私的旅行術1:旅と旅行

古代ギリシア時代。

キネスはスパイ、目的を持ってアテネに来た。

どこへ行くにも、たとえば国会や図書館へ行くのも目的がある。

人々との会話にも目的があり、休みにすら目的があった。

 

一方、エネルは無目的、気まぐれにアテネに来た。

国会や図書館へ行くのも、ただ目について楽しそうだったから。

出会った人々と1日中話していることもあった。

(参考:古東哲明『現代思想としてのギリシア哲学』講談社)

 

キネスのような移動を「旅行:tour」という。

スポーツ、遺跡探索、自然観察、リラックス……

旅行には常に目的がある。

 

エネルのようなスタイルを「旅:travel」という。

目的はいっさいなく、ただそのときの状況や気持ちに純粋に生きるスタイルをいう。

 

旅と旅行の違い。

tourとtravelの違い。

 

 * * *

 

先日インドネシアのバリ島に行ってきた。

とてもとても楽しかった。

「ツアー旅行」というのを経験してみたかったこともあって、今回、はじめてツアーに参加した。

ツアーは完璧だった。

 

空港に着く。

H.I.S.の人間がH.I.S.の文字が入ったシャツを着て自分を待っている。

ここからクーラー付きの車でホテルまで送迎。

 

わからないこと、たとえば円は使えるのか、物価はどうか、英語は通じるのか、「ありがとう」は現地語でなんていうのか。

こういうことを全部現地ガイドが日本語で教えてくれる。

ホテルでウェルカム・ドリンクを飲み、チェック・インもしてもらって、クーラーの効いた部屋でひと休み。

翌日以降の予定を聞かれ、ツアーに参加したい人は前日夜23:00までに電話すればオプショナル・ツアーに参加できるのだという。

翌日以降は時間になったらホテルのロビーに行けば、自動的にバリ島を全部案内してくれる。

「達人ツアー」に参加したから、あっという間に自分もバリ島の達人だ。

すごいぞ、ツアー。

 

そして、このツアーを100%楽しんでいるサラリーマン一家に出会った。

レストランでのブレック・ファーストは現地料理+西洋モーニング+中華の超豪華版。

ビュッフェ(バイキング)・スタイルで食べたいだけ食べられる。

一家の子供たちはおおはしゃぎ。

全種類制覇しようとお皿は山盛りだ。

それを見ているお父さんやお母さんも満面の笑み。

なんて幸せそうなんだろうか。

シャトル・バスの中では、日本とはここが違う、あそこが違う、日本料理屋があったとか、家族で討論が盛り上がりに盛り上がっている。

 

これと同じ笑顔に屋台で出会った。

ぼくとその家族が滞在していたのはバリ島のサヌール地区ではもっとも豪華なホテルだったと思う。

でもホテルが接している大きなストリートを横切ってさらに1本道を入ると、現地人向けの屋台やら商店やらが軒を連ねている。

こんな街歩きが大好きで、屋台に入って食事をしてみた。

 

ナシゴレンを注文すると値段は100円に満たない。

観光客向けのレストランでは同じナシゴレンが数百~数千円もする。

これがおいしかった。

親指を立てて「Good!」と言うと、屋台のおっちゃんは満面の笑みで「ありがと」。

 

おっちゃんは、なぜ日本人がこんなところにいるかなんてことに興味はない。

自分がいくら稼いでいてこの日本人がいくら稼いでいるかなんてことにも興味はない。

それは日本人の一家も同じこと。

ただ、うまいものがうまいということに興味がある。

ただ、うまいものを出すと客が喜ぶってことに興味がある。


 * * *

 

キネスの旅行とエネルの旅。

エネルはきっと目的をも楽しめる。

きっとスパイになったらスパイ活動すら楽しんでしまうことだろう。

 

逆に、キネスにはエネルが理解できない。

自由に旅しようと思っても、勝手に意味と目的を作り出してそれに縛られて生きるようになる。


屋台のおっちゃんたちと話をしていると、彼らがとても自由であることを実感する。

それは「選択肢が多い」ということを意味しない。

「自立している」とか「こだわりがない」といった感じ。

 

それはサラリーマン一家も同じこと。

屋台のおっちゃん同様、自分の境遇にいささかの迷いもない。

ふたりとも旅人だ。

 

厳密に言えば「旅」などというものは存在しない。

こだわりがない故に定義もなく、ただ「自由である」というスタイルしか残らない。

だから人はこのスタイルに「ロック」とか「ラテン」とか「快楽主義」とかいろんな言葉を結びつける。

そしてしばしば、結びつけることにこだわる結果、その意味を失うことになる。

 

実は「自由」の定義などというものも同様に存在しない。

定義した瞬間に自由は必然になってしまうから。

 

  月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。

  舟の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老いを迎ふる者は、

  日々旅にして旅を栖(すみか)とす。

                 (松尾芭蕉『奥の細道』)

 

 * * *

 

というわけで、バリ旅行、とても楽しかった。

きっとグァムもプーケットもニューカレドニアも同じように楽しいのだろう。

それどころか、街の屋台のあの感じ。

世界中に街や屋台はあるわけだから、世界のどこに行ってもおもしろいのだろう。

 

「楽しい」というのは行く場所で決まるものじゃあない。

だってあの一家はどこへ行っても楽しいだろうし、あのおっちゃんはどこへも行かなくたって楽しいのだろうから。

 

「幸せ」というのもきっと、いる場所や状況・境遇で決まるものではない。

そんな気がする。


News

世界遺産カテゴリー "WORLD HERITAGE" にて新シリーズ「世界遺産写真館」を立ち上げました。

ぼくがこれまで撮影してきた写真を掲載していこうと思います。

 →世界遺産写真館

オフリド地域の自然遺産及び文化遺産
オフリド地域の自然遺産及び文化遺産
世界遺産「文化交差路サマルカンド」のグリ・アミール廟、イーワーン
フランス・ブルボン家のベルサイユ宮殿に対抗して、オーストリア・ハプスブルク家が贅と粋を尽くした世界遺産「シェーンブルン宮殿と庭園群」。クリックで外部記事へ。
イギリスの世界遺産「ロンドン塔」
イギリスでもっとも歴史のある石造城塞であり、多くの囚人を収容した監獄兼処刑場で、世界一有名な幽霊屋敷でもある「ロンドン塔」。クリックで外部記事へ

Topics

・Facebook, twitterです

 ART+LOGIC=TRAVEL Facebook

 dai hasegawa twitter

・All About 世界遺産 新記事

 シェーンブルン宮殿

 世界一の幽霊屋敷 ロンドン塔

 青の都サマルカンド

 学生が訪れたい世界の絶景

 2017年おすすめの世界遺産

 日本の世界遺産名所12選

Bizコンパス 世界の名言

 リンカーン 人民の人民による

 チャップリン 勇気・想像力・金

 本田宗一郎「挑戦した失敗」

 岡本太郎「毒を持て」

 ディズニー「未完成」

 ジョブズ「愚かであれ」

 ナポレオン「不可能はない」

 高杉晋作「おもしろき世」

 エジソン「1%の才能99%の汗」

・Bizコンパス 国際情勢連載

 なぜLCCが世界を席巻?

 なぜ日本のGDPは低迷?

 なぜ今TPP等の地域協定なのか?

 なぜシンガポールは豊かなのか?

 なぜ米国は銃規制できないか?

 なぜハリウッドは強いのか?

 なぜ外国人が渋谷の交差点に?

 なぜイスラムは仏を狙うのか?

 なぜスイスは永世中立なのか?

 なぜ中華料理はおいしいのか?

 なぜ難民が増えているのか?

 なぜ五輪は4年に1度の開催か?

 なぜイランは核開発するのか?

 なぜ台湾は独立できないのか?

 なぜアフリカはいつも戦争?

 なぜシーア派とスンニ派がある?

 なぜブータンは幸せの国なのか?

 なぜ世界でパンデミックが拡大?

 なぜ世界に親日国が多いのか?

 なぜイスラムは遺跡を壊すか?

 なぜ米国とキューバが接近?

 なぜ訪日外国人が増えたのか?

 なぜギリシャ危機が問題か?

 なぜウクライナで米露が対立?

 なぜ世界中に中華街があるのか?

 なぜ柔道はJUDOに勝てないか?

 なぜ捕鯨は野蛮なのか?

 なぜイスラムは西洋と戦うのか?

 なぜ日本料理は世界で人気か?

 なぜ中南米はミスコンに強いか?

 なぜ中国で民主化・独立運動か?

 なぜ英・西で独立運動なのか?

・Bizコンパス 世界遺産連載

 世界遺産の夜明けを導く2遺跡

 人類の歴史に挑戦する負の遺産

 危機遺産リストと世界遺産

 世界遺産が世界遺産でなくなる日

 キング・オブ・世界遺産

 自然遺産を守る意味 

 聖地が示す世界遺産の限界

 世界遺産と平和への挑戦

 世界遺産登録と今後の日本の遺産

 なぜ世界遺産は欧州に多いのか

 産業遺産と新しい世界遺産

 自宅で楽しむ世界遺産 ワイン編

 W杯! ブラジルの歴史と世界遺産

 なぜ伊勢神宮は世界遺産でない?

 一度の旅行でたくさんの世界遺産

 夏休みに訪れたい海の世界遺産

 世界遺産はじめて行くならここ!

 最新の世界遺産を訪ねよう!

 世界遺産で野生動物と触れ合う

 パワースポットの「聖なる山」

 立入禁止! 非開放の世界遺産

 神々が降り立つ聖地の世界遺産

 絶景と人工美が融合した鉄道

 愛と美を称える世界遺産

・その他

『朝日新聞 世界の扉』記事執筆。『地球の歩き方 MOOK 世界のビーチBEST100』『ノジュール』に旅のスペシャリスト・達人として参加。『PEN』でアフリカの世界遺産執筆。『MONOQLO』世界遺産特集取材協力。『女性セブン』で日本の世界遺産を解説。エクスナレッジ『聖地建築巡礼 世界遺産から現代建築まで、73の聖地を巡る旅』、洋泉社ムック『負の世界遺産』執筆。RKBラジオ、FM TOKYOで世界遺産特集出演。その他企業・大学広報誌等。

New articles

<旅論:たびロジー>

1.あなたは幸せですか?

.麻薬は悪? ゴキブリは汚い?

.裸とワイセツ

 

<エロス論:エロジー>

.遊びの本質

.おいしい、美しい、気持ちいい

.文化SM論

 

<絵と写真の話>

.アートと魂~抽象画とポロック

.ロスコの扉 ~ロスコ・ルーム~

10.写真と抽象芸術~グルスキー

 

<哲学的探究:哲学入門>

1.哲学とは何か?

2.「正しい-間違い」とは何か?

3.証明とは何か?

4.わかる・理解するとは何か?

5.力とは何か? 波とは何か?

6.物質とは何か?

7.見る・感じるとは何か?

8.空間とは何か?

9.時間とは何か?

 

<哲学的考察:ウソだ!>

.無と偶然

.ことだま-はじめに言葉ありき

10.物質とは何か?

11.神とは何か?-一神教と多神教

 

<世界遺産NEWS>

世界遺産のサンゴ礁、全滅危機

新登録のユネスコエコパーク

政治的対立が深まる世界の記憶

ゴミに覆われたヘンダーソン島

宗像・沖ノ島を巡る不安

 

<世界遺産ランキング集>

登録基準に見る世界遺産

世界の七不思議

国内集計の世界遺産ランキング

海外集計の世界遺産ランキング

世界遺産国別ランキング

 

<UNESCOリスト集>

日本の遺産リスト

無形文化遺産リスト

世界の記憶リスト

世界遺産リスト

ユネスコエコパーク・リスト

世界ジオパーク・リスト

創造都市リスト

 

<世界遺産の見方>

知性的鑑賞法

感性的鑑賞法

異文化理解の方法論

正しい・間違いの基準

星と大地と古代遺跡

 

<味わう世界遺産>

.王様のワイン トカイ

.命の水 テキーラ

.ポルトガルの宝石 ポート

.神の贈り物チョコレート

 

<世界遺産で学ぶ世界の歴史>

.宇宙と地球の誕生

.地球と火山活動

.大陸移動と世界の形成

.生命の誕生 先カンブリア時代

.生命の進化 古生代から新生代へ

.人類の夜明け

.戦争の時代 ~メソポタミア

.古代エジプトの繁栄

.インダス文明と古代インド

10.長江・黄河文明と古代中国

11.欧州巨石文化とエーゲ文明

12.古代ギリシアの繁栄

13.アレクサンドロスとヘレニズム

14.シルクロードとクシャーナ&漢

15.東南&東アジア,アフリカの古代

16.南北アメリカ大陸の古代文明

17.共和政ローマと帝政ローマ

18.ローマの平和、そして分裂へ

19.民族大移動と西欧の形成

20.東欧の形成とビザンツ帝国

21.東西教会の分裂と十字軍

22.イスラム教とペルシア・アラブ

23.イスラム帝国の分裂

24.イスラムの拡散-インド,アジア

25.アフリカの交易とイスラム教

26.隋・唐・宋の時代

27.北方騎馬民族とその周辺

28.モンゴル帝国の世界征服

29.オスマン,サファヴィー,ムガル

30.中世ヨーロッパの飛躍

31.修道院とロマネスク&ゴシック

32.イギリス・フランスと百年戦争

33.ハプスブルク家とレコンキスタ

34.大航海時代

35.ルネサンス

36.宗教改革

37.絶対王政とオランダの台頭

38.三十年戦争とイギリス革命

39.啓蒙思想とプロイセン、ロシア

40.明と清の繁栄

41.東・東南アジアの植民前史

42.産業革命とアメリカ独立革命

43.フランス革命とナポレオン

44.ウィーン体制と七月・二月革命

45.イタリアとドイツの成立

46.帝国主義と米英仏

47.アジアの衰退・植民地化

48.清、朝鮮、江戸の開国・滅亡

49.世界分割

50.第一次世界大戦

51.ファシズムと世界恐慌

52.第二次世界大戦

 

<世界遺産写真館>

1.文化交差路サマルカンド1

2.文化交差路サマルカンド2

3.アッパー・スヴァネティ

4.グラナダのアルハンブラ宮殿1

5.グラナダのアルハンブラ宮殿2

6.コトル

7.プレアヴィヒア寺院

8.福建の土楼1

9.福建の土楼2

10.フォンニャ-ケバン国立公園1

11.フォンニャ-ケバン国立公園2

12.カタルーニャ堂とサンパウ病院1

13.カタルーニャ堂とサンパウ病院2

14.オフリド地域1

15.オフリド地域2

16.古都京都の文化財1

17.古都京都の文化財2

Blog

Link

Search

Site map

○Travel[旅]

○World heritage[世界遺産]

○Art[芸術]

○Logic[哲学]

○Library[私的図書館]

○Profile[プロフィール]

○Work[仕事について]

○Inquiry[お問合せ]

○Blog[ブログ]

※本サイトはリンクフリーです