哲学的探究17.(再び)哲学とは何か? ~哲学の限界~

最初に物質が存在し、そこからぼくらの感性や知性が生まれているわけではない。

素粒子や遺伝子や脳や歴史があるから人が存在しているわけではない。

まったく反対で、人が存在しているから素粒子や遺伝子や脳や歴史といった仮説が生まれている。

 

科学が言うように世界が展開しているわけではない。

まったく反対で、展開された世界像に基づいて科学理論が導き出されている。

科学はこの現象世界の性格を分析するための体系であって、原理・原因についてはいっさい語る能力を持たない。

 

では、どうしたら人は真理に近づくことができるのだろう?

それが無理なのであればその理由は何で、知性の限界はどこにあるのだろうか?

 

前回までの結論を受け、科学との違いを念頭に知性の限界と哲学について考えてみたい。

 

* * *

 

■科学と哲学の違い

科学は事実を解明・構築する体系だ。

哲学は真理を探究する活動だ。

 

真理とは、人の認識とは別に認められる究極の理(ことわり)だ。

それはすべての原因であり、アリストテレス的に言えば「すべての物質の原因であり(質料因=家の場合なら木材やそれを構成する素粒子)、すべての形相の原因であり(形相因=家というものの形や概念)、すべての作用の原因であり(作用因=作用が生まれる方法・家を建てる方法)、すべての目的の原因(目的因=家がもたらす効果・建てた理由)」ということになる。

 

科学は事実をより詳細に解析し、より精緻な世界像を構築していく体系だが、哲学は事実の原因や事実を成立させている原理を探るものだ。

そして事実は客観であるところの「世界」と、主観であるところの「私」で構成されている。

したがってすべての哲学的な問いは世界の問題と私の問題に還元される。

 

真理を追究する際、人が使える道具はふたつしかない。

感性と知性だ(知性は悟性・理性などと呼ばれたりジャンル分けされることもある)。

 

感性で真理を探究する活動を芸術という。

知性で真理を探究する活動を哲学という。

 

基本的に、人は感性で世界を捉え、知性で統合して世界と私を表現する。

そして知性は論理によって成立し、言葉を紡いで思考を組み上げる。

 

世界を観察してその性格を明らかにする体系(科学)では真理に到達することはできない。

人が他にできることは、事実を組み上げているところの感性と知性の出所を明らかにすることだ。

 

「明らかにする」とは論理的に究明することを示す。

したがって感性と知性の原理・原因を論理的に究明することが哲学の目的であるということになる。

 

ここに感性と知性の主体である「私」の問題、「私とは何か?」という問いの重要性が立ち上がる。

 

* * *

 

■哲学の地平、知性の限界

哲学は論理を用いて真理を探究する活動だ。

しかし、この時点で哲学は科学と同様の欠陥を持ち、明確な限界があることが示されている。

 

科学は人の主観を排除して客観を追究しようと努める。

しかし、科学が観察によって担保されている以上、人の主観から逃れることができていない。

前回の結論だ。

 

同様に。

 

哲学は論理を用いて客観的な真理を探究する。

しかし、論理が人に内在しているものである以上、やはり人の主観を逃れられていない。

思考が主観的な活動である以上、主観を通してしか人は客観を捉えることができないのだ。

これは感性についても同様だ。

 

結局、人は袋小路の中にいることになる。

 

主観を通してしか客観を捉えることができず、客観には主観が最初から編み込まれている。

それでいて客観は確たる客観としか観察できず、主観の影響は観察されない。

この自己言及的なパラドックスは物質と時間の矛盾と同一のものだ(哲学的探究5~10を参照)。

 

人は空間を規定しながらその空間の内側にとどまらざるをえない。

人は時間を規定しながらその時間の内側にとどまらざるをえない。

人は論理で世界を規定しながら論理の内側にとどまらざるをえない。

 

こうしたアポリア(哲学的な行き詰まり)は結局、自己と世界を規定しつつ、自己と世界の内側にとどまらざるをえない存在が必然的に背負う「業」なのだろう。

 

世界を観察する科学は世界の性格を分析する能力しか持たない。

同様に、論理世界を考察する哲学は論理の性格、思考の性格、大きく捉えれば人の性格を分析する能力しか持たない。

 

人とは何か?

そして、私とは何か?

 

こうした問いが立ち上がりはするものの、その回答はすべて人の性格に属するものであって、人の原理・原因とは関係がない。

 

世界はすでに開闢(かいびゃく)してしまっている。

「私」はすでに生きられてしまっている。

 

遊んでいるゲーム内のルールでゲームの構造やゲームの外側を語ることはできない。

世界や私を動かす制度や論理で世界や私の原理・原因を括ることはできない。

 

感性と知性がすでに与えられてしまっている以上、感性と知性を駆使してそれらの起源を探っても真理には到達しない。

どのように考えを巡らせようと、真の原理・原因を探る方法はない。

そしてこうした理論もまた、知性と感性を使ったものである以上、不完全なものでしかない。

 

これが哲学の地平、哲学の限界だ。

 

* * *

 

■真理の言及不可能性と哲学の可能性

思考に限界があるということは、真理について人はまったく無知であることを意味している。

前回行った思考実験のシミュレーション人間が0や1のプログラムや神の存在、時間を自由に動かせる事実などをどうやっても知ることができないように、ぼくたちは空間や時間や論理を超えて何かを知覚することができない。

 

人の知覚の外で何が起こっているのかまったく知ることができない。

ぼくたちは「わからない」ということ以外に言えることがない。

 

いや――

知覚の外については言及さえできないのだ。

 

何ものかの存在は人が知覚しているこの世界の現象のありようで、「有」や「無」は現象の状態だ。

したがって現象世界を超えた「本当の世界」は「有」でも「無」でもない。

「本当の世界」は「ある」でもなく「ない」でもなく「ありかつない」でもない。

 

人は真理について、「本当の世界」について、語る言葉を持っていない。

沈黙するしかないのである。

 

* * *

 

次回以降、世界の問題を離れて「私」の問題を探究してみたい。

 


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