。

 

■自然遺産の登録基準((i)~(vi)は文化遺産の登録基準)

  • (vii) 類まれな自然の美や美的要素を有した自然現象、または地域を含むもの
  • (viii) 生命の記録、進行中の地形発達の重要な地質学的過程、または重要な地形学的・自然地理学的特徴を含む、地球の歴史の主要な段階を示す顕著な例であるもの
  • (ix) 陸上・淡水・沿岸・海洋生態系・動植物群集の進化や発展において、進行中の重要な生態学的・生物学的過程を示す顕著な例であるもの
  • (x) 生物の多様性保全の観点から、重要な自然の生息・生育地があるもの。学術上・保全上の観点から、顕著な普遍的価値を有し、絶滅の恐れがある種を含むもの

 

簡単に言えば、(vii)は美しさ、(viii)は重要な地形、(ix)は進化の例、(x)は貴重な生態系、をフィーチャーしている。

先ほどクローズアップした「ハワイ火山国立公園」も「パパハナウモクアケア」も(viii)を満たしているということは、世界的な視点から見てきわめて「重要な地形」であるということを意味する。

加えて「パパハナウモクアケア」は(ix)(x)、つまり進化史的に重要で、ここだけというような貴重な生態系を持つということ。

もちろん「ハワイ火山国立公園」にもそのような要素はあるのだが、世界的なレベルではないということだ。

シングヴェトリル
ユーラシアプレートと北アメリカプレートが引き裂きあい、マグマが吹き上げてできた大西洋中央海嶺にあるのがアイスランドだ。「シングヴェトリル国立公園(アイスランド、2004年、文化遺産(iii)(vi))」ではギャオと呼ばれる大地の裂け目が見られる
ラノ・カウ
イースター島の火口湖ラノ・カウ。モアイを作った人々はこの辺りを聖地と考えており、祭祀跡や神々のレリーフが残されている

同じように火山によって誕生し、独特な地形と他にない貴重な生態系によって登録された世界遺産は数多い。

 

一例が「ガラパゴス諸島(エクアドル、1978年、2001年拡大、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))」だ。

この諸島の下にもやはりホットスポットがあり、1,000万年前からいまにいたるまで100以上の島を造り上げてきた。

南アメリカ大陸から1,000km近くも離れた場所にあるため、大陸と異なる多くの固有種を見ることができる。

チャールズ・ダーウィンがビーグル号でこの諸島を訪れ、同じ種類のフィンチやゾウガメ、イグアナなのに、島の環境に応じてその姿形が違うところから進化論を着想したことでも有名だ。

 

絶海の孤島に独特の文化が誕生したもっとも有名な例がイースター島の「ラパ・ヌイ国立公園(チリ、1995年、文化遺産(i)(iii)(v))」だろう。

もっとも近い島まで400km以上、もっとも近い大陸(南アメリカ大陸)となると4,000km近く先という文字通りの孤島。

海底火山の噴火によって造られ、その名残はふたつの火山とラノ・カウと呼ばれる巨大な噴火口に見ることができる。

こんな場所に最大で高さ20m、重さ200t、900体を超えるモアイが打ち捨てられていたことから歴史ミステリーとなった。

 

[関連サイト]

イースター島 ラパ・ヌイ国立公園/チリ

トンガリロ国立公園
「トンガリロ国立公園(ニュージーランド、1990年、1993年拡大、文化遺産(vi)、自然遺産(vii)(ix))」のエメラルド・レイクも火山が造り上げた絶景だ

おもしろいところでは「スルツエイ(アイスランド、2008年、自然遺産(ix))」がある。

この島ができたのは1964年で、陸地ができてからおよそ50年しか経っていない。

科学者による調査以外に上陸は認められておらず、島にどのように生物が根付くのか、注意深く観測が続けられている。

 

貴重な生態系を守るために観光客に開放されていない火山島としては、映画『ジェラシック・パーク』のモデルとなった「ココ島国立公園(コスタリカ、1997年、2002年拡大、自然遺産(ix)(x))」が挙げられる。

サメやマンタをはじめとする大型回遊魚の宝庫として知られるが、観光客の上陸は禁止。

制限された場所・人数でのダイビングのみ認められている。

 

 * * *


当然ながら、マグマの活動、つまり火山活動は大陸内部でも起きている。

最たるものが「カムチャツカ火山群(ロシア、1996年、2001年拡大、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))」だ。
カムチャツカ半島はユーラシア大陸にかろうじてつながっている半島で、内部には300以上の火山があって「火山の博物館」の異名を持つ。

高さ4,887mを誇る最高峰クリュチェフスカヤ山をはじめ、火山によって形成された3,000mを超える山々によって大陸から隔絶されている環境から固有種も多く、貴重な生態系を有している。

 

キリマンジャロ
温暖化により消滅が危惧されているキリマンジャロの氷河

標高5,895mのアフリカ最高峰と、5,199mの第二峰、「キリマンジャロ国立公園(タンザニア、1987年、自然遺産(vii))」と「ケニア山国立公園/自然林(ケニア、1997年、2013年拡大、自然遺産(vii)(ix))」もやはり火山によってできた山々だ。

両峰ともほぼ赤道直下にありながら氷河を持ち、特にキリマンジャロの輝く山頂は「ヌガイエ・ヌガイ=神の家」と呼ばれて神聖視された。

熱帯~寒帯までの生態系が垂直に分布するということで、生物圏としても重要視されている。

 

なお、アフリカ第三峰のスタンリー山は「ルウェンゾリ山地国立公園(ウガンダ、1994年、自然遺産(vii)(x))」、第四峰ラスタジャン山は「シミエン国立公園、エチオピア、1978年、自然遺産(vii)(x))」として世界遺産リストに登録されている。

 

変わったところではキリマンジャロの約200km西にある「ンゴロンゴロ保全地域(タンザニア、1978年、2010年拡大、複合遺産(iv)(vii)(viii)(ix)(x))」がある。

200万年前の火山噴火でできた直径約16~20kmのクレーターで、高さ約600mの壁に取り囲まれているために、内部の動物はほとんどがその中で生涯を終える。

古くからマサイ族の暮らす地であるために国立公園ではないのだが、オルドバイ渓谷やライトリ遺跡から発見された猿人や原人の化石や石器から文化的価値も認められて複合遺産となっている。

 

イエローストーン
イエローストーンの間欠泉。地下の熱水が圧力で吹き上げている

火山活動が作った土地の極めつけが「イエローストーン国立公園(アメリカ、1978年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))」だ。

約200万年前、130万年前、60万年前に起こった超巨大爆発によってできた土地で、氷河時代に氷河の侵食を受けてイエローストーン大渓谷をはじめとしたダイナミックな景観を生み出した。

地下のマグマの活動はいまだ活発で、間欠泉や温泉等の熱水現象については世界の半数が集中すると言われる。

将来的には再噴火すると考えられているが、もし噴火した場合、園内すべてを吹き飛ばし、地球環境を大幅に変えるほどのダメージを与えると見積もられている。

イエローストーンは世界初の国立公園であると同時に、1978年に登録された世界初の世界遺産12件のひとつでもある。

 

 * * *

 

太陽と火山が地球に熱をもたらし、生命を育んでいる。

だから火山を含む世界遺産はとても多い。

火山が関係する島の世界遺産だけでもこれだけある。

※日本列島やニュージーランドの北島・南島、マダガスカル島、ボルネオ島、グリーンランド島のような大きな島は入れていない

■火山が関係する海洋島の世界遺産の例

  • ガラパゴス諸島(エクアドル、1978年、2001年拡大、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
  • セント・キルダ(イギリス、1986年、2004・2005年拡大、文化遺産(iii)(v)、自然遺産(vii)(ix)(x))
  • ガラホナイ国立公園(スペイン、1986年、自然遺産(vii)(ix))
  • ハワイ火山国立公園(アメリカ、1987年、自然遺産(viii))
  • ゴフ島及びインアクセシブル島(イギリス、1995年、2004年拡大、自然遺産(vii)(x))
  • ハード島とマクドナルド諸島(オーストラリア、1997年、自然遺産(viii)(ix))
  • モーン・トロワ・ピトンズ国立公園(ドミニカ国、1997年、自然遺産(viii)(x))
  • ココ島国立公園(コスタリカ、1997年、2002年拡大、自然遺産(ix)(x))
  • ハード島とマクドナルド諸島(オーストラリア、1997年、自然遺産(viii)(ix))
  • 東レンネル(ソロモン諸島、1998年、自然遺産(ix))
  • マデイラ諸島のラウリシルヴァ(ポルトガル、1999年、自然遺産(ix)(x))
  • エオリア諸島(イタリア、2000年、自然遺産(viii))
  • ピトンズ・マネジメント・エリア(セントルシア、2004年、自然遺産(vii)(viii))
  • マルペロの動植物保護区(コロンビア、2006年、自然遺産(vii)(ix))
  • 済州火山島と溶岩洞窟群窟群(韓国、2007年、自然遺産(vii)(viii))
  • スルツエイ島(アイスランド、2008年、自然遺産(ix))
  • レユニオン島の火山峰、圏谷と岩壁群(フランス、2010年、自然遺産(vii)(x))
  • パパハナウモクアケア(アメリカ、2010年、文化遺産(iii)(vi)、自然遺産(viii)(ix)(x))

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