私的旅行術2:治安のいい場所・悪い場所

新しく訪れた場所の治安状況はどう判断すればいいのか?


先日訪れたマニラではさんざん脅された。

日本人が拉致られたとか誘拐されたとか殺されたとか。

外務書から注意が喚起されているし、2012年度版「世界の平和な国ランキング」では133位。

具体的に事件を調べていくとどんどん怖くなる。

しかし。

行ってみての感想は「治安はいい」だ。

マニラを除くルソン島に関しては、「治安はきわめていい」と感じた。

 

ぼくは治安を若い女性で判断する。

若い女性と同じ行動をとればたいてい大丈夫。

 

ぼくがこれまででもっとも危険だと感じたのはケニアのナイロビだが、昼間でもほとんど老人・子供、そして女性が見られなかった。

こういう街は見ただけで一発でヤバイとわかる。

家々の玄関には強力な鉄格子。

商店で物を買うにも店主と鉄格子越しにやりとりをしなければならない。

 

このような街を歩く場合、貴重品はもちろんホテル。

相手が満足するだけの見せ金は持って、身ぐるみ剥がされても構わない格好で外に出る。


ペルーのリマなどはこれよりずいぶんマイルドだが、ダウンタウンを外れると空気はかなり厳しかった。

本当にヤバそうな場所ではやはり女性をほとんど見かけなかったし、見かけるにしてもスカートなんて履いていない。

持っているのはビニール袋程度。

バッグを持っている人は身体の前に抱えている。

こういう場所では自分もバッグを持って出歩いたり後ろに背負ったりしてはいけない。

 

マニラは台北を経由したのだが、台北ではあえて下町っぽい通りを迷い歩いて人々の生活を覗いてみた。

そこで気づいたのは、古いビルの窓は1階はもちろん5~6階でも鉄格子があること。

一方新しいビルはガラス張り。

これは古いビルができた頃、治安がよくなかったことを示している。

高層階を狙う夜盗も多かったのだろう。

 

そしてマニラ。

ぼくがいたのはエルミタ・マラテ地区だが、若い女性が非常に多い。

スカートを履いている子もたくさんいるし、バッグも背にしょっている。

道路沿いにむき出しに設置されているATMから夜中でも普通に現金を下ろしている。

泥棒や強盗はそれほど多くはないということだ。

 

ただし、金融機関や大きな店舗のエントランスにはショットガンのような大型の銃を持ったガードマンが必ずいる。

場当たり的な泥棒は少ないが、組織的な犯罪が起こっているということだろう。

実際日本人が巻き込まれる犯罪はマフィア等が絡むものが多いのだという。

だとしたら街中で犯罪に遭遇する確率はきわめて低い。

日本で深刻な交通事故に遭う確率の方が高いだろう。

 

そもそも。

治安がいいとか悪いとかの判断はどうなされるのか?

先の「世界の平和な国ランキング」の場合、参考にしているのは殺人事件や暴力犯罪の数・受刑者数・戦争や内戦の有無・軍事費・軍人数・難民数・政治情勢・隣接国との関係・テロ活動の潜在的可能性・兵器の輸出入量・武器の入手しやすさ・国連介入度等だという。

フィリピンの数値の悪さはマフィアの抗争やミンダナオ島の反政府勢力等の反映だろう。

 

たとえばコロンビア。

特に首都ボゴダは数年前まで世界でもっとも殺人事件の多い都市だった。

治安はきわめて悪いはずだったが、ぼくはボゴダでそれほど恐怖を感じなかった。

実際、2001年に日本人副社長拉致事件が起こって殺害されるまで日本人が殺される例はなかったし、日本人旅行者はいまだに殺されていないのではないか。

 

実は、独裁政権やマフィアなどが幅をきかせている場所は外国人にとって安全だったりする。

中東がその典型だが、外国人に対する犯罪がきわめて厳しく罰せられるために、旅行者は秘密警察などによって知らぬ間に手厚く保護されているからだ。

コロンビアも似たようなもの。

外国人に手を出すと政府は外圧によって本気で弾圧しなくてはならなくなるために、非政府組織もマフィアも手を出しづらいのだ。

だから手を出すときは誘拐のようにハッキリ目的が決まっているテロ的行為になる。


一方、ナイロビやハラレ、リロングウェ、ヨハネスブルクなどのアフリカの諸都市の場合、絶対的な政権やマフィアもなく、ダウンタウンとスラムが隣接しているということもあって、治安はきわめて悪い。

スラムとは都市の周辺部に広がる貧民街を意味するが、実際そこにどのような人間が何人いるのか誰も知らない。

住民票があるわけでもなく、政府は衛星写真で人口を概算している。

 

そんな地域に生きる人々は地方から仕事を求めて都市に集まり、それなのに仕事にありつけていない。

「死んだらお仕舞い。死ぬくらいならなんでもやる」「勝てば官軍」「罰せられなければ何をやってもいい」的な資本主義思想の極論に染まり、お金やお金持ち・先進国に対する恨み・妬みに満ちている。

これはマドリードやナポリなど先進国の都市も変わらない。

治安が悪くなって当然だ。

 

これに対して田舎は世界中のどこへ行ってもきわめて安全。

一般的に、田舎へ行けば行くほど治安はいい。

電気もガスも水道もなく、貨幣経済に染まっていない社会はその典型。

「いまここで殺されても誰も調べに来ないだろうな」というような田舎に何度か行ったことがあるが、物を盗まれる警戒すら不要だった。

人はもともと人を攻撃することを好まない。

そういうことだ。

 

治安といえば、中国で「日本は怖い」と言われたことがある。

「犯罪の意図がわからない」というのがその理由だ。

 

途上国や中進国において、犯罪には必ず理由があり、目的がある。

お金がほしい、薬がほしい、娘を傷つけたあいつが憎い等々、その目的を果たすために犯罪に手を染める。

犯罪者のロジックには同情せざるをえないストーリーがあるものだ。

 

しかし日本(先進国)は違うと彼は言う。

西鉄バスジャック事件、光市母子殺害事件、秋葉原通り魔事件……直接的な目的が、彼には感じられないのだそうだ。

  

日本が怖いという彼のロジックにも、たしかに一理ある。

でも、もちろんそれら先進国の犯罪者にもそれを正当化するロジックがある。

 

人は真に悪を実行することはできない。

自分が本当に悪だと思うことは発想しえない。

価値があるから行動するのであって、犯罪の背景には必ずそれを正当化するロジックがある。

「これは悪だ」と思っていたとしても、それは「悪と評価されている」という認識にすぎない。

悪とは、行動できない・しえない・する意味がないから悪なのだ。

 

どう考えたらそのロジックが通るのか?

相手の論理の内部に入ってその論理体系を理解すること。

他文化理解の基本だ。

 

治安が悪くなる背景にどんなロジックが潜んでいるのか?

ぼくはそれにとても興味がある。

 

 * * *

 

治安ひとつでずいぶんその街や人々の姿が見えてくる。

少なくとも、同じロジックで統一された近代的な街並みなどよりはよほど人間の本質を見せてくれる。

だからぼくは治安の悪い街というのも好きだったりする。


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